プロローグ:始まりの旋律
物悲しくも綺麗な旋律が、厳かな雰囲気が流れる神殿に響き渡る。物悲しいからこそ綺麗で、綺麗だからこそ物悲しい。絶妙なバランスで紡ぎ出される旋律。それはこの世の物ではないかのように美しかった。
旋律の主は、身の丈のゆうに二倍はある巨大な扉の前に佇む女性だった。ルビーの色をした真紅の右目と、サファイアの色をした蒼の左目。二つのオッドアイを混ぜたような濃い紫色に染まった髪が特徴的な女性である。彼女は両手で抱えられる大きさのハープを手にし、静かに歌っていた。悲しみを乗せたハープの音色に、高く透き通る声。ハープと歌が紡ぎ出す旋律はどこまでも美しく、聴く者の心に直接訴えかけてくる。
歌が終わり、ハープを弾く手が止まった。ハープを傍らに置き、彼女は巨大な扉の前に向き直る。扉には、真紅・蒼・漆黒・純白の宝石が散りばめられていた。彼女は自らの両手に視線を落とした。これから自分がしようとしている事。それはあまりにも大きな事だった。だが、もう引き返せない。全ては動き出しているのだ。
彼女は扉の前で深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。覚悟を決め、彼女が小さく何事かを呟くと、それぞれの宝石がゆっくりと点滅し始めた。点滅は段々と早くなり、やがて目も眩む程の光を放った。彼女はそれを見て、長い睫毛に縁取られた瞳をそっと伏せた。
「私にできる事はここまで。後はあの子達の可能性に懸けるしかない」
女性は凛とした声で言うと、再びハープを手に持ち、指を滑らせた。
「絶対に成功させて帰ってきて……」
それは、彼女のただ一つの願い。そして、彼女は再び歌い出す。先程よりも明るく、希望に満ち溢れた歌を。