第十話『Lock, Stock and Barell(一切合財)』②
不治の病から生還を果たした女子高生の真琴は、後遺症で人の心が読める『読心』の能力を手に入れる。 家族や友人の心の声を聞いて傷つき、苦しむ真琴。 そんな真琴はある日、妖しく輝く月の下で謎の美少女アリオと運命的な出会いを果たすー。 今、魔女が暗躍する帝都に、再び魔銃『ブルトガング』の銃声が響き渡る。
ジリリリリリリ。
けたたましい警報が空中庭園全体へと響き渡った。
それまで、直立不動で動かなかったアスタロトがニーナを呼んだ。
「我が主、ニーナ・クルーニー。賓客がいらっしゃったみたいですよ」
「どうやら、そうみたいね♪」
ニーナが答えてからしばらくして……。
空中庭園へと続く通用口が、バアァン!! という音を立てて吹き飛んだ。
「ジャ、ジャーン♪ 悪魔の貴公子、セーレちゃん登場♪」
朗らかな声と共に、セーレが空中庭園の上空へと舞った。
続いて、アリオがゆっくりとした足取りで現れる。
アリオの姿を見た真琴は一瞬驚き、その眉根を寄せた。
「どうやら、警備員たちは足止めすら出来なかったようですね……」
落ち着き払ったアスタロトの声に、ニーナは傍らの真琴を見た。
「さあ、真琴……わたしの為に戦って♪ わたしの血を飲んだのですから、それなりに戦える筈よ♪」
ニーナの声が届くと、真琴の顔から生気が消えた。そして、その身体には光り輝く魔法の紋様が浮かび上がりった。
今の真琴はニーナの操り人形であり、『ニーナの為に戦わなきゃ』という意識が全身を支配している。
「さあ、敵わなくとも相手の戦力くらいは計って頂戴ね♪ お友達には協力するものよ♪」
真琴はアリオの進路を塞ぐように前へと進み出た。
「あなたの信じる道って『背眼の魔女』に跪く事だったの? ……自分が居るべき世界を捨てたのね……残念だわ」
真琴と対峙したアリオは冷たく言い放った。
ゆらり。
アリオのスカートが揺らめいたと思った瞬間だった。
真琴は懐にまで、アリオの侵入を許していた。真琴は目でアリオの動きを追えなかったのだ。
ドンッ!!
アリオは拳を真琴の腹部上方へと叩き込んだ。
みぞおちに背中まで突き抜ける衝撃を受けた真琴は激痛で悶絶した。一時的に横隔膜の動きが停まり、真琴は激痛と呼吸困難に襲われる。
真琴は胃液をまき散らしその場に蹲った。
アリオの一撃は真琴の戦意を根こそぎ奪っていた。それどころか、最早、真琴に戦闘続行は不可能だった。
アリオは感情の籠らない目で見下ろすと、その頸に手刀を一閃させた。
ガクンとその場に倒れ、気を失った真琴を確認すると、アリオは視線をニーナへと向けた。
「ニーナ……アンタが戦いなさいよ」
アリオの言葉に反応したのはニーナではなくアスタロトだった。
アスタロトが進み出ようとした時、セーレがアスタロトの眼前に舞い降りた。
「ちょっと待って♪」
アスタロトは足を止め、羽をぱたつかせるセーレを見た。その眼光は鋭く、攻撃色になっている。
「あのさ……。どうせなら『Lock, Stock and Barell』で決着をつけない?」
セーレはアスタロトの後ろに控えるニーナに尋ねた。
『Lock, Stock and Barell』
それは悪魔と契約した本人同士の決闘の事である。言葉通り勝者は全てを得るが、敗者は全てを失う。契約者が負けると、悪魔も同様に全てを失う為、悪魔の同意も必要とされている。
「アリオは構わないよね♪」
セーレが尋ねると、案の定、後ろから「構わないわ」という返事が返ってきた。
「さあ、どうする? アスタロト」
アスタロトは振り返りると、ニーナの返答を窺った。
「受けるに決まってるわ……。わたしは『背眼の魔女』、ニーナ・クルーニーよ。『Lock, Stock and Barell』を申し込まれて、断れる訳が無いじゃない♪ それに、可愛い悪魔ちゃんを手に入れるチャンスですもの♪」
「可愛いって言ってくれて有難う♪ じゃあ、決まりだね♪」
セーレはそう言うと指をパチンと鳴らした。
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