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白い肌  作者: ゆずさくら


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34/42

(34)

 幸子はそこにいる。

 そして、加茂の奥さん、加茂美樹もいる。

 佐東さん、井上、そして美樹との浮気相手と思われる二人の行方についても、そこにつけば分かる。

 全ての謎が解けるような気がしていた。

 都心の電車の乗り継ぎ、湖へ向かう路線に乗り換えると、佐東さんのスマフォにメッセージを入れた。加茂の別荘の位置情報だ。

 佐東さんが何かしてくれると期待しているわけでも、これで何かを思い出すとも思えなかった。

 万一俺に何か合ったとき、誰かがこの謎を解いてくれる手がかりになれば…… そんなことを思っていた。

 窓の外の景色が、緑多い景色になってくると、温かい日差しの車内で、何故か寒気を感じていた。

 ポイントを通過する為、ガタガタと揺れると、湖の駅についた。

 いつもの通りに、駅を降りると、まっすぐにレンタカー店に向かう。

 手続きをしようとして、小型車を指定して名前を告げる。

「残念ですが、あなたには貸せませんよ」

 和世さんの同級生ではなく、今日は男性店員だった。

「何故です、何か拒否する理由でも」

「薬物のようなもので、幻覚をみる方には車は貸せません」

「侮辱するのか? あんた、名誉毀損というのを知って……」

「脅してもだめです。とにかく貸せません」

 強い意志が感じられた。

 そう思って男の名札を見ると、店長と書かれていた。

「レンタカーがないと……」

「タクシーなり、バスなり他の公共交通機関をご利用いただければ」

「……ふん」

 店長は深々と頭を下げた。

 俺はどうやってあの別荘まで行くか考えた。タクシーでいくしかないだろう。

 しかし、待たせておくと結構な金額になる。かと言って、返してしまった場合、別荘から次の行動が出来ない。レンタカーか、それに相当するような機動力が必要だ。

 しばらく駅のロータリーを歩いていたが、ふと案内図をみて気付いた。

 ど真ん中に湖の絵が描いてあるのだが、そこを見たことがなかった。

 加茂美樹を調査しているときは夜。なんどか日中も着たが、直接別荘に行ってしまっている。

 山道から少し見てはいるが、岸を歩いたりということもしていない。

「行ってみるか」

 俺は駅からの道を下り、湖の岸へ向かった。

 岸に近づくにつれ、観光用の駐車場や、お土産屋が増えてきた。

 平日なのに、こんなに観光をしている人々がいるのか、と少し驚いた。それに湖の周囲は、こんなにも賑やかなのか、と。

 遊覧船はなかったが、貸しボート屋でボートをかりるカップルやバスで来た観光客がいた。

 通り過ぎて、岸を歩いていると、本当にのんびりした景色が広がっていた。

 すると、国道方向の岸で、大きなエンジン音がした。

 何だろう、と思って、湖に近づいて、そっちの岸をみてみると、クレーンで湖から何かを引っ張り上げているようだった。

 クレーンがある岸には、壁をつくるようにブルーシートが下がっていた。

 作業の中に、警察官が何人か混じっている。

「事件だろうか」

 俺はカバンの中から、オペラグラスを取り出すと、その引き上げているものや、岸で何をしているのかを確かめた。

 ダイバーのような人が数名、警官、鑑識員らしい人が何人か、スーツの男が一人。

 何か湖の中から出てきたのだ。人のような格好に並べられた何かと(・・・)、藻がついた車があった。

「まさか、死体?」

 藻を外していくと、車の形も分かってくる。それは外国製のクーペだった。加茂の奥さんを乗せたものか、ナンバーまでは見て取れない。俺はオフィスにアクセスして保存していたスクリーンショットを見ながらナンバーを確認する。これと同じものかどうかだ。近づけばもっと何か情報がつかめるかもしれない。岸沿いをブルーシートの方へ歩き始めた。

 近づくと、立ち入り禁止のテープが張られていた。

 かえってここからだと見にくい。ブルーシートが湖側には張っていないことを見て、もう一度岸沿いに湖の観光用の場所へ引き返した。そして貸しボートに金を払って、湖面へ出た。

 俺はスマフォに付ける望遠レンズを取り出し付けると、車を撮影する。撮影した画像を表示させ、ピンチアウトする。ぼやけてしまうが、何となく形が分かる。その部分を切り取って、別のアプリで認識させると、車のナンバーが判明した。

「同じ、だ」

 車が湖底に沈んだとしたら、オーナーのあの男も死んだのだろうか。ブルーシートの方を見つめていると、警官が気づいたようで、ダイバーが乗っていたであろうモーターボートを使ってゆっくりと寄ってきた。

「君、マスコミ関係者?」

「湖底から引き揚げた車、あそこ、あの別荘から落ちたんですか?」

 警官は、棒に縄がついた道具でこちらのボートの先端を引っかけた。

「あんまり近づくと、捜査の妨害とみなして、公務執行妨害で捕まえるよ」

 モーターボードがゆっくりと俺の乗る手漕ぎボートを引っ張る。

「答えてくださいよ。こっちの情報と取引しませんか? あそこにいる刑事さんに話してみてください」

「知らん」

 モーターボートのエンジンが止まり、くるっと旋回を始めると、引っかけていた縄を外した。

 惰性で貸しボート屋の方へぐんぐんと寄っていく。オールでこぎ返してもいいのだが、変に逆らうと本当に留置所に連れていかれてしまう。俺は素直に戻って、ボートを降りた。

 代わりに、見晴らしのいい観光用レストランの窓際に座り、捜査現場を上から監視することにした。

 ダイバーたちは交代して、再び潜るようだった。

 レストランからでは、水面下で何をやっているのかまでは分からない。

 コッっと、グラスを置く音がした。

 振り返ると、男が一つグラスをテーブルに置き、もう一つを手に持って立っていた。

「何か?」

「さっきの話、詳しく話してくれるかな」

 俺は男の目を見るのをやめた。

「さっきは興味なさそうでしたが」

「君島さんだね」

「!」

 男は横の席に座ってきた。

「私は一木康夫という。警部補だ。悪いけど、君には一通り話してもらうしかなさそうだ」

「何を?」

「すべてさ。佐東という男と君、井上という男と君、追いかけていた加茂美樹、と浮気相手の村上亮、長嶋あつしについて、知っているすべて」

 一木は両手を広げてそう言った。

「ここで?」

 周りを見回してから、一木は言う。

「あそこブルーシートのところに行こう。君の知りたいこともあるだろう」

 とりあえず、あの中に入れるなら良しとしよう。

 俺は一木という男の後をついて、あの中に入った。

「まず、二週間前、村上亮と探偵社の佐東が行方知れずになった、という日付の話から聞こう」

 もしかして、警察は俺を疑っていて、俺のアリバイを確認するために話を聞こうということなのだろうか。

「この会話は録音させてもらうが、いいかね?」

 一木は、ICレコーダーを取り出して見せた。

「え、ええ……」

 まずい。これは任意同行というやつだ。

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