7.誤解
カマナの一言
『セナって、女になったらなったで女も惹き寄せちゃうんだね。』
「それじゃまたねお姉ちゃん!」
「先輩! また会いましょう!」
「ああ、またな。飛鳥、お前は授業中に居眠りするなよ。めぐ、すまないがこいつがちゃんとやってるかみてやってくれ。」
「も、もちろん! 先輩の頼みとあらば!」
そんなことを言って張り切る恵。どうして俺の頼みとあらばってなるんだと思い、思わず苦笑する。
「よろしくな。それじゃ。」
ひとまず、飛鳥はあの子に任せておけば大丈夫だろう。ひとまず俺も、はやく向かわないとな。
そうして瀬名は自分のホームルームの方へ足を向けた。
学年によってエリアが分かれており、ほかの学年の生徒がそこに立ち入ることはあまりない。また、他の高校に比べて生徒数が少ないこともあり、知らない生徒がそこに立ち入れば結構目立つ。まあ、理由はそれだけではないが。
視線を多く感じる。確かにこの姿でくるのは初めてだが、ここまで見られるもんか…?
『それはきっと、君が人間の中でうんと可愛いからだ。君だって、平々凡々な人間しかいないところに、モデルや女優が入れば目を奪われるだろ?そういうことだよ。』
急に出てきて力説してくるカマナ。誰もそんなこと聞いていないのにぺらぺらうるさいやつだな。
『……なんだい? 急に冷たくないかい? 僕、一応悪魔だけどちょっと傷つくよ?』
知らないな。少なくとも俺がお前ら悪魔に優しくする理由が見当たらない。
『それでも、願いを叶える権利を与えたじゃないか。』
お前が出来ることだけのな。大体、願いなんてどうでもいい。俺は普通に生きていきたいだけなんだ。
『ふーん、そっか。でもきっと、その生活も楽しいと思うよ?』
は? なんでそう思うんだ?
『ええ? いや、そりゃあ………いや、言っても面白くない。僕はここで黙秘を使用させてもらうよ。』
いつ手にいれた権利なのかもわからない権利を急に使い始めるカマナ。まあ、最初から聞けるとは思っていないからどうでもいい。
そして俺は、ある教室の前で立ち止まる。言わずもがな、俺の教室だ。その教室の扉に手をかけ、いつものようにガラッと開ける。
その瞬間、ざわざわと朝の喧騒で溢れていた教室が一瞬で静寂に包まれる。そして、一気に視線が瀬名に集まった。
『ねえ、セナ。君、こうなるの分かってただろう?』
ああ、わかっていたとも。だからこそ、俺はいつも通り来たんだ。だって……
「おはよう、瀬名。」
「ああ、おはよう、篤翔。」
俺には、こいつがいるからな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ええーー!? 瀬名なのか!?」
「だから何度もそう言ってるだろ。うるさいから耳元で騒がないでくれないか……」
ぎゃーぎゃーと喧しく瀬名の耳元で大声を張り上げて驚いているのは高梨 翔平。サッカー部の声張り担当みたいな奴だ。
『え….そんな担当あんの…?』
……例えだ。引っ込んでろ。
「まあ落ち着け翔平。こいつは間違いなく瀬名だよ。」
見かねた篤翔が助け舟を出す。
「なんで分かるんだよ?」
「んー……まぁ、親友だからな。」
「なんだそれ…」
「はは、そんなん理屈じゃないよ。俺が最初に見たときに瀬名だと思ったんだ。なら間違いない。」
…なんか聞いてるこっちが照れ臭くなってくるな。俺に言ってくれるのは嬉しいんだが、こう、人前だとな……
『え、何? もう独占欲とか出してるのかい?』
カマナのぷーくすくすといったお得意の笑いが聞こえてくる。
違う、そう意味じゃない。ただ単純に気恥ずかしいだけだ。
「え、でも瀬名、本当に可愛いな。ちょっと俺と付き合ってみない?」
翔平が訳のわからないことを抜かす。はっ倒してやろうかと思ったが、そういえばこいつは女好きで有名だったな。随分軟派な男と友達だったようだ。
「やめてくれ、どうして俺がお前なんぞと付き合わなきゃいけないんだ。」
「ええ? じゃあ誰ならいいんだよ?」
その瞬間、周りの空気が変わった。強いて言うなら、男共の空気。聞き逃してなるものかといった気迫が漏れている。それ、漏らしちゃったら意味なくないか。
そんなやついるわけないだろ、そう言おうとした時、それこそ文字通り悪魔の囁きが聞こえた。
『篤翔だよ。』
「篤翔……」
「「えっ?」」
………えっ? 待て、俺、今なんて……?
『あららぁ? つられちゃったねぇ?』
煽ってくるような声が聞こえる。
こいつ……っ! 俺に不利益なことは……っ!!
『いーや、これは不利益なんかじゃないさ。君はいずれ僕に感謝することになる。』
確信めいた口調と言葉に、瀬名は二の句が継げなくなった。だが、まだ納得しているわけじゃない。
お前……っ!
『いいのかい? 僕にムキになっていて。君の親友くんをみてごらんよ。』
ハッと、隣にいた篤翔を見る。彼は、顔を紅潮させて、面食らった表情をしていた。完全に誤解している。
「お、おい待て…違うんだそうじゃ……」
「え、おい、篤翔ならいいのか? いや、最初から瀬名って分かってたって言葉……そうか、もうお前らデキてんだな?」
弁明しようとする瀬名を無視して、翔平が確信に迫った名探偵のようなしたり顔で自分の見解をぶちまけた。なんにもカスっちゃいない。
「お前、いい加減にしろよ。」
流石にこれ以上は我慢ならない。これ以上俺のことで篤翔にも迷惑をかけたくない。なにより、篤翔には嫌われたくない。……いや、違う、そう意味じゃ……
『へーえ? 嫌われたくない。ねぇ?』
絶対にニヤニヤしてる。あのぶん殴りたくなる欲を無尽蔵に掻き立てるあのニヤケ顔だ。
お前もいい加減にしろよ。元はといえばお前があのとき俺にきっかけを植え付けたからこんな動揺することに…
『そっか、まだ気付いてないんだね。』
…? なんの話だ?
『いや? こっちの話さ。それより、君の親友くんのケアをしたほうがいいと、僕は思うな。』
またうまくはぐらかされた。こっちは心が見透かされている上に、向こうは手札を絶対に見せてこない。これは謀られたワンサイドゲームだ。
だが今は、カマナの言う通り、篤翔に弁明するのが先だな。
「その、違うんだ、篤翔。あれは、その、男の友達を思い浮かべたら篤翔が最初に出てきたっていうか…」
…あれ、これ弁明できてんのか?
「あ、ああ、いや、分かってる。分かってるよ。」
はははと乾いた笑みを浮かべる篤翔。
それを見た瀬名は、翔平をきつく睨みつける。
「あ、いや、ごめん…俺も言いすぎたな。」
翔平は怯えたようにそう言って、すごすごと去っていく。ようやく去った災難にはぁとため息をつく。
すると、背中をぽんぽんと叩かれた。振り返ると、篤翔が微笑みながらそこにいた。
「悪いな。少しびっくりしただけだ。翔平もいつもあんなだろ? 気にするなよ。」
そう言って、ちゃんと笑ってくれた篤翔に心底安堵しながら、大事な親友に微笑み返した。
ようやく学校に来ました!
さっそくカマナのいたずらが発動しましたね。
こうやって瀬名にじわじわと意識させていくんです………そしていずれ女にします……………いつかは未定………………
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