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白い肌  作者: ゆずさくら
8/42

(8)

「佐東さん?」

 そうだ、鍵を持っているとすれば佐東さんだ。

「どうでした?」

 話しかけるが、反応はないし、人影もない。

「?」

 俺はゆっくりとスライドドアから顔を出す。

「おぉぉ……」

 スライドドアの取っ手を押してくる黒い影が見えた。

 髪型は佐東さんそっくりだが、服はボロボロにちぎれ、そこから見える肌は黒く腐っていた。

「腐臭…… 本物のゾンビっ…… うそ?」

 その黒い人物が閉める力はさして強くなく、俺はそのドアを押し戻した。

「佐東さん? 佐東さんでしょ?」

 仕事の最中にこんな悪ふざけをしたことはなかったが…… そう思いたかった。

「そうだよ…… あの林のなかで、カマれちまったんだよ…… 体が腐っていくから、お前を噛むしか……」

「うそだ! 冗談やめてくだ…… 」

 後ろから腕を引かれる。

 振り向くと、そっちには小さい婆さんが、やっぱり皮膚が腐って黒くなって、そこにいた。

 そして、大きな口を開けて、俺の手を…… 

「やめろ!」

 俺が突き飛ばすと、元お婆さんだったゾンビは、床に倒れて下半身と上半身が千切れた。

 更に酷い腐臭が広がり、駐車場の弱い灯りに照らされた白い蛆が這い回った。

「うっ……」

「君島、お前人殺しだ…… 死刑だ…… おとなしくカマれろよ」

 いや、人じゃないだろ、ゾンビなんだから……

 手を伸ばしてヨロヨロと進んでくる。

「佐東さん、病院で、病院でみてもらいましょう。病気なら治るかも」

「治んねぇよ、お前をかじればもう少しだけ動けるんだ……」

 俺はスライドドアを開けて、佐東さんの肩をつかみ、後部座席にすわらせた。

 そして、ロープでぐるぐる巻きつけ、動けないようにした。

「なにすんだよ…… 噛まないと腐っちまうって言っただろう…… おい……」

 そして素早く運転席に戻った。

 エンジンを掛けるが、セルは回る音がするが、かかったような音がしない。

「噛ませろ……」

 佐東さんは飛び出さんばかりに目をひんむき、口を大きく開けてそう言う。

 ゾっとしつつももしかしたらマフラー部分になにか詰められたのかと思い、運転席を出る。

 車の後ろに回ると、また人がいる。

 腐った肌、髪を後ろに撫で付けている…… 奥さんの浮気相手?

 片手を車のマフラーに突っ込んで、腕がちぎれかかっている。

「お、お前…… 俺のこと、つけてきやがったな……」

「いや、不倫するお前がわるいんだろ」

「だから、噛ませろよ」

 口と思われる裂け目を超えて口が開く。

「やばい!」

 思わず足を伸ばして、蹴り飛ばしてしまう。

 まるで体重がないみたいに無抵抗に駐車場の壁にぶつかり、不倫男は砕けてしまう。

「うっ……」

 また更に酷い腐臭が広がる。

 俺は細い棒を拾い上げると、マフラーのつまりをひっかきだして、取り除いた。

 運転席に戻ると、佐東さんは相変わらず目を大きく見開いて喚いていた。

「今度こそ」

 セルが回ってエンジンがかかる。

 興奮していたせいか、アクセルを踏みすぎるようだ。

 勢い良く飛びした車は、駐車場を勢い良く走り、のれんのような出入口を突破……

「うあっぁぁぁ……」

 奥さんが飛び出して来た。

 白い肌の奥さんが、俺の車の前に。ブレーキを踏んだが間に合わなかった。

 ものすごい音がして車がとまった。俺はエンジンも切らずに運転席を降りた。

 奥さんはまともだったのに…… お、俺が轢き殺してしまった。

「奥さん…… 大丈夫ですか」

「大丈夫なわけねぇだろ」

 車のライトに向かって倒れていた奥さんが上体を起こしてきた。

 黒く腐った肌、抜けてしまって薄くなった髪の毛…… 飛び出し気味の眼球……

「うぅっ……」

 奥さんの姿をみた俺は、強い吐き気を感じて、そのまま駐車場の壁に歩いて、手を突いた。

「うぅぅぅうぇっ……」

 自分の吐瀉物が見える。胃、小腸、大腸…… 内臓が口から…… あ、ありえない。


 ブルッと寒気がして目が覚めた。

「ゆ、夢……」

 た、確かにゾンビなんて夢以外にお目にかかれないだろう。

 どうやら俺は後ろの座席で、固まった様になって寝てしまっていたようだ。

 口を開けて寝ていたらしく、口が乾いて、喉が痛い。

 視界に何かが見えたような気がして、ゆっくりと横をみる。

「……佐東さん」

 佐東さんがいない。

 スマフォのメッセージを確認する。

「……」

 一時間と五分。もう一時間過ぎてしまっている。

 いや…… せめて。

 俺は運転席の方へ移動して、車を裏の方へ回す。

 そして林の方向へ車を向け、ライトをハイビームにする。

 山道が続いていて、草木が揺れているだけだった。

 他に動くものはない。

 大声で呼びたいところだったが、それは出来ない。

 今日失敗したとして、明日成功すればいいのだ。無理に尾行調査していることをバラす必要はない。

 俺は車の時間を見て、佐東さんに言われた言いつけをまもり、車をクライアントの家へ向かわせた。

 

 

 

 同じように高速を走らせると、四十分もたたない内に戻ってこれた。

 最初にクーペが止まっていた方の駐車場を覗く。

 クーペは戻っては来ていない。

 当然だ、奥さんを送り返せば、ここに長居する意味はない。

 駐車場は、もう殆どの車がいなくなっている。

 念のため、俺はそこを通り過ぎて最初の駐車場に止めた。

 もしかして、先回りできたのだろうか。

 何度もクライアントの家の回りを回る。

 不審に思われないように、コンビニの袋をもって、いったりきたりのテンポを変えて。

 先回り出来ているなら、この後に奥さんが帰ってくるはずだ。

 しばらくして、俺はうごくのを止めた。

 人通りが少なすぎて、返って動いている方が不審に思える。

 三時間、四時間と過ぎていく。

 空が明るくなってきた。

 急に、鳥が鳴いて沢山の鳥が空に見えた。

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