異世界からの声
「怪談、ですか?」
大学の講義後、友人の境から怪談パーティーをすると電話がかかってきた。僕はあまりこういう類の話が好きではない。
「俺はやめとく。面白半分でするもんじゃないし」
「怪談話したら幽霊が寄ってくるとか」
「まあ、そんな感じ。それに前もサークルで怪談したって言わなかった?」
「したした。それから肩が重くてさ」
「余計にやめた方がいいよ。彼女も言ってる」
「彼女って霊感ある彼女?惚気は聞かねえぞ。じゃ、悪かったな」
境は急いでいるらしく電話が切れてしまった。確かに僕には霊感が強い友人はいるが彼女ではない。
「電話口でやめてって言ってる彼女なのに」
気になってその日の夜に電話をかけるが、一向に出る気配がしない。元々、僕より友人が多いため繋がらないことは珍しくない。しかし、心がザワザワした。
真夜中二時。電話が鳴り、目を擦りながら出ると画面には境の名が表示されていた。やっとかけてきたかとボタンを押すと無音が続く。
「境?」
「たすけて」
一言言って切れてしまった。何度かけても繋がらない。しかし、それは想定済みだった。電話に出たのは昼間に境と話している時聞こえた女性の声だったからだ。
あれから数日後、境は身体の不調で入院したが、原因は食あたりらしい。見舞いに行った時にはピンピンしていた。
「食あたりになるもの食べたかな」
「食い意地はってるし、そうじゃない?」
「気をつけてるっての。食べすぎるとアイツに怒られるからな」
「墓参り、僕も行くよ」
「ありがとう」
異世界の住人の話をすれば自然とついてくる。良いものもいれば悪いものもだ。
それにしても、パーティー前に食あたりで入院して良かった。
病院に置いてある新聞紙が目に入る。
『夜見沢市廃墟ビルで事故』
境が行く筈だったビルだった。