召喚復讐委員会
初めて投稿します。不手際がありましたらすみません。
そこは、シンプルな白い壁で囲まれた部屋だった。
広さは20畳くらいで、壁際にはファイルや本が詰まった本棚が。部屋の奥には入口の方を向く形で木製の執務机が2つ並んでおり、その手前にはソファーセットがテーブルを囲むように並んでいる。
入口以外に扉は2か所あり、天井には丸く平らな照明が張り付いて白く不愛想な光を放っている。
そこここに花や小物を飾っているのに、生活感の全く感じられない部屋だった。
なぜ閉塞感を感じるのかと考え、部屋に窓が一つもないことに気付く。
「どこだここは」
思わずこぼれた声に驚く。
俺の声は、こんなだっただろうか。
それを言うなら、俺は、俺のことを「俺」と呼んでいただろうか。
俺の手はこんなにごつごつとしていたのか、目線もこんなに高かっただろうか。
そもそも俺は、なぜこんなところに立ってる。
いや、それよりも…。
「俺は、誰だ?」
その考えに至った瞬間、とてつもない悪寒に包まれた。
分からない。
自分の名前も、どこに住んでいたのかも、今の自分に違和感があるのに元の自分がどんなであったかさえも。
恐慌状態に陥り、口から何かが零れ落ちようとした瞬間、俺の前に2つの気配が現れた。
「「召喚復讐委員会へようこそ~」」
反射的に飛び退き、腰に手を伸ばして、そこに何もないことで我に返る。
「しょうかんふくしゅういいんかい…?」
意味の分からない単語を無意識に復唱し、先程までいなかった二人の少女をまじまじと見つめる。
燕尾服を改造したような格好で、丸みを帯びた膝丈のスカートをはいている。
蝶ネクタイはそれぞれ赤と黒をつけており、赤い蝶ネクタイの子はショートボブの闊達な雰囲気、黒い蝶ネクタイの子は肩の下まである髪を緩く右肩で束ねおっとりした雰囲気をしていた。
二人とも十代終わりくらいの年齢だろうか。
「まずはようこそ。『間島 悟』さん」
赤い蝶ネクタイの子がそう言った途端、俺は「俺」を思い出した。
そう、俺は間島悟。
都内の普通の高校に通う、普通の高校生だった。
ネット小説のように、ある日異世界召喚され、勇者としてチートをもらい、その世界の仲間とともに魔王討伐の旅に出た。
慣れない戦いに命の危険にさらされることは何度もあったが、仲間と協力し乗り越えてきた。
20年近くかけ、世界中に蔓延っていた魔族を倒し、ついに後は魔王一人を倒せばすべてが終わる、その時に俺は仲間の手で殺された。
それこそネット小説によくあるように、「異世界人に手柄を渡さない」ために。
仲間と信じていたやつらの馬鹿笑いが頭の中に響き、死ぬ間際の苦痛と憎悪が再び俺を捕らえようとした時、パンっという破裂音が部屋に響いた。
我に返った俺の目の前で、手を打ち鳴らした黒い蝶ネクタイの子が笑顔で口を開く。
「初めまして、間島さん。私はアシュリーと申します。他者の意識・記憶に干渉できる能力を持っております。」
「私はシェリアです。過去や現在の情報を読み取り、他者にも見せることのできる能力を持ってます!」
「……能力」
2人の自己紹介に、俺は無意識につぶやきを漏らす。
2人はそのまま話を続けた。
「間島さんが召喚された世界は、もともと生産の領域を管理する各種族と消費を担当する人族によって循環し、成長する世界でした。」
「生物が生きることで生まれた負の感情は、放置すると増幅し生産領域を阻害するため、凝集して形を与え、それをその世界に生きるものが倒すことにより浄化するシステムがありました。」
「しかし、数を増やした人族が他の種族の領域を侵略することにより世界はバランスを崩しました。」
「急速に溢れた負の感情は、より強い魔族を生み出すようになり、その世界で生きるものの手に負えなくなりました。」
「人々は絶望し、希望を求め祈りました。」
「絶望からは魔族や負の感情を管理する魔王が、祈りからは人族に都合の良い神が生まれました。」
「神は人々の祈りを聞き届け、魔族を滅ぼすものとしてあなたを召喚しました。そしてあなたは、勇者として魔族を倒していきました。」
「しかし、魔王を倒す前にあなたは殺されました。つまり、人々は自分たちが『魔族を滅ぼすもの』を望みながら、それを達成される前に排除したことになります。」
「神はそれを、『人族が自らの滅亡を選択した』と解釈しました。」
「人の祈りを叶えるために生まれた神は、その解釈に従い人族を滅亡させました。」
「生産領域は人族に荒らされ、人族以外の種族はもともとほぼ残っていませんでした。」
「そうしてかの世界は、生きるもののいない世界となりました。」
「……魔王は、どうなった」
しぼりだした俺の声はかすれていた。
「魔王と、そして神も、自らを生み出し存在意義となったものがなくなれば、あとは滅ぶだけでした。」
2人の笑顔に困ったような、呆れたような感情が混ざる。
「私たちがそうして滅びを待っている時、『世界の管理者』と名乗る方が現れました。」
「その方が言うには、近頃『異世界召喚』が多発しており、それにより数多ある世界のバランスが危うくなっているそうです。」
「特に、私欲にて召喚され使い潰された方々の恨みはすさまじく、時空すらも歪ませるほどだとか。」
「そこで、ある意味『異世界召喚』と関わりの深い私たちに白羽の矢が立ち、それらの恨みをできるだけ昇華し、召喚主側には召喚によって生じた歪みに対する対価を払わせる、という新たな役目が与えられたのです。」
「もちろん、世界存続のためやむを得ないと判断される場合や、召喚された側に非がある場合はその限りではありませんが。」
混乱を極めていた俺の頭は、徐々に冷静さを取り戻しつつあった。
「つまり、お前たちは俺の復讐に手を貸してくれる、ということか?」
それに対する答えは、あまりにあっけらかんとしていた。
「あの世界は、さっきも言った通りもう滅んじゃってるので、それはムリです。」
「あなたをお招きしたのはむしろ、神や魔王として大した経験もなく、知識も偏っている私たちに、第三者的視点でアドバイスを下さらないかなーというスカウトです。」
「あなたの勇者活動を見守ってたけど、まじめだし面倒見が良かったしね!」
「せめて、このお部屋の何がおかしいかだけでも教えていただけませんでしょうか。『管理者』の方がこのお部屋に来るたびに変な顔をなさるのです」
何でもない風に話しているが、彼女たちの瞳の奥に俺に対する申し訳なさがあるのを見つけてしまった。
おそらく彼女らは、俺がここで彼女らを殺そうとしても、無抵抗で受け入れるのだろう。
確かに彼女らがいなければ、俺は異世界召喚されずに済んだはずだ。
あの世界にいた存在で残っているのは、彼女らだけだ。
だがその一方で、あの世界の奴らが、彼女たちがいなければ召喚を諦めたかというと、俺はないと断言できる。
そしてあんな世界でも、魔族を倒すことで感謝してくれた人々もたくさんおり、その笑顔が喜びだった自分がいたことも自覚している。
だからこそ。
「とりあえず、壁にかけてある『葛根湯』の掛け軸と、ソファにでっかいマシュマロ敷くのはやめろ。他にもいろいろあるが、まずはそこからだ」
「えー!?なんかそれっぽい言葉あったよね!?ワビサビだよ!?」
「マシュマロは、クッションとして最高の素材だったのではないのですか!?」
「『枯山水』な。景色というか、庭の様式の一つな。あと、クッションで好まれるのは『マシュマロのような』素材であって、マシュマロそのものではない。」
恨みよりも突っ込みが先に来るようなこいつらと、もう少し付き合うのも悪くないかもしれない。
たぶん続きません。「俺たちの冒険はこれからだ!」な感じです。




