8.女友達
カマナの一言
『我ながら会心のいたずらだった気がするよ。』
「えーと、みんな知ってるとは思うけど、今日はお知らせがあるわ。」
うちの担任の高嶋 陽子が心なしか疲れたような顔つきで言う。途端に教室内はざわつき、視線が俺に集まる。
「えっと…涼風くん? 来てくれるかしら。」
「あ、はい。」
ま、そうだよな。俺のことだろう。
重い腰を上げ、陽子の隣まで行く。すると、陽子はまじまじと瀬名の顔を見ながら眉間のシワをさらに濃くして、「マジなのね…」と呟いた。どうやら、実際に見るまではなかなか信じられなかったらしい。まあそれも無理はないか。
「ええっと…涼風…さん? のほうが良いのかしら。まあいいわ、とりあえず、涼風さんはこれから女子として登校することになります。皆思うことはあるでしょうけれど、よろしくね。」
頭が痛そうに眉間を押さえながら言う陽子。それにしても、やたらすんなりと学校側もそれを受け入れたもんだなと思った。
『うん、それは僕のせいだね。』
当たり前のように言うカマナに、つい眉がピクッと動く。
…どういうことだ?
『君、そんなに理解力は低くないだろ? 簡単な話さ。僕らの都合で女にしたわけだからね、これでそんなつまらない問題を起こしたくはないじゃないか。だから、学校側の認識を少しいじくらせてもらっただけさ。』
もうなんでもありじゃないか。ていうかそれ、願いの回数は使ってないだろうな。
『ああ、それは安心してくれ。僕が勝手にやったことだから減っていないよ。』
そうか、カマナにしては気が利くな。
『まぁね。僕、悪魔だし?』
よくわからないがそれは関係ない気がするぞ。そもそも、悪魔って気を利かせるような奴らなのか?
「涼風さん? 大丈夫?」
気付いたら、陽子が怪訝な顔をして瀬名の顔を覗き込んでいた。どうやら、カマナと話していたらぼーっとしていたらしい。
「あ、大丈夫です。すいません、ちょっと考え事してました。」
「そう、そしたらあなたからも言ってちょうだい。」
だから俺も前に出させられたのか。まあ、俺もいうのが普通だよな。いや、この場合の普通ってなんだって話なんだけどな。
「あー、えっと、なんか女になっちゃったんだけど、一応俺が涼風 瀬名です。まあ、それは気にしないで今まで通り普通に接してくれ。よろしくな。」
頭をポリポリとかきながら適当に挨拶をすると、パチパチとまばらな拍手を返された。流石にさっぱりしすぎたか。
「ん、ありがとう。もう戻っていいわよ。」
「あいっす。」
戻っていいと言われたのでとりあえず自分の席へ戻る。戻る途中にもチラチラと視線を感じた。今度は男子だけじゃなく女子からもだ。
「それじゃ今日も一日頑張って。解散。」
陽子はもう知恵熱で頭が痛いのか、適当に切り上げてそのまま足早に教室を出て行った。終わりが早すぎたせいでまだ1限まで時間が空いてしまったな。
どうするかな、寝るかな、なんて考えて机に伏せようと思った時、肩をトントンとたたかれた。
見れば、二人の女子が心配そうな面持ちで立っていた。一方はミディアムヘアの、いわゆるゆるふわ系といった感じ。もう一方はポニーテールの一見気の強そうな子だ。
「あ、あの、涼風くん?だよね?」
おずおずと聞いてきたゆるふわ系の子は桃瀬 澪。まあ見た目通り温厚な性格で、とても付き合いやすい。
「ん、桃瀬か。まあ、こんなになっちゃったけど、一応そうだよ。」
「えっと…大丈夫なの?」
眉を下げて心配そうに聞いてくるポニーテールの子は高宮 玲華。見た目の印象よりも、やっぱり人は中身だ。他人想いで、頼り甲斐のある姉御肌な性格。俺は高宮のことは割と高く評価していると思う。
「おう、どっか悪いわけではないからな。ひとまず困ることはまだあるけど、なんとかなるだろ。」
この二人とは男だった時もよく話していた。だから、俺が女になったといってもこうやって臆せず心配してくれるのだろう。
「でも、本当に涼風くん…なのね。話し方とか、そのまんま。」
「いや、そのまんまっていうか俺だからな…」
「ああ、いやそうなんだけど。あんまり信じられなくて。そんなことあるのね。病気とかなの?」
病気ではない。ていうか原因はわかりきってる。ただやっぱり、悪魔にやられたんだ!なんて言えない。多分そんなこといったらそっと距離を置かれて、最終的に村八分にされる。そうなったら流石の俺もやっていける自信がない。
「ん、いや、それが原因はよく分からないんだ。一昨日起きたらこうなっててさ。」
肩を竦めて、はは、と二人に笑いかけると、二人はより心配そうな表情を深めた。どこまでも優しい人達だ。
「そっか…でも、本当になんかあったら相談してね? ほら、女の子の先輩として? さ。なんか力にはなれると思うから。」
「大体、バカ梨のやつ、デリカシーってもんがなさすぎ。女なら見境なしって言われてたけど、流石にここまで……」
高宮が鋭い眼光を高梨に飛ばすと、見えない光線に射抜かれた高梨はビクッと跳ね上がっていた。
さっきのやり取りを見て、この二人は本気で心配してくれていたようだ。
「ああ、そう言ってくれるだけで嬉しいよ。何か困ったり悩んだりしたら、その時は…助けてくれるか?」
正直、そうやって親身になってくれる女の子がいるというのはとても心強い。本当は翔平にあんな目で見られるのはかなり嫌だったし、なんなら怖かった。というのも、一昨日から身体の動きや力が変わったり、物の見え方が一変したせいであらゆるものが恐怖の対象になりつつあったからだ。
今までは翔平の女好きも他人事のように見ていたが、いざそんな目を向けられると、同性だったからという理由以上の嫌悪感を味わった。力じゃ敵わない相手からの性的な目は恐怖以外の何物でもないんだな。
「もちろん! 任せてよ。それに、涼川くんなら女子のみんな…まあ少しくらいは元男子っていうことに嫌悪する子もいるかもしれないけど、私たちは涼川くんがいい人だって知ってるからさ。いつでも私たちを頼ってよ。」
やはり人徳は大事なんだな。情けは人のためならず、か。うん、先祖達はいつも俺たちに良い言葉を残してくれる。
「ありがとう、桃瀬、高宮。…これからもよろしく頼むよ。」
「うん、改めてこちらこそよろしく! せっかく友達になれたんだから、私のことは澪って呼んでよ!」
「なら、私のことも遠慮なく玲華って呼んで。」
人懐っこい笑みを浮かべて提案してくる桃瀬と優しく微笑みかけてくる高宮。カマナに、この女体化は一生だと告げられている。これからずっと女でいるのだとすれば女友達っていうのは必要だろう。男と女では友情は成立しないらしいからな…。今後も翔平みたいなやつが出ないとも限らない。篤翔は別だ。
「ありがとう、澪、玲華。俺のことも瀬名って呼んでくれ。涼風よりそっちのほうが呼びやすいだろ?」
「わかったわ、瀬名。」
こうして俺は、女子高生生活初日で二人の女友達を獲得した。会話がひと段落したところで、始業を告げるチャイムが響く。
「あら、もうこんな時間。それじゃあまたね、瀬名。」
「またあとでね、瀬名ちゃん!」
「ああ、またな、二人とも。」
お互いに手を振りあって、二人はそれぞれ自分の席へ戻って行った。
そして、一限目の現代文の教師が静かに教室へ入ってくる。いつものように始まった授業に、瀬名は微睡む意識をすぐに手放した。
最近また少女漫画を読みだしていますが、うわぁこんなのやらせたいなぁという視点が出てきてしまいました。そういうものなんでしょうかね?
「男子じゃなくなったけど、いつも通りでいいよね?」もよろしくお願いします!
よろしければ感想もお聞かせ願えたらなと思います!いつもありがとうございます✧◝(*´꒳`*)◜✧˖




