初仕事
蓮華の呼びかけによりリビングへと集められた。真昼って奴は今回も集合してないみたいだが。
立っている蓮華さんを囲むように、伊織もジゼルもオレも、少し離れた位置に座っている。
「ジゼルが今回の原因となった小娘の居場所は掴んでおる。消失した言の葉は『恋』じゃ。それは理解しておるな?」
蓮華さんの言葉に、他の3人は頷く。
「して、恋という言葉をあの小娘には取り戻してもらわねばならんのじゃが.....手っ取り早いのは実際に恋に落ちてもらう事じゃな。ぬし様、フォローするから行ってまいれ」
そう言いながら、閉じた扇子をオレの方に向けてくる。なるほど、実際に恋に落ちてもらうのが一番の近道だろう。
「って、何でオレなんだよ‼︎相手は高校生でオレは今の姿じゃ中学生がいいとこだぞ!伊織の方がイケメンだしそっちの方がいいだろ」
オレが伊織を指差しながら言うと、伊織は端正な顔で笑顔を作る。謙遜しないのかよ。
「阿呆伊織はどう見ても成人しておる。不純異性交遊にしか見えんわい。その点、ぬし様なら未成年同士じゃから何となくセーフじゃろ」
「いやいや‼︎そんな事気にしてる場合じゃないだろ」
オレの言葉に蓮華さんはオレから少し遠ざかる。
「そんな事とはなんじゃ。ぬし様もしや若い娘が好みなのか?それで妾を初めて見たときも舐め回すように見ておったのか。まさかぬし様、ロリ....」
「コンじゃねーよ‼︎舐め回すようにも見てねーよ‼︎」
俺が発狂に近い否定をすると、伊織が残念そうな顔をしながら口を開く。
「そうでしたか。せっかく同士ができたかと思ったのですが。僕はロリコンです」
変態いたーー‼︎
近くにヤバイ奴がいた。さっき会ったばかりの高校生だがこいつだけは近づけては駄目だ。
「わかった!わかったよ!オレがやればいいんだろ?相手は恋に恋する年頃だし、案外チョロいかもな」
咄嗟に引き受けてしまったが仕方ない。
この駄目な人間、いや、人形か。
とにかく伊織が駄目だとなるとオレしか残っていない。
「セリフだけ聞くと最低な男だよー、獅童君」
ジゼルまでオレと距離を取ろうとしてくる。
言葉の綾だ。しかしこれ以上何も言うまい。オレが窮地に追いやられる未来しか見えない。
「引き受けてくれてよかったです。高校生なんて、僕からしたらロリでもなんでもないですから」
あぁ、本当に引き受けてよかったよ。
お前は駄目だ。色々と。
大理石でできた床を、蓮華さんが下駄で2度ふみ鳴らして、注目を集める。
「それでは皆々様、作戦開始じゃ。言の葉の守人の加護があらんことを」
解散した後、蓮華さんに聞いておかなければならないことがあるのを思い出し、呼び止める。
「そう言えば蓮華さん、人形にはそれぞれ特別な能力があるんだよな?オレのはなんなんだ?初仕事前に知っておいたら役に立ちそうだし」
伊織が見せた変化の事を思い出して聞いてみる。
「.................」
蓮華さんは立ち止まったままぴくりとも動かない。
「ぬし様のその体、魔具埋め込むの忘れておった。じゃから能力はない」
「まぐ?」
「人形を作った後に、呪術的要素を兼ね備えた魔具と呼ばれる物を埋め込むの事によって能力が付加されるのじゃ。しかしぬし様のその体は未完成じゃったからまだ埋めとらん」
ほぼ欠陥品じゃねーか‼︎
「初仕事なんだしさ、今からでも遅くないからその魔具ってやつ埋めてくれよ」
「いや、魂を定着させとらん状態でないと埋め込めむ事ができぬのじゃ。魂が入っておる状態で魔具を埋めると人形の体が自壊するからの。埋めた後に魂を定着する事が出来るのはよく理由が分かっておらぬが」
つまりオレの体はただ人形になっただけで、強いて言うならば原因となった人間を見るだけでわかるという、どの個体にもできる事のみというわけだ。
「試してみてもよいぞ?」
「やるかよ‼︎」
こうして、相手に好意を見せて契約を取る仕事をしてきたオレの、新たな職場での初仕事は、相手を恋に落とすものになった。