表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白い肌  作者: ゆずさくら
4/42

(4)

「そうだ。この前、実家に戻った時に、母親が『メンコ』を出してきて、これ捨てていいか、って聞いてきたな」

「『メンコ』ってなんですか?」

「えっ、『メンコ』知らないの? 地方の違いか、世代の違いなのか…… あのな、紙でできてて、丸かったり、四角かったり。それを、平らなところに、こうやって叩きつけて。ひっくり返したり、あるいは、枠から外に出したりさ。子供の遊びだよ。そういうの収集しなかったか?」

 想像もつかないものだったが、紙でできている、というのはわかった。

「トレカのようなもんですかね?」

「なんだそれは?」

「世代の違いですかね」

「なんで地域の違い、って言わないんだ」

 お互いの顔をみて笑った。

「お待ちどうさま」

 二人の目の前にラーメンが置かれる。

 細麺のツヤ、透き通る醤油ベースのスープ。

 俺は佐東さんに割り箸を渡した。

「食べるとするか」

「いただきます」

 ラーメンを食べ終わり、店を出ると、佐東さんが言った。

「適当にアカウント作って、奥さんのSNSフォローしとけ。適当に食べ物とかの写真を撮って載せとけよ。無理すればバレるから、変にこったものじゃなくていい。今日は分からなくとも、見ていれば分かるかもしれない。まだ調査は始まったばかりだからな」

「はい」

 もうその適当なアカウントはつくってある。

 不自然なフォローは疑われるか、とも思うが、フォローしていた方が便利は便利か。

「それじゃ、これで」

 佐東さんは手をふると、そのまま駅の方へ帰っていった。

 俺はそのままのノリで奥さんのアカウントをフォローした。

 オフィスに戻ると、明日の段取りを考えた。

 加茂の住まいは、閑静な住宅街にある。持ち家一軒家。周囲は細く入り組んだ道。

 しかし、駅にでなければ何も出来ない。

 もし奥さんが車が運転できれば他のルートも考えられるが。

 浮気相手が車を使うかもしれない。

 ただ、浮気相手が、この細い入り組んだ道に入ってくるとは思えない。

 細い道だから、ゆっくりしか走れないし、ここに車が止まっていたら邪魔だからすぐ分かる。

 奥さんが乗り込むところを旦那に見られたら、と思うと怖くてこれないだろう。

 たとえ相手が車ではなかったとしても、駅か広い道で待ち合わせるだろう。

 車は駅と住宅街の間にあるコインパーキングに止め、周囲を歩きながら張り込むか…… 

 車、小銭の用意をしておこう。

 ざっと考えられるパターンを考えてから、俺は退社した。

 明日は夜が本番だ。昼過ぎに出社して、午後の行動から監視すればいい。

 俺は椅子で伸びをすると、帰り支度をした。

 

 

 

 次の日、佐東さんと打ち合わせをした。

「入金が確認出来た」

「……やるんですね」

「そうだ。今日からやるぞ。あ、それとさっきお前の作った予定をみたが…… あの場所の駐車場、被らないか?」

 佐東さんは地図を見ながら首をひねる。

「被るって、なにと?」

「浮気相手が車を使った場合だよ。何も駅のロータリーまで行かなくなって、そいつも同じ駐車場に止めて、奥さんくるのを待ってればいいじゃないか」

 確かにそのことも考えていた。

「けど、それなら待ってました、って感じじゃ?」

「バカ…… 同じタイミングで出庫したら怪しまれるだろう。支払いの機械のところで顔を見られる可能性もある。かといって、先に払えないし、十分時間を開けたら逃げられてしまう。地図みても分からないから、まずは車で現地行って別のところがないか考えよう」

「はい」

 準備をして車でクライアントが教えてくれた住所へ向かう。

 車はバンで、どこにでもありそうな社名がシールではってある。今回は『佐藤工務店』だ。佐東さんと音が同じだから、万一俺が『さとうさん』と言っても探偵の『佐東』を呼んでいるとは思われないだろう。

 俺と佐東さんは車と同じようなロゴが入った作業着を着ていた。

 近づくにつれ、通りの人物や歩行中の人物をチェックする。

 万一奥さんだったりした場合を考えておかないといけない。

 加茂の話しによれば、奥さんは勤めに出ているとか、習い事など常に外出することはないそうだ。

 だから万一出会うとすれば、買い物に出かけるとか、クリーニングとか…… 友達に合うとかか。

 そんなことを考えながら車を走らせていくと、駐車場を見つけた。確かにここは使いやすい。

「やっぱりこの駐車場に車を置くのは厳しいな、目立ちすぎる。ちょっと車を回すぞ、地図を見てるフリしろ」

「はい」

 あたりをぐるぐる車を回して、出やすく、かつ、他の車がこなさそうな小さな駐車場を見つけた。

「とりあえずここに止めて、交代で家を見張ろう」

 佐東さんは車の奥に入って、営業マンのようにスーツに着替えている。

「何時ぐらいになったら俺着替えますか?」

「何も無ければ17時になったら着替えるぞ。車のシールも剥がす」

「はい」

「何か合ったら、問題なさそうなところまで付けて、交代しろ」

 クライアントの家が見える場所に俺が一人で向かい、出入りする人物を見張る。

 奥さんが出て行くとか、帰ってくるとか、浮気相手が入っていくとか、出ていくとか。

 基本的には同じところをウロウロするのだが、人に怪しまれないようにスチールのメジャーを持って、道路に当て、なにかを図っているとか、確認しているようなふりをする。

 近所の住民がきたら、工事する前の予備調査ですということにしている。

 いつ、などと聞かれたら、工事自体はまだ決まっていないんですよ、とか言えば市役所に電話して工事が始まるか確認の電話もされない。

 そうやって何度も道路にメジャーをあて、同じ道を行ったり来たりしながら監視を続けた。

 大学生や、高校生が自転車で通り過ぎていくぐらいで、奥様方の井戸端会議もない。まさに閑静な住宅街そのものだった。

 スマフォを確認し、交代の時間にはまだ時間があるなと思いながら、加茂の家を見るとターゲットである奥さんが窓際に現れた。

 家の中にいたのか、そう思いながら、また視線を地面に向け、メジャーで測って、結果を書き込んでいるフリをしていると、ヤケにうるさく鳥が騒ぎ出した。

 少し離れた先に、大きな屋敷があり、その庭は外から中が見えないほどみつに木々の葉で覆われている。その中から、鳥が鳴いたかと思うと、数羽が集団になって、通りの電線に並んで止まった。

「糞を落とされたら嫌だなぁ」

 電線を見た後、俺はヘルメットを整えるフリをして、クライアントの家を見た。

 何か窓の外、高い所をじっと見ている。

 その並んだ鳥を見ていたのだろうか、窓ぎわに立ったまま見上げている。

 正直、俺はその化粧っ気のない奥さんの顔を見て、好意を持ち始めていた。

 ダメだ、と思ってまた視線をそらした。

 すると、近くでボトボトボト…… と夕立でも降り始めたかのような音がした。

 見ると、鳥が飛び立っていたようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ