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妖狐のドールと言の葉の消失  作者: 三千院絵譜
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期待を持てる魔法

それ以来、毎日の様に図書室へ通い彼との距離はどんどん縮まっていった。

そんな毎日が二ヶ月程経ったある日、彼から休日に合わないかと提案された時は嬉しくて、帰り道も帰宅後も誰にも聞こえないくらいの小さな独り言を呟き続けた。

そして約束の日の帰り際、彼から告白されて初めて彼氏ができた。

その日からは毎日が幸せで、交わす言葉や彼の仕草、その全てが愛おしく大切な思い出になっていった。

そして更に二ヶ月たった頃、相変わらず教室には居場所がなく読者で時間を潰していると、同級生三人が私の席を取り囲む。


「ねぇねぇ、神崎さん。3組の甲本君と付き合ってるんでしょ?」


明良君の名前が出てきて驚く。

私も明良君もあまり目立つのは好きなタイプでなかったので、学校で一緒にいることはあっても周りの誰かにそれを公表してはいなかったのだが、恋愛に生きている様な彼女達の情報網は凄いのだろう。

前の席の主はどこかに行っている様で、そこに三人組の一人が座る。シャツのボタンはギリギリの所まで開けてあり、下着が見えてしまうのではないかと思った。が、案の定座る時に前屈みになった瞬間普通に見えた。恥ずかしく無いのだろうか。


「はい....」


公言はしていなかったが、特に隠しているわけでも無いので正直に答える。私が肯定すると、目の前に座っている子が他の二人に「ほら、やっぱそうでしょ?」

と言うと、他の二人は「マジだ。ちょー意外」とか言っている。

何だか冷やかされている様な気がして、やっぱり言わなきゃ良かったと思う。


「もう、いいですか?」

私が再び本を開こうとすると、座っている彼女が本を奪い取りそれを拒む。


「ごめんごめん。怒った?冷やかしてるわけじゃないんだって。噂で聞いたから二人に教えたらさ、恋愛とか興味無さそうな感じだし嘘じゃない?とか言うから。私はさ、好きな人をちゃんとゲットした神崎の事凄いと思ってんだから」


分かり合えない。この輪の中には入れない。

そう思っていた人達から理解してもらえた様な気がする。


「ありがとう...ございます」


「で?甲本君とはどこまで行ったの?」


どこまで?

一番遠くまで明良君と出かけたのは千葉の遊園地だっただろうか。


「千葉かな?」


少し考えてから答えると、彼女達が顔を見合わせる。


「いや、そうじゃなくてさ。キスまでとか、もうヤッてるのかって聞いてるの」


それを聞いて自分の勘違いに気がつき、顔が赤くなっていくのが分かる。


「そんなの、まだです」


「まだかー。神崎もさ、私達みたいにちょっと派手にしてみなって。女の色気ってゆーの?甲本も男だしそっちの方が喜ぶって」


彼が彼女達みたいなのを好むだろうか?

私の家でテレビを見ていた時に、いわゆるお嬢様系の芸能人を見て「この人凄く可愛いよね」とか言ってるのを聞いた事はある。

だがクラスの男の子達が漫画雑誌を学校に持ち込んでグラビアページを読みながら騒いでるのをよく見かけるし、私自身特にその事に関して不快になるわけでもない。

年頃なんだし、むしろ年相応だと思う。

明良君が実はそういう物を見ていたりしても何も不思議じゃない。


「私はみんなみたいに発育が良いわけじゃないし」

彼女のあまりに開きすぎたブラウスの隙間に目をやりながら答える。

大人びて見られはするものの、いわゆる女性としての体つきはまだできていない。


「そんなのさー、テクの問題だって。神崎さん髪の毛とかも綺麗だし絶対可愛くなるってー」


私の隣に立っている子が私の髪の毛を触ってくる。


「いや、でも、知識とかもないし。やっぱり無理です」


流行りの服装もわからないし、メイクなんてした事もない。髪の毛も伸ばしたままで特に何も無し。

流石に明良君との初めて出かける前の日には本屋でファッション誌を立ち読みしては見たけど、基本的な知識もないので応用なんてわかるはずもなかった。


「いや、知識ある人間ならここに三人いるじゃん。今日さ、学校終わったら街行こうよ」


思いがけない提案だった。彼女達も私がクラスの誰とも打ち解けていないことくらい理解しているだろう。

それでも彼女達は手を差し伸べてくれている。灰色だった私の世界が少しだけ、彼女達の艶やかなメイクの様に色めき出した気がする。


授業が全て終わると、彼女達は半ば強引に私を引き連れて街へと繰り出した。


・・・・・・・・・


帰宅するとベッドにそのまま倒れこむ。

あの後、彼女達に連れられて服を見繕ってもらい、そのあとはメイク用品を買って、ゲームセンターのプリクラコーナーに併設してあるメイク直しや身だしなみを整える為のテーブルで講座が始まった。

意外にも彼女達はまったく知識の無い私に対して一から丁寧に教えてくれた。物凄い知識量で、人生が違えばこうも知識の方向性が違うのかと感心する。


このまま眠りについてしまいたいが、明日は明良君と約束があるので、気力を振り絞り立ち上がるとパジャマを待って浴室へ向かう。

洗面所の鏡に映る人物に少し驚くが、数時間前にゲームセンターの鏡で見た顔だ。

人はメイク1つでこうまで変わるものなのだろうか。鏡に映る自分は、いわゆる今時の女の子だ。

彼女たちは日頃ヘアーアイロンを持ち歩いているようで、背中辺りまである私の髪を巻いてくれた。くるくると跳ねて軽やかで、伸ばしっぱなしで重い雰囲気だった髪型に透明感がある。

彼女達の講義は少し面倒に思っていたが、元々知識を得ることが好きな私としては知らないことばかりだったので意外と真剣に聞いて覚えた。


せっかく覚えた知識だ。明日は早起きしてメイクと髪の毛を少しだけ整えてみようと思う。

シャワーを浴びていると、髪の毛のくるくるが真っ直ぐになっていく。まるで魔法が解けていくみたいだ。


明日、彼はどんかリアクションを見せてくれるだろう。

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