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妖狐のドールと言の葉の消失  作者: 三千院絵譜
4/15

蓮華と伊織、なれない体

目が覚めると、何度も見た天井のシミはなかった。


ぼんやりとした感覚の中で、頭を横に向けると、誰かが椅子に座って本を読んでいるのが見えた。


妙に整った顔の男だ。そもそも整いすぎていて、男か女か分からない程だが、男の勘だ。こいつは男で間違いない。


容姿をより分かりにくくしているのは、長く伸びた髪を束にして折り曲げ、頭の後ろで留めているからかもしれない。

あれは何て名前なんだろう?片眼鏡?

漫画とかでしか見たことがない。


オレがずっと見ていたからか、不意に男と目が合った。


「ずっと見つめられても困ります。僕に惚れたんですか?申し訳ないのですが、僕にそっち系じゃないですよ。美しいからよく間違われますが」


その言葉に呆然とする。こいつ自覚してやがる。


「安心しろ。オレにもその気はない。ところで、ここ何処だ?」


そう聞くと、成る程。といった顔をして、本を机の上に置き立ち上がる。


「そのことにつきましては、説明が御座いますので少々お待ちを」


そういって部屋から出て行くと、扉の向こうでイケメンが誰かを読んでいるのが微かに聞こえた。


再び扉を開けてイケメンが入ってきた。

先程と違うのは、そのとなりにイケメンの腰元までしかない身長の着物姿の少女がいることだ。


イケメンが元いた椅子に腰掛けると、少女はオレのすぐ側までてくてくと歩いてくる。


オレをまじまじと見つめる少女は、手に持った扇子を広げ口元を隠す。


「あまりにも目を覚まさぬから魂の定着に失敗したかと思ったわい。昇天する寸前じゃったからの」


魂?定着?昇天?

オレの頭が疑問だらけになる。

そんなオレを見て察したのか、少女が赤い宝石の様な瞳の目を薄める。


「ぬし様、名は何と申す」


「オレは.....オレの名前は獅童麿由利しどう まゆり


「ふむ。獅童か。猛々しいの。麿由利という名はいささか女子おなごの様じゃが」


この幼女、人が気にしている事を悪びれもなく突っ込んできやがる。

しかし相手は年端もいかない子供だ。オレが大人になろう。


「そうかな?お嬢ちゃんは何てお名前なの?」


オレが精一杯の作り笑いで尋ねると、薄めていた目をまん丸にして肩を震わせている。


「お、おじょ、お嬢ちゃん」


それを見ていたイケメンが口に手を当てながら、少女と同じ様に肩を震わせている。

それに気づいた少女は目を吊り上げながらイケメンを睨みつけた。

そして小さく咳払いを一つ


わらわよわい250を超えておる。二十歳そこらのぬし様にお嬢ちゃん呼ばわりされる覚えはないわい。小童こわっぱが」


は?250歳?

今はそういうアニメが流行ってるのかな?


「妾の名は神崎蓮華かんざき れんげじゃ」

蓮華ちゃん.....いや、ここは設定通り蓮華さんにしといてあげよう。なんたって250歳だからな。

蓮華さんが名を告げると、イケメンがオレに手のひらを向ける。

「僕の名前は一色伊織いっしき いおりだよ」


名前までイケメンかよ。

一色が名乗るのを待っていたのか、次は蓮華ちゃんが口を開く。


「ぬし様よ。魂の定着が成功しとるのか確認したい。立ち上がって見せよ」


言葉の意味は分からなかったが、言われるがままにベッドから立ち上がる。

すると、異様な感覚に陥った。

違和感の元は、周りを見渡す事ですぐに理解した。

視線が低すぎるのだ。部屋の扉も、目の前にある本棚も。かろうじて蓮華さんは少し視線を落とさないと目線が合わなかったが。

本棚の隣にある大きな鏡を見て驚いた。


そこには、高く見積もっても中学の高学年くらいにしか見えない誰かが写っている。

もちろんその誰かと思いっきり目が合っているのだが。


「昇天する寸前でぬし様の才能に気づいて人形を準備したからの。そのサイズの物しか準備できんかったのじゃ。やはり覚えてはおらぬか?ぬし様が自らの命を絶ったことも、質量を持つ霊体として動いていたことも、粒子になり昇天する寸前だったことも。」


それを聞いて全てを思い出した。

自分で命を捨てた締まりの悪い最後と、不思議だったその後の事も。意識が朦朧とする中、最後に見えた着物姿の少女が蓮華さんだった事も。

そして気付く。今この現状は限りなくありえない現実である事を。


「何が....オレに何が起きたんだ」


「思い出した様じゃな。ならばよい。事の発端と顛末、そして今、ぬし様が置かれている状況について説明するかの」

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