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白い肌  作者: ゆずさくら


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(40)

「何を言っているの? 声も、姿も、君島さん以外いないわ」

 映像の音がさらに大きくなった。

「この映像なかのあなたは、幻覚を見ている時のあなたよ」

 違う…… 幻覚は見ていたのかもしれないが…… 違う。

 何かがぷっつりと切れ、俺は気を失った。

 

 

 

 凄い数の鳥の鳴き声で目が覚めた。

 俺はまだ柱にくくりつけらていて、部屋の窓は閉じられていた。窓を閉じたせいか、部屋は暗かった。

 ダイニングキッチン側にはぼんやり灯りがついていたが、こっちの部屋には明かりがついていない。

 あの映像、合成したようには思えなかった。

 特に死体の肉をえぐる部分が…… いや思い出すのはやめよう。また貧血になってしまう。

 とすると、本当に俺がやったか、俺のそっくりさんがやったのだろう。 

 幻覚を見ているときの自分の状況は、自分のその間の記憶と違ったものだった。つまり、あれをやっているのが《幻覚を見ている俺》であった場合、本当に俺がやっていたのかもしれないことになる。

 いや、それでも……

「この場が…… いまこの瞬間が幻覚なのかも」

 俺は口に出してそう言った。

 確かに、自分が言った。

 幻覚の中で?

 さっき水をかけらたような気がするのに、目覚めなかった。

 幻覚のなかから、もう抜け出せなくなったのかもしれない。この中で解決するしかないのだ。幻覚の中のルールで。

 部屋の中に響いていた鳥の鳴き声が、突然、ぴたりと止んだ。

 俺はあたりを見回した。

「私に協力する?」

 小さく声がした。

 こえのする方向は、ダイニングキッチンからの灯りの影になっていて、暗く、見えない。

「加茂か?」

「どう? 私に協力するなら、縄をとくわ」

 闇から、四つん這いで近づいてくる加茂が見えた。

 襟元から、白い肌の胸のふくらみが見える。

「協力してくれる? ここに男を連れてくるの。それだけでいい」

「男って?」

「誰でもいい。若くて、力のありあまっているような。食べ出のあるやつが」

 俺は加茂美樹の胸ばかりに気がいってしまっている。

「縄をといてくれるなら、つれてきます」

「ふふふ…… そういってくれると思った」

 加茂が素早く近づいてくると、俺に抱きついてきた。

 俺は加茂の胸に顔をうずめながら、何か赤黒いものがうごめくのを感じた。

「いい子。連れてきたら、もっといいことしてあげる」

 加茂は立ち上がると、俺の後ろに回り、縛っていたロープを外した。

 俺は慌てて立とうとしたが、変な恰好のまま、ずっと動かなかったせいで、体中がしびれて立ち上がれなかった。

「行きなさい」

 フラフラしながらも、何とか立ち上がると、ダイニングキッチンの向こうにある扉へ向かって歩き出した。

 廊下にでて扉を開けようとすると、灯りがパッとついた。

「まずは一人」

 加茂がそう言った。

 俺はうなずいた。

 扉を開け、自転車を探して山道を歩き始めると、再びけたたましい鳥の鳴き声が始まった。

 バタン、とその後にドアが閉まる音がして、別荘から漏れていた明かりが消えた。

 俺はスマフォで道を照らそうとして、取られたままであることに気付いた。

「……」

 振り返ったが、もどってスマフォを取り返そうとは思わなかった。

 逃げれる。

 今、逃げれば、なんとかなる…… かもしれない。

 走って自転車を道にだし、飛び乗る。

 懸命にペダルをこぐ。

 月や星の明かりは、頭上を覆う木々の枝葉でとどかない。自転車の灯りだけが頼りだった。

 何度か来た記憶をたよりに山道を進むと、ラブホの光が見えてきた。

 頭上を見て、俺は様子がおかしいことに気付く。

 鳥たちの鳴き声だった。

 移動しているのに、まるで追いかけてきているように、まったく変わらないのだ。

 一帯全域に鳥がいるとは考えにくい。

 そもそもこの暗い中、鳥たちは飛べるのだろうか。

 もう一度、力を入れて自転車を全力で走らせた。追ってきているのだとしたら、鳥たちも合わせて移動してくるはずだ。

 やはり鳥たちが追ってきている。

 頭の隅に嫌なことが浮かんだが、自転車をこいで温まった体が言った。考えすぎるな、鳥が自転車をこぐことをじゃましない限り、問題ない、と。

 山道を抜けると、鳥の鳴き声は置き去りにされた。空を飛んでまでは追いかけてこないようだった。

「助かった」

 ラブホの駐車場へ入ると、人の声がした。俺は聞き覚えのあるその声に、自転車のブレーキをかけた。

「助けて……」

 さっきよりも小さい声。幸子の声だった。

 助けて、とはどういう意味だろう。

 なぜ加茂と一緒にいなかったのだろうか。まさか、加茂の狂気に気付いて、逃げ出してこのどこかに隠れているのではないか。

 そもそも今日、あの別荘にきたきっかけを思い出した。

 幸子が送ってきたメッセージと画像だ。

 俺は自転車を置いて、声のする方へ、階段をあがった。

 階段や上がった先の廊下には誰もいなかった。

 声がしなくなっていた。

「幸子?」

 俺は受け付けを通りすぎ、関係者立ち入り禁止と書かれたドアを開けた。

 いきなり明るい白色光に、目がついていかなかった。

 目を細めながら、事務所を見渡す。

「幸子、いるのか? 大丈夫か?」

 ようやく全体が見えてきたが、誰もいない。

 受け付けには誰かがいるだろう、と奥へ入ると、開け放っていたはずの扉が閉まる。

 振り返るが、扉には誰もない。

 受け付けへ移動しようと、部屋を進むとつまずいて転びそうになる。

「えっ」

 机のしたから、手が出ていた。

「幸子?」

 かがむと、こっちを見て、横たわっている女性がいた。

「か、和世さん!」

 ビックリして、遠ざけようと動揺して壁に背中をぶつけてしまう。

 目が開きっぱなしであり、床には血が滴っている。

 つまりそれは和世さんではなく、和世さんだった人の死体だった。

「わざわざ机のしたに死体を置くなんて」

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