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Nothing But Requiem 背眼の魔女  作者: Nothing But Requiem
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第六話『とある少女の失踪と記憶』②

 不治の病から生還を果たした女子高生の真琴は、後遺症で人の心が読める『読心』の能力を手に入れる。 家族や友人の心の声を聞いて傷つき、苦しむ真琴。 そんな真琴はある日、妖しく輝く月の下で謎の美少女アリオと運命的な出会いを果たすー。 今、魔女が暗躍する帝都に、再び魔銃『ブルトガング』の銃声が響き渡る。

「ようこそ……」


 玄関の扉が開かれ、現れたのは白髪で腰を屈めた老婆だった。

 老婆は年こそ重ねているが、かくしゃくとした動作で真琴とアリオを招き入れると、「水城丁子みずき ていこ」と名乗った。真琴とアリオも改めて自己紹介し、丁子の後に続いた。

 リビングへと案内される途中、真琴は廊下に飾られた頭飾りやお札、酒器といった骨董品を見かけた。どれも年代物のようで、大切に扱われているように見える。

 廊下を進む内に真琴は言いようのない郷愁を覚えた。この廊下がとても懐かしく、以前にも歩いた気がしてならない。

 何かの既視感だろうか?

 その既視感は強いものへと変わり、真琴は戸惑いを覚えてピタリと足を止めた。


「どうしたの真琴?」


 不審に思うアリオの声が聞こえてきた。


「え!? な、何でもないよ……」


 戸惑いを振り払うように答えると、アリオに続いてリビングへと入った。


「取り合えず、お掛けください」


 促されるまま真琴とアリオはソファに腰かけ、丁子と向かい合った。


「突然の訪問をお許しください。わたしたちは、未解決の失踪事件を調べております。孫のゆずりはさんが消えたときの状況を教えていただけますか?」


 そうアリオが切り出すと、抜け殻の様な丁子の身体に赤みが差し、その眼に生気が灯った。

 丁子は「未だに杠の事を気にかけてくれるのは有難い事です。何度も警察に話した事ですが……」と、その時の様子を語り始めた。


「杠は神隠しに遭ったのです」


 丁子の話によると……。

 丁子の娘夫婦は杠を残し、事故で他界していた。それから丁子は杠を引き取り、二人きりで暮らしていたのだ。杠と過ごす時間は平穏に過ぎていった。

 しかし、そんなある日……。


 庭で飼っていた犬が突然けたたましく吠えたので、二階で勉強していた杠が様子を見に行った。その時台所から、やかんでお湯の沸騰する音が聞こえたため、慌てて丁子は台所を見に行った。コンロの火を消した後、丁子が庭先を見ると、そこに杠の姿は見当たらなかった。


「不思議なのは……」


 と、丁子は続けた。


「わたしの記憶が確かなら……誰もお湯なんて沸かしていないはずなんです。ホラ、リビングからは台所が見えるでしょう? 杠が台所を使ったなら、絶対に気付く筈なんですし……」


 丁子に言われてその視線を追うと、リビングからは台所が一望できた。


「杠はずっと二階に居ました。そして、犬が吠えて見に行ったんです。わたしはここで編み物をしていましたから……。台所へ行って杠から目を離したのはほんの一瞬なんです。火を止めて戻ると杠が……」


 丁子が言うには、当時台所で火を使った覚えが全く無いという事だった。

 当時を思い出したのか、丁子の声はか細くなった。


「あの子は明るく、誰にでも優しい子でした……。誰かに恨まれるなんて事は絶対に無かったと思います……」


 丁子が話している間、真琴はずっと丁子の心の声を聴いていた。それは『どうして杠から目を離したのだろう』という、自身を責める強い悔恨の声だった。その声に居たたまれなくなった真琴は自然と丁子に慰めの言葉を発していた。


「丁子さんは何も悪くないと思います!!」

「え!?」


 驚き、声を上げて丁子は真琴を見た。隣ではアリオも目を見張って真琴を見ている。

 真琴は「しまった」という表情をした後、慌てて俯いた。


「す、すいません。余計な事を言いました……」

「……いいえ。いいのよ」


 恐縮する真琴に丁子は優しく声をかけた。


「有難う、真琴ちゃん。……もしかして、私の心の声が聞こえたのかしら?」

「あっ、あの……いえ、その……それは……」


 どう答えたらいいのか、真琴は言葉が見つからなかった。


「……気にしないで。……実を言うと、杠にも……人の心を読む能力があったのよ」

「えっ!?」


 真琴は身を乗り出した。

 『読心』の能力に苛まれる真琴にとって、同じ能力を有した同年代の少女が居た事は驚きだった。


「わたしたちは代々、『巫女』の家系で……。今ではその血が薄れてしまったけれど、杠には『巫女』の血が色濃く顕れていたの……。このご時世に『巫女』の存在なんて……、信じられないわよね」

「信じるわ」


 力強くアリオが答えた。


「廊下に有った骨とう品……あれは呪術や魔術に使われるものよ。普通は見かけないわ」

「よく知っているわね……」


 丁子は驚いてアリオを見つめていた。そして、それは真琴も同じだった。


「あの品々はわたしのおばあ様から引き継いだ物で、その効能は残念だけど知らないの……。それでも、杠は興味を惹かれたみたいで、よく眺めていたわ……」


 丁子は遠い過去を懐かしみ、目を細めた。


「……お話していただき、ありがとうございます」


 アリオはそう言うと深々と頭を下げた。真琴もアリオに習い、頭を下げた。


「こちらこそ有難う。もう誰も杠の事を気にかけていないと思っていたから……。杠の友達が遊びに来てくれたみたいで嬉しかったわ」


 丁子は笑顔になると、真琴とアリオを交互に見て言った。


「もし、杠さんの事で何かわかりましたら、ご連絡します」


 帰り際にそう伝えると、アリオと真琴は老婆の住む水城邸を後にした。


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