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妖狐のドールと言の葉の消失  作者: 三千院絵譜
11/15

胸チュン

退屈だ。本当に退屈。

退屈すぎて死ぬかもしれない。

約束は潰れるわ人にぶつかって尻もち着くわ。不幸が重なりすぎてる。


かれこれ3時間はこの大通りを行ったり来たりするだけ。お腹も空いてきたしそろそろ家に帰ろうかな?

高校進学の際、家から遠くなったこともあり今は狭いアパートに1人で住んでいる。

だから家に帰っても誰かが待ってるわけでもないんだけど。


家路に着こうと、駅に向かう途中で、誰かが道脇に屈みこんでいた。

特に興味があるわけではなかったが、なんとなく視線を送りながら通り過ぎようとすると、その人物はどうやら捨て猫を撫でているようだ。


「よしよし、可哀想にな。オレが拾って育ててやるから。安心しろ」


そんな言葉が聞こえてきた。

今どきなんて心の優しい人なのだろう。私もどちらかと言えば猫派だが、アパートで飼っていいわけもなく、何度か道脇で捨て猫を見たことはあっても目を合わせないようにしていた。

だんだん興味が出てきて、その人物を少し離れた場所から見ていると、再びの遭遇に驚いた。さっき私とぶつかった少年だ。


「君、さっきの子だよね?」


思わず声を掛けてしまった。

すると、少年はニヤリとしながらこちらを振り向く。なんか、気持ちわるい。


「あ‼︎さっきの綺麗なお姉さん。奇遇ですね」


猫を抱えながら少年が近づいてくる。


「拾ってあげるの?お家の人に怒られない?」


近くに母親や父親らしき人もいないので、おそらく1人で決めたのだろう。

一軒家なんて大して珍しいわけではないし、マンションなら場合によっては動物を飼っていい場合もある。

しかし駄目な所の方が多いはずだ。


「でも、この子一人ぼっちだし。可愛い子猫ちゃんを見捨ててはいけないからさ。可愛い子猫も女性もね」


.....流石にだっさ。

中学生ってこんなもんだったっけ?

まぁ、こんなもんか。


「そっか、優しいんだね。じゃぁ、気をつけて帰るんだよ。またねー」


辺りも少し暗くなってきたので、少年に注意を促して駅へと向かう。

少年が驚いた顔をしていたが、よくわからない。

こうして再びの再会を果たし、私の一日は終わるのだった。



ーー20分前ーー

伊織と蓮華さんと共に、再び池袋の大通りまで戻ってきたオレ達は、ジゼルさんの誘導の元、あの少女を発見するまでに至ったわけだが......


「ぬし様よ、どうするかの?」


蓮華さんがオレを見るため顔を上げる。


「そうだな。やっぱ相手は高校生だし、いわゆる胸キュンが定石だろ」


「胸チュン?」

蓮華さんが首を傾げている。


「鳥じゃない。胸キュンだ」

どんな鳥だよ。しかもなんか語呂が可愛い。


オレと蓮華さんの会話を聞いていた伊織が、愛おしそうな顔で蓮華さんを見ている。

まさかこいつ、蓮華さんも守備範囲内なのか?しかしこの蓮華さん、見た目は確かに幼女のそれだが、実際250を超える長齢。

言わば超合法ロリ、てか妖怪レベルのロリ。略して妖ロリだ。

『幼女』と『妖女』、字も似てるしよみも同じならば、なおのこと背徳感が増してしまう。


原因となった女子高生の後を追っていると、進行方向の先にダンボールが見えた。


「あれだ‼︎いいものがあったぞ。しばらく2人は隠れててくれ」


そう言って少女から距離をとって追い抜くと、ダンボールの前でしゃがみこむ。


1人ぼっちの子猫を助ける男。

それだけでも恋に恋する乙女には大ダメージを与えられるだろう。

さぁ、声を掛けてこい‼︎


オレの念が通じたのか、あの女子校生はまんまと引っかかった。


視界の端っこの方で、物陰に隠れながらこちらの様子を伺っている蓮華さんと伊織に、少女には気づかれない様に視線を向けると、苦笑いしている。何故だろう?


一通り会話すると、少女は素知らぬ顔で駅のホームへと向かって行ってしまう。

これもまた何故だ?普通は、落ちました‼︎みたいな顔を見せるのが年頃の女子じゃないのか‼︎


驚きを隠せないオレの元へ、蓮華さんと伊織が近づいてくる。


「ぬし様よ、あれは何じゃ?」

先ほど見た苦笑いのまま蓮華さんが聞いてくる。


「何って、どう見ても胸キュン狙いだろ」

手に抱えた猫を見せながら答える。


「「それはないわー」」


2人が息を合わせたかのように言うのが腹立つ。


「今時あんなので恋に落ちる女性は絶滅危惧種だと思うのですが」


伊織も苦笑いのままだ。


「嘘だろ‼︎鉄板じゃないか‼︎」


「いつの時代の鉄板じゃ!ぬし様生前は三十路にも達していなかったはずなんじゃがの」


250を超えている奴に時代錯誤を問われると、段々自身がなくなっていく。


「何処に住んでおるのかまではわからんからの。無闇について行ってしまっては場合によってバレるかもしれん。今日は引き上げるとするかの」


2人でため息を吐きながら、俺を置いてそそくさと帰っていく。

2人の背中を見ながら、生前は、これが男の格好良さ。女はこれに胸キュンすると思っていた自分に、謎の涙が左目から溢れた。


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