○に○する1時間前
伊織に連れられて『れんげ屋』を出ると、見知らぬ裏路地に出た。慣れたように進む伊織について行くと、何度か来たことのある池袋の大通りが見える。
「凄い良いところに事務所構えてるんだな」
久々に見た外の景色と人の群れに、少し困惑しながら言うと、伊織も辺りを見渡している。
「いえ、れんげ屋の扉は何処にでも出られる様に時空が歪んでるんですよ。蓮華さんのおおよその勘で消失が起きた可能性の高い所に出口を設定したんだと思います」
もう何を言われても驚くまい。
だんだん慣れてきた自分が嫌になるが。
「へー、そりゃ凄い。でもジゼルさんは検討もつかないって言ってなかったか?」
「ジゼルさんは感知する能力はあっても、それだけですからね。蓮華さんは言の葉の守人としての能力があるので、おおよその検討もつけられるのです。半妖なので本物の妖のように的確に当てることはできませんが」
「なるほど。じゃぁここからはオレと伊織さんの肉体労働ってわけか。でも、原因となった人は前のオレみたいに、質量のある霊体なんだろ?どうやって大勢の人間から探し出すんだ?」
「それは蓮華さんの人形になった瞬間に付与されてる能力ですね。言葉では伝えにくいのですが、見ればわかります。
ちなみに蓮華さんの人形には、原因の人物が見える以外に1つ特殊な能力が付いているんです。ジゼルさんの場合は様々な感知、僕の場合は物体や人物問わずの変化ができます」
その言葉に驚いて伊織の方を見ると、そこには幼くなってしまった可哀想なオレの姿があった。
「こんな風に」
オレの姿をしたそれは、声が伊織だった。
そして目にも止まらぬ速さで元に戻る。
「凄いな。オレにはどんな能力があるんだ?」
少しわくわくしながら伊織に聞く。
「そう言えば、蓮華さん何も言ってなかったですね。いつも説明の序盤で言うのに」
あの幼女め。そんな大切な説明も無しに実践へ放り込んだのか。
まぁ突然言の葉が消失したのだから説明する暇もなかったのだろう。
原因の人物を早い所探し出してオレの能力を聞きたい。そしてそれで遊びたい。
「そんじゃ、早い所探しちまおうぜ」
そう言って、伊織を待たずに先へ進み、曲がり角へ差し掛かった所で、体が跳ね飛ばされた。
ーー1時間前ーー
はぁ、退屈。
友達に連絡しても誰も出ないし留守電にもならない。
LINE送っても返ってこないし。マジでみんな付き合い悪すぎるんですけど。
流行りに敏感で見た目も悪くない。悪くないと言うより、努力で手に入れた。
肌のケアにも気を使って、体重が500グラム増えれば泣きそうになる。
しかし目下の悩みは肌でも体重でもなく、友達の花恋や鈴華だ。
最近彼氏が出来てから付き合いが悪い。
ストレス解消したけど、ショッピングも、どこかカフェに気軽に入るほどにも、財布の中身は潤っていない。
当てもなく彷徨っていると、ショーウィンドウに可愛い服が飾ってあった。
それに目を奪われながらも、どうせ買えないのであてもなく進む。
突然体に衝撃が走り、大きく尻餅をつくまでは。
ほんと、最近上手くいかない事ばっか。