2.妹
カマナの一言
『厄介な人間を捕まえてしまった……』
俺は今ある部屋へ向かっている。何故かって? この女体化には問題が山積みだ。まずはその一つを解決するため、そこへ向かっている。
勢いそのままに、飛鳥の部屋と書かれた看板が下がっているドアを思いっきり開け放つ。
バーーーンッ!!
「たのもーう! 我が妹よ!」
「ぎゃああああ!? いでっ!? 何!? 誰!?」
その部屋の主は手に持っていた漫画を放り投げ、椅子からひっくり返ってそのまま落ちた。こいつはもう少し色のある叫び声が出せないのか。
「お前の兄ちゃんだ。見てわからないか?」
とりあえず、妹の本能に訴えかけてみる。面影とかは残してくれたのかどうかはわからない。まだ鏡で自分の顔も見てないから。てかそのまま自分の部屋から来たから。
「……? え、なに、怖いこの人…け、警察よばないと…っ!」
慌てて立ち上がって、机の上に乱雑に置かれたスマホを手をぶるぶる震わせながら探る我が妹。ああ、変わり果てた兄者の姿じゃ、妹は気づかないか。なんと情けない。まあ、普通あり得ないしわからないか。
「おい、待て。わかった、じゃあこうしよう。お前のBLコレクション棚の鍵の在り方を母さんに………ーーー」
「わあああああ!!! な、なんでアンタがそんなこと知ってんの!! やめて!!」
「お前の兄ちゃんだぞ? 知らないことなんてない。お前がどういうジャンルが好きなのかも…例えば…」
「うわうわうわ!! やめて!! ほんとにやめて!!」
顔を真っ赤にして涙目になって必死に懇願する妹。ようやく話を聞いてくれそうだな。
「よし、じゃあそこに座るんだ。話をしようじゃないか。」
すごい勢いで首をカクカク振る飛鳥。首が取れちゃわないか心配だな。
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お互い机に腰を落ち着けて向かい合わせになる感じで座る。飛鳥はひどく肩を強張らせている。なにしてんだ。
「まあ、いきなり言っても意味がわからないことは俺にも分かる。でも俺にはこうとしか言えない。俺がお前の兄ちゃんだ。」
「え、ええっと…本当におにぃなの? なんか、おにぃのいたずらとかで付き合わされてるとかじゃなくて…?」
「俺がこんなしょうもないいたずらするわけないだろ。それともなにか? そんなにお前のコレクションを母さんに………ーーー」
「わわわわ!! 分かった! 分かったから! それを知ってるのは確かにおにぃしかいないもんね…で、でも、それはおにぃに聞いても分かることじゃない…?」
…ふむ、そうか。確かにそれも一理あるな。じゃあ仕方ない。あの話をしよう。
「そうだな、あれは飛鳥がまだ小学5年くらいの時だったか。」
「…え、なに、急に。」
「あの日はなかなかに寝苦しい夜だったな。ちょうど俺とお前は寝る前に心霊番組を見てた。夏特有の肌寒くする納涼スペシャルみたいなやつ。覚えてるか?」
「……あの、何の話してるの?」
「お前はずっとトイレに行きたくて、でも真っ暗な中廊下を歩いてトイレなんて行けなかった。だから俺を起こそうとしたんだが、もう俺はぐっすり眠っていたんだったな。そんな俺を起こすのが嫌で、トイレに行くのを我慢して寝たんだ……そしたらお前、次の日の朝、どうなったと思う…?」
「え…ちょ、まって、もしかして……」
「あの朝、ひっそり起き出したお前はめそめそ泣きながら『おにぃのせいだからね!』って言ってたな。そう、その布団には黄色い日本地………ーーー」
「きゃあああああああ!!! わかった!! おにぃだって信じるから!! もうやめて!!!」
「そうそう、最初からうだうだ言わないで信じればいいんだ。」
「も、もういやぁ……」
泣きながら机に突っ伏した飛鳥のライフはすでにゼロだった。ま、これで第一関門突破だな。こじ開けた感じがあったが、気にしないことにしよう。
さて、何故妹から説得しにきたのかというと、今親が両方家を出てしまっているということもあるが、これからの身だしなみ、つまり服装などのことを聞きにきたためだ。女の子のことは女の子に聞くのが一番とはよく言ったものだ。
「いやぁ…でもおにぃ、なんかスタイルいいし顔も可愛いからなんでも似合いそうだね…」
「そうか、俺の今の顔は可愛いのか。」
「うん…でもよく見ればおにぃっぽいかも。」
「ふむ…カマナのやつ、面影は残しておいてくれたみたいだな。」
「ん? なんか言った?」
「いーや、こっちの話だ。」
流石にカマナの事は言えない。女体化は見た目だから、見ればまだ信じさせることもできるが、突然悪魔がー! なんて言っても白い目で見られるだけだ。実際、アイツもそう言ってたしな。
「うーん……おにぃ、あたしと身長とかバストとか、そんなに変わんないね。ていうかほとんど一緒かも。これなら、あたしの下着使えるんじゃない?」
下着か、女装癖はなかったが、今の自分はどっからみても女の子だ。ここはもう腹を決めるしかないだろうな。
「じゃあ、ちょっと合わせてみるよ。」
「んー、わかった。ちょっと待ってて。」
なんだかんだ適応してんな妹…。こうやって親身になってくれるとやはり助かるな。
「これ、ブラなんだけど、ちょっと着けてみてくれる?」
「どうやるんだこれ?」
こちとら健全な男子高校生だぞ。やれと言われてできるほど経験値なんてもってない。
「ええ? まずこことここに腕通して……そう、それで胸に当てて。うん……ホックは後ろにあるから、私がやるね。」
うん。うん。と、とりあえず言われるがままに着けてみる。
「おお……これは……」
うん、あるのとないので全然違う。ちょっと紐がすれるとかそういうのはありそうだが、ブラをしないとこの胸の重みで肩が凝りそうだったのが少し良くなった気がする。……ふむ、揉んだ時も思ったが、結構あるんだな。
「どう? キツくない?」
「いや、ちょうどいいな。」
「ならよかった。次は下だね。まあこっちは難しいことはないと思うけど…」
おすおずと渡されるパンツ。ほう、これが妹のパンツか…………うん、別になんとも思わなかった。履けといわれて渡されたのでひとまず履いてみる。
ズボンを脱ぐと、いつも一緒だった自慢のムスコがいなくて少し寂しい気持ちになるが、これも一期一会だ。と無理矢理自分を納得させた。
するっと履いてみると、ムスコがいたときとは違う、ぴっちりとしたフィット感。…ふむふむ……これも中々………
『お前さ、もうちょっとそういうのって抵抗ないの?』
すぐ隣にいつのまにかカマナが立っていた。
ーー抵抗だ? 今更なんだ、俺を女にしておいて。
近くに妹がいるので小声で返す。
『それもそうなんだけど……いや、普通もう少し抵抗あるもんじゃないのかなあって思って。』
ーー抵抗はあるぞ。俺だって17年間男として生きてきたんだ。でも、こうなった以上こうするしかないだろ。というか、お前もそれを望んでたんじゃないのか?
『……ま、当たらずも遠からずって感じだな……いや、むしろ逆か、遠からずも当たらずのほうが近いな……』
なんだか訳の分からない事をぶつぶつと呟いている。悪魔って虚言癖でもあんのかな…
ーーとりあえず、邪魔だから引っ込んでろよ。
『はいはい…じゃあまたね。』
そう言って、カマナは再び虚空へと吸い込まれていった。アイツ、思うことがあるたびにこうやって出てくんのか? だとしたら結構面倒だな…。
「おにぃ? 履き心地はどうなのー?」
「ん、ああ…中々悪くない。」
下着姿で堂々と仁王立ちする。側からみればただの痴女だ。妹の部屋でやっているので合法ということにしておく。字面だけ見たらヤバイ。
「ならよかった。とりあえず、あたしの何着か貸してあげる。今度一緒に色々買いに行こう。」
「ああ、すまないな、何から何まで……」
「ん、いいよ。おにぃも大変そうだしね…でも、なんでそうなっちゃったの?」
「あーー………いや、それは、まあ俺もよくわからないんだ。」
悪魔に女にされた。なんて口が裂けても言えない。いよいよ精神病棟あたりに移送されることになる。
「ふーん、まあそうだよね。いきなり女になるなんて知れたら、どこぞの研究所とか黙ってないだろうし。」
確かに…それもそうかもしれない…。今の時代LGBTが話題になって性の境が薄くなってきている。ちなみに俺はLGBTには肯定的だ。人の幸せの形は人それぞれだからな。まあ今したいのはそんな話じゃない。
この女体化という技術が確立すればLGBTという問題は一気に快方へ向かう。完全に解決とはいかないだろうが、幾分ハッピーになる人が増えるだろう。そう、俺という生贄によって……
じょ、冗談じゃない。こんな悪魔の契約で女体化した俺をどう研究したって解明なんかできやしないのに…ひとまず、公にはやはり女として生きていくしかないみたいだな。
するりと流れる冷や汗を感じた。ま、まあ、最悪あと二回の願い事もあるしな…アイツに頼るのは釈だが、どうにもならなくなったら使えばいい。
「とりあえずさ、今日はこのジャージ着てて。そんなブカブカの服着てたら変だから。」
「恩に着るよ。」
「いーえ! あ、そう、パパとママが帰ってきたら一緒に相談しよう。あたしも一緒に説明するから。」
なんて心強いんだ妹よ。俺は飛鳥みたいな妹を持てて幸せだ…
「あ、あとさ……これからはおにぃじゃなくて、お姉ちゃんって呼んでも…いい?」
………うん、それは何か違うな。
不定期と言いましたが、あれは毎日ではないかもなーって意味合いにします。今しました。
書きたいときに書いて出したいときに出します!
連載が二つ重なってしまいましたが、是非お付き合いいただければと思います。
感想などなどどんどんおくってください!泣いて喜びます٩(๑˃̵ᴗ˂̵๑)۶ °




