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Nothing But Requiem 背眼の魔女  作者: Nothing But Requiem
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第五話『背眼の魔女』①

 不治の病から生還を果たした女子高生の真琴は、後遺症で人の心が読める『読心』の能力を手に入れる。 家族や友人の心の声を聞いて傷つき、苦しむ真琴。 そんな真琴はある日、妖しく輝く月の下で謎の美少女アリオと運命的な出会いを果たすー。 今、魔女が暗躍する帝都に、再び魔銃『ブルトガング』の銃声が響き渡る。

 ゴア大陸とベルドラ大陸の間に位置するコル・マリア海峡。その海峡の島々に倭帝国は存在した。倭帝国は海洋国家であり、科学や魔導力学が発達した近代国家と言える。

 帝国の名が示す通り、政治は皇帝と貴族、市民から成る議会で行われている。皇帝は『君臨すれども統治せず』という姿勢を取っており、倭帝国は立憲君主制と言えた。そして、真琴の正当防衛や決闘、または仇討といった行為が憲法で認められる程、尚武の気質が強い。それは二つの大陸に挟まれ、常に他国の干渉を受けて来たからである。倭帝国は独自の文化と武力による自主自立を尊ぶ国家だった。

 今、その倭帝国の埠頭に黒塗りの高級車が数台、止まった。

 車から降りて来たのは壮年の男性とその護衛たちだった。


 港では曳船に巨大タンカーがえい航されている。その巨大タンカーには『片桐商事』と記されていた。

 強い潮の香りが鼻孔を突く。

 車から降りた直冬は忌々しそうに顔をしかめた。これから行われる『商談』を考えれば、胸が悪くなる。

 不機嫌な直冬に、取り巻く護衛たちも緊張の色が隠せない。

 しばらくして……。

 二頭立ての馬車が埠頭へと現れた。

 馬車は馬脚を揃えて直冬の前まで来ると止まった。

 ガチャ……。

 馬車の扉が開くと、直冬や護衛たちの顔が一斉に強張った。


「やっほ!! !! 直冬ちゃん、元気だったカナ?」


 甲高い声と共に馬車から降りてきたのはショッキングピンクのドレスに身を包んだ小柄な少女と長身痩躯の男だった。

 少女はつばの広い帽子を被り、革のブーツを履いている。アイラインで縁取られた大きな双眸に整った眉。少女はまるで可愛い玩具の人形の様だ。しかし、ドレスや帽子には至る所に『目』の紋様が描かれ、どこか不気味さを覚える。最も異様なのは、その『目』の紋様の中心で本物の『眼球』が蠢いている事だ。


「ニーナ・クルーニー様、お久しぶりでございます」


 直冬は少女の名前を呼ぶと、深々と一礼して見せた。


 『ニーナ・クルーニー』

 ニーナは倭帝国に隠然とした影響力を持つ『クルーニー財団』の総帥だった。幼い外見とは裏腹に倭帝国の政界や財界に顔が利き、フィクサーとしての一面を持っている。その正体は年齢が400歳を超える『背眼の魔女』と呼ばれる魔女であり、『後天性魔触症』から真琴を救った本人でもある。もっとも、ニーナが魔女である事は公然とした秘密であり、その話題に触れるものは人知れず消えてゆく。


「またまたー。直冬ちゃん、そんなに畏まらないでよ。ニーナでいいよ、ニーナで♪」


 ニーナは笑顔で言うと、太陽の光に目を細めて後ろを振り返った。


「アッシュ、やっぱり日傘を頂戴」

「畏まりました」


 慇懃に答えると、アッシュと呼ばれた男はニーナの頭上に日傘を掲げた。

 アッシュはすらりとした長身で、前髪をアシンメトリーにしたウルフカットをしている。赤のメッシュと左耳のシルバーの二連チェーンピアスが特徴的だ。黒縁の眼鏡をかけ、礼服をキッチリと着こなす姿は優美であるが、どこか冷たい印象を受ける。

 直冬はニーナもそうだが、このアッシュも苦手だった。

 その漆黒の瞳の奥で何を考えているのか、窺い知る事が全く出来ないからだ。

 魔女に使える不気味な男。と、直冬は思っている。


「やっぱりさ~。密談は埠頭でって相場が決まってるよね? 映画みたいに、いかにもな雰囲気で大好きなんだ~♪ 直冬ちゃんもそう思うでしょ?」

「は、はぁ……」


 返答に困った直冬は言い淀んでしまった。


「わたしが『そう思うでしょ?』って聞いてるんだよ?」

「え!?」


 急に体温を感じられなくなったニーナの声に直冬はギクリとした。


「ニ、ニーナ様のおっしゃる通りに思えます」


 慌てて答える直冬の額に玉の汗が浮かび上がる。

 ニーナはただの権力者ではない。ニーナはその魔女の能力で、倭帝国の裏社会に君臨している。ニーナの不機嫌や気紛れで消えた人間は多数、存在する。

 それにしても、権威や威厳に執着する直冬が恥も外聞も無く年端のいかない少女にかしずく姿は滑稽だ。その態度は真琴に対するものとは全く違う。


「でしょ~。直冬ちゃん、わかってるね♪」


 ニーナの言葉に直冬は胸を撫で下ろした。


「ところで……直冬ちゃんの娘さん……」

「真琴がどうかしましたか?」

「そうそう真琴ちゃん。わたしが身体をイロイロ弄ってあげたけど、その後どう?」

「……はい、順調に回復して、元気にしております……」


 娘の身体を「弄る」と軽々しく言ってのけるニーナに嫌悪感を覚え、直冬は短く答えた。


「そうだよね!! このわたし自ら手術したんだから、当たり前だよね♪」


 嬉々として語るニーナを見て、直冬の背筋に悪寒が走る。ニーナの笑顔が無邪気に笑いながら虫の羽や脚を引き千切る子供のそれに見えた。


「『今度、一緒に遊ぼうね』って、真琴ちゃんに伝えておいて♪」

「…………畏まりました」


 ニーナの機嫌を損ねる事を恐れる直冬はそう答えるしかなかった。

 ニーナは満足そうに頷くと、話題を変えた。


「直冬ちゃん、早速なんだけど資源はどんな感じ?」

「今回も魔導武装を扱える一級品の身体ばかりです」

「さっすが~!! 頼りになる♪」

「有難うございます」


 直冬がニーナと交わす取引……それは魔導武装を扱える人々の遺体を集めニーナに引き渡す事だった。戦死、病死を問わず、直冬はゴア大陸やベルドラ大陸から魔導武装を扱う能力者たちの遺体を集め、ニーナに渡している。それがどれだけ人道に反しているかは問題では無かった。何故なら、直冬には『断る』という選択肢が無かったからだ。断れば、直冬自身は死に、真琴は助かっていなかっただろう。

 ニーナは恐怖で縛るかと思えば、真琴を助け、温情ある一面も見せる。

 直冬はニーナに翻弄されるがまま、その貿易商としての手腕を提供し続けていた。


「それでは……」


 と、アッシュが会話に加わった。

 アッシュは受け渡しの手はずを直冬に説明すると、「ニーナ様、そろそろ……」と、促した。


「そうね。じゃあ、直冬ちゃんそろそろ行くわ。真琴ちゃんに、このニーナが『一緒に遊ぼう』って言っていたと、絶対に伝えてね♪」


 そう言い残すとニーナはピンクのドレスを翻し、颯爽と馬車に乗り込んだ。アッシュもそれに続く。

 直冬は苦虫を噛みつぶしたような顔で馬車を見送った。


「……狂った魔女め……」


 そう呟くと、直冬は自身の車に乗り込んだ。

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