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Nothing But Requiem 背眼の魔女  作者: Nothing But Requiem
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第七話『不滅の宮殿』①

 不治の病から生還を果たした女子高生の真琴は、後遺症で人の心が読める『読心』の能力を手に入れる。 家族や友人の心の声を聞いて傷つき、苦しむ真琴。 そんな真琴はある日、妖しく輝く月の下で謎の美少女アリオと運命的な出会いを果たすー。 今、魔女が暗躍する帝都に、再び魔銃『ブルトガング』の銃声が響き渡る。

 アリオとセーレは結局、雅を救う方法までは教えてくれなかった。

 気紛れな魔女とそれに加担する父親を憎めば良いのか? それとも、事の真相を知りながら救済の手を差し伸べないアリオやセーレを恨めば良いのか? それすらも解らない。

 それでも、真琴は雅の元へと向かった。

 真相を知った今、真琴の足取りは重い。そんな彼女の胸中を不安がよぎった。

 嫌な予感は的中するものだ。

 雅の病室を訪ねると、ベットはもぬけの殻だった。看護師さんによれば、雅は容態が急変し集中治療室にいるとのことだった。

 真琴は慌てて集中治療室へと向かった。

 病棟を息を切らせて駆け抜ける。

 集中治療室前までやって来ると、そこには雅の両親が居た。


「あら、真琴ちゃん。来てくれたのね……」


 肩で息をする真琴に、憔悴しきった雅の母親が声をかけた。


「み、雅は……?」

「……」


 真琴の問いかけに答えられないでいる母親の肩を、傍で見ていた雅の父親がそっと抱き寄せた。


「真琴ちゃん……。雅は……。今日を乗り越えたとしても、もう長くは……」


 気丈にも父親がそう言うと、母親は「わっ」と、その場に泣き崩れた。


「そ、そんな……」


 真琴は動揺で手が震えた。

 目の前の景色が絶望で歪む。

 真琴は覚束ない足取りで、集中治療室の全貌が見渡せるガラス張りの窓の前まで歩いた。そこからは呼吸器を取り付けて横たわる雅の姿が見える。

 その時、真琴は確かに雅の声を聞いた。


──遊びたい。学びたい。恋愛がしたい。……もっと生きたい!!


 それは死線を彷徨う雅の叫び声だった。


「どうか神様……。ううん、悪魔でもいいから……雅を助けて……」


 窓に手を当てると、消え入りそうな声で真琴はそう呟いていた。


×   ×   ×


 真琴の願いが通じたのか、雅は一命をとりとめ、一般病棟へと移された。しかし、予断を許さない状況に変わりは無い。

 柔らかな月の光がベッドに横たわる雅を照らす。

 その淡く照らされる雅の寝顔を見て、真琴は雅が自分の知らないどこかへ消えてしまうのではないかという錯覚を覚えた。

 見入る真琴の視線に気づいてか、雅はうっすらと目を開けた。


「……どうしたの? 真琴?」


 何事も無かったかの様に、雅は真琴に話しかけた。しかし、その声には最早、以前のような元気は無い。


「どうしたのじゃないよ……。わたし、もう心配で……」


 真琴の言葉に精一杯の笑顔で頷くと、やがて、雅は意を決したように口を開いた。


「真琴……。わたし、あなたにずっと言いたかったことがあるの」

「何?」

「……わたしは真琴を親友だと思ったことは一度もないわ」

「え……!?」


 事ここに至って、雅は全力で真琴を否定しようとしていた。それは『死にゆく人間に真琴を関わらせない』『真琴の喪失感を和らげる』為の偽りの姿だった。


――余命の短いわたしにこれ以上真琴を巻き込むべきじゃない。


 と、真琴には雅の心の声が聞こえてくる。

 雅の偽りの拒絶は『読心』の能力を有する真琴の前では無力だった。


「わたしはね……。真琴が羨ましくて……妬んだの……。どうしてあなたは助かって、わたしは助からないの? って。ごめんね……親友が助かったなら、喜ぶべきなのに……。だ……から、こんなわたしの事は忘れて。もう、来なくていいから……」


 雅の優しさは刃となって真琴の心を抉る。

 真琴は必死になって気持ちを伝えようとした。


「なんでそんな悲しい事を言うの? 雅はいつもわたしの話に耳を傾けてくれて、弱気なわたしを励ましてくれた。雅が心からわたしの回復を喜んでくれた事……わたし、知ってるよ!!」


 真琴の双眸から大粒の涙がこぼれ出た。

 そんな真琴から雅はゆっくりと顔をそむけた。


「お願い……辛いの。真琴、本当にもう帰って……」


――行かないで。


 真琴には相反する雅の胸中の声が聞こえてくる。

 それは悲鳴だった。


──行かないで。

──行かないで。

──行かないで。


「帰って……。……お願い……」

「……」


 ついに真琴は言葉を失った。

 雅の本心を知っていても、真琴は雅がそう言う以上、帰るしかない。

 『行かないで』という親友の本心を知りながら背を向ける。これほど辛い事は無かった。どうせなら、雅に全否定されて傷ついた方がよほど楽だっただろう。

 真琴は、今ほど『読心』の能力を忌々しく思った事は無い。

 しかし……。

 『読心』の能力のおかげで雅の本音や優しさに触れることが出来たのだ。


「なんだこの矛盾。わたし、馬鹿みたい……」


 病室を出ると真琴は制服の袖であふれ出る涙をぬぐった。

 そんな真琴に雅の両親が声をかけた。

 両親は真琴と雅に気を遣い、二人きりにさせてくれていたのだ。


「雅はもう、今日、明日の命だとお医者様が仰っていたわ……。真琴ちゃん……迷惑じゃなければ、明日も雅に会いに来てくれないかしら……」


 泣き腫らした目で真琴を見つめながら母親はそう頼んだ。


「……ハイ」


 力なく答えると、真琴はその場を後にした。

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