11.昼食
カマナの一言
『前回は僕の出番はありませんでした。最近セナが寝てたり篤翔くんの話で僕の出番ない気がするね』
現在は瀬名、篤翔、澪、玲華の四人で集まって昼食を摂っていた。篤翔は実質女3人の中で食べるのは少々憚られると遠慮していたが、「俺なんてほとんど男みたいなもんだろ?」という瀬名の言い分に根負けした。内心では「瀬名ももう十分女だよ」とツッコんでいたが。
「ええ!? 瀬名ちゃん家ってあの近くなの!? 実は私の家もその辺なんだ! なーんだ、実はすぐ近くにいたんだねぇ」
「そうなのか。世界は狭いな…まあ、それならいつでも遊びに来いよ。澪が来てくれたら、妹も多分喜ぶから」
「瀬名ちゃんって妹いたの? 瀬名ちゃんの妹なんて絶対可愛いよね。早く会いたいなぁ。おいくつなの?」
「もう高校生だぞ。ていうか、ここの一年として通ってるよ」
「そうだったの!? なんだ初耳だよ」
そんなこんなで実は瀬名と澪の家がご近所だったり、瀬名に妹がいることが発覚したりと色々な話をした。
ただ、女子のキャイキャイには篤翔はついていけず、あまり口を開かないでただ微笑みながら三人の話を聞いていた。正直なところアウェー感がある。
ふと気付くと、瀬名が篤翔をじっと見つめていた。首を傾げながら「どうかしたか?」と篤翔が問うと、瀬名は「相変わらずだな」なんて苦笑いしながら篤翔の口元に細くて滑らかな指を伸ばしてきた。そして、そっと篤翔の口元に触れると、「ほれ」と言って指先についたご飯粒を見せてくる。
「ん、ありがとう。全然気付かなかった」
「昔っからよくご飯粒とかくっつけてたもんな。最近なくなったけどさ、そういうとこ相変わらずだよな」
くくくっと愉快そうに笑うと、指先に付いたご飯粒をなんてことない顔でペロリと舐めとった。
実はこれは初めてのことではない。さっき瀬名の言った通り、篤翔の口元に何かがついたら瀬名は笑いながらそれを取って、「もったいないだろ?」と言いながらそれを食べていた。……まあ男同士でそんなこともそうはないのだろうけれど、小学校の頃からそうだったので、篤翔の中ではそう不思議なことでも恥ずかしいことでもなかった。
しかし今となっては、唾液に濡れた瀬名の舌がご飯粒を舐めとっているのは、単純に刺激が強い。しかもそれ、さっきまで俺の口についてたやつだぞ。
そんな篤翔の気も知らずに、自分の指を軽くちゅっと吸っていた瀬名に澪は少し顔を赤らめて尋ねた。
「え、瀬名ちゃんって…橘くんには前からそうなの?」
「ん…? まあ、そうだな。別にこれくらい普通じゃないか?」
瀬名の中じゃ普通。いつまでもご飯粒やらをくっつけていたらみっともないので取ってあげる。そしたら、それを捨てるのは流石に勿体無いのでそのまま食べる。なんらおかしいことはない。瀬名にとってそれは自然な流れだった。
「へー……私も口にくっつけてたら瀬名ちゃんがとってくれるのかな…」
「……いや、流石にそれは自分でやってくれ」
「女子にそんなことできるか」と半分自分を棚上げしたようなツッコミをしながら、空になった弁当箱をパタンと閉じた。そして、ちらと篤翔を伺いながら言う。
「篤翔も食べ終わったか? そしたら、弁当箱もらっちゃうよ」
「ああ、いつもすまないな」
いつものように弁当箱のやりとりをする二人。そんな様子を見て、澪と玲華はコソコソと「やっぱり付き合ってるようにしか見えないよね…」「あんまり言うと、多分瀬名怒るからやめなさいね…」といったやり取りをしていたが、二人が気付くことはなかった。
「あ、そうだ、瀬名ちゃん!」
急に澪が思いついたように口を開く。あまりに突然のことで、瀬名は「お、おう…?」と妙に狼狽ながら返事をした。
「せっかくなんだしさ、今日の放課後どっか寄り道していかない? 一緒になんか食べて帰ろーよ!」
「……澪、あんたそろそろ食べすぎで太―――」
「ね! 行こうよ!!」
玲華の忠告を途中で遮って威勢良く誘ってくる澪。そしてそれにやれやれと頭を抱える玲華。引き止めることは早々に諦めたようだ。
瀬名としては部活もやっていないし、放課後特に何があるというわけでもない。澪や玲華と交友を深めたいところでもあるので行くのは吝かではない。ただ……
そう思いながらちらっと篤翔を見る。するとぱっちり目が合い、篤翔がふっと微笑みかけてきた。そんな篤翔の顔を見ると、ドキッとしてしまい思わず顔を逸らす。
『あー、なるほどね? 篤翔クンとも一緒に帰りたいわけだ?』
人を小馬鹿にしたような声音で囁きかけてくるカマナ。なんだか妙に大人しくなったと思ったら急に変なこと言いだしてきやがって。
『でもさ、別にハズレってわけでもないんだろ? いいじゃないか、篤翔クンとは明日も明後日も明々後日も会えるんだ。それとも、何かい? そんなに一緒にいたいってことかい?』
くすくすと笑う声が聞こえる。確かに、大きく間違っているわけではない。ただ、一緒にいたいとかそういうことではなく、今までずっと一緒に帰っていたからどうなのかなと思っただけ。それだけだ。
『その割に、篤翔クンの笑顔なんかみてちょっとときめいていたじゃないか。ウンウン、セナもようやく乙女っぽくなってきたね』
……いや、それは半分お前のせいだろ。普通なら俺が篤翔にときめく道理なんかない。
『ふーん、そう。まあ、それでもいいんじゃないかな』
急に曖昧な返事を返してくるカマナ。大方話すのがめんどくさくなったのだろうとこのへんで脳内会話を切り上げる。いつまでも喋っていると、ただぼーっとしてる人になってしまう。
「えっと、篤翔はどうする?」
「俺のことは気にしなくていいよ。瀬名の記念すべきデートだ。俺に構わず先へ行け」
綺麗な笑顔でなぜか綺麗な死亡フラグを立ててくる篤翔。大体、この場合はデートとも言えないだろ。
「あ、そっか、二人はいっつも一緒に帰ってるんだっけ? 橘くんさえよければ一緒に行く? その方が瀬名ちゃんも嬉しいでしょ?」
ま、まあ、正直に言えば嬉しい。とはいえ、あんまりそんなところを表に出すのは恥ずかしいので曖昧に頷いておく。当の篤翔はといえば、
「いや、俺はいても邪魔になるだけだから、女の子だけで楽しんできてくれ。瀬名とはまたいつでも帰れるからさ」
そっか…篤翔来ないのか…と少しがっかりした自分がいたが、ふるふると頭を振って、すぐにその考えを霧散させた。なんでって? こんなのをカマナにいじられたら恥ずかしくてやってられないからだ。
『……ん? なんか呼んだ?』
頼む、今は出てこないでくれ。
夜は暑いのに朝はバッカ寒いのが続いています…お陰様で眠るときの格好に困っています…………
未だに日間ランキングにも載っていて嬉しい限りです。ここから多くの方に見ていただいて、私の作品に関して思うことや感想などが聞けたら嬉しいなと思います。
「男子じゃなくなったけど、いつも通りでいいよね?」の方もよろしくお願いします!




