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白い肌  作者: ゆずさくら


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(32)

 手を取り、指を見た。結婚指輪がはめられている。

「奥さん、結婚指輪って……」

「警察から受け取ったものを渡しました」

「佐東さん、色白くないですか」

 奥さんは横を向いて確かめる。

「ええ。理由は分かりませんが」

「もしかして、昨日はもっと状況が酷くなかったですか?」

「……」

「佐東さん、言葉が少なかったんじゃないですか? 語彙もなくて」

「ええ。そうです」

 肌の白さから、あてずっぽうに加茂の奥さんのことを当てはめてみたのだが、意外にそれがあたっていたようだ。

「夜中、出ていこうとしませんでしたか?」

「……そうです。わかりました。あなたが何かを知っているのはわかりました。で、どうすればいいんですか? どうすれば元の孝明にもどるんですか?」

「声が大きい」

 佐東さんが隠れるように手で頭を抱えた。

「孝明、怖がることないのよ」

「元に戻す方法、ですよね」

 加茂の奥さんは時間の経過とともに、元のように会話出来るようになったというが、佐東さんも同じかどうかは分からない。しかし、今は見本となるのは加茂の奥さんしかない。

「待つしか無いです。夜中に出ていくのだけは注意して」

「待つ…… それだけ?」

 佐東さんの奥さんの目に、涙が溢れてくるのが見えた。

 奥さんの立場からすれば、酷い発言だった。

「それで…… それで記憶は戻るんですか?」

「えっ?」

 佐東さんは奥さんの頭を撫でていた。泣かないで、とそう言っている。

 子供が慰めているような、そんな感じ。

「もしかして、病院に行ったのは、怪我とかの為じゃなく、記憶喪失で?」

 奥さんはうなずく。

「けど、さっき俺のこと君島くんて」

「君島くん、おぼえてるよ」

「……」

 奥さんは首を振った。

 その顔に、もう涙はなかった。

 佐東さんの様子を淡々と語り始めた。

 帰ってくると、何もかも忘れて、子供のようになった佐東さんがそこにいた。初めは言葉すらろくに離せず、あー、うーと言うばかり。トイレもよくわかってないようで、下着を汚していた。まさに大きな赤ちゃんという感じだったそうだ。そこに伊藤さんが電話をかけてくる。出すわけにもいかないし、明日これが良くなっているともわからない。とにかく病院につれていかなければ、と思ったそうだ。

 ふとしたきっかけで、佐東さんがテレビをつけると、そこから急速に言葉が戻ってきたそうだ。しかし、奥さんの感じ方は、違った。思い出しているのではない。まるで今、言葉を学習しているようだったそうだ。

 佐東さんは夜中になると、外へ出ようとした。

 ただ、鍵を開ける方法が分からなかったらしく、窓も扉も開けることができなかったそうだ。出ていく代わりにテレビをつけておくと、佐東さんは夢中になってそれを見た。外に出られると困るので、放送終了時間まで、DVDの見かたを教えておいたそうだ。

 奥さんがうとうと寝てしまって、はっと気づくと、佐東さんはDVDを取り換えて映像を見続けていた。

 そうしている内に、俺からの電話が入り、何か知っているようだったから、会ってみることにした。そのころには、佐東さんの言葉や、トイレの使い方も普通に出来るようになっていた。

「それと、さっき気づかれたように」

「肌の色、ですか?」

 奥さんはうなずいた。

 最初はほおの一部や、手の甲、など一部が白っぽい、という程度だったが、あっというまにその状態が進行して、全身の肌の色が白くなっていたそうだ。異常に白い、というほどではないにしろ、今までの佐東さんを考えると、気味が悪い。

「実は、同じようなことを佐東さんの行方が分からなくなる直前まで追いかけていたんです」

 正直に自分の手の内を晒した。

 加茂は奥さんのことを気遣ったのだろう。佐東さんのようにトイレができなくなっていた話はしなかった。しかし、言語がまともに出来なくなっている点や、肌が白くなっていく点、よるに家を出ようとすること等が類似していた。

「なんの共通点が? まさか、孝明がその調査対象の女と……」

 『寝た』とでも続けたかったのだろうか。

 確かに無関係の人物が同じ病気にかかる、と言われると、そういうことを考えてしまう。

 奥さんは、アイスココアをおいしそうに飲んでいる佐東さんの顔を見つめた。

「それはないです。調査対象の女については、佐東さんが行方知れずになったあとも調査していましたから」

 俺は、そう言い切った後、必死に理由を考えた。

 同じ病気を病んだとして、おそらく共通項は『湖』しかない。

 場所、でうつったのなら、俺も可能性がある。きっとあのラブホのお婆さんや、和世さんも。

 でないとすれば、戻ってしまうが、奥さんが想像したように直接会ってうつされた、ということになる。

「そ、そうですよね」

「そうですよ」

 佐東さんはもう興味がなくなったのか、店内をきょろきょろと見回している。

「あの、私がいうのもなんなんですが、君島さん、あなた……」

「?」

「いえ。まさかと思いますが、あなたも……」

「なんのことですか?」

「同じ病気じゃないですか?」

「えっ?」

 俺はおもわず顔を隠すように手を当てた。

「斑点があるってことですか?」

「……いえそうではないですが、色が異常に白いので」

「いや、そんなこと言われたことは……ちょっと待っててください」

 慌てて席を立ち、トイレへ向かった。

 そんな…… まさか。湖に行っている間に病を患わっていたのか。

 出入り口付近で、他人が立っていて、しばらく入れそうになかった。

 待っている間に、スマフォを使えばいいことに気付いた。

 取り出して、内側カメラにしてみる。

 見慣れた自分の顔だが、信じられないほど不安げな表情だった。

 みただけでは分からなないため、写真をとった。そして、過去の写真と見比べることにした。

 かなり昔に撮った写真しかなく、比較になるかは分からなかったが、確かに色が白くなっている。

 いつごろから?

 俺は一度ことばを失ったろうか?

 もしかして、あの幻覚をみている間は同じような言語障害なのかもしれない。

 いや、そんな馬鹿な。

 順番が来て、トイレに入った。

 用を足すと同時に、服をめくり、斑点のようになっていないか、肌の色が白すぎないかを確認した。

 子供のようになってしまう、おかしな病気にかかっているのだとしたら、いつ、どこで、どうやって……

 俺は、結局また湖に行って確かめなければならないのかもしれない。

 席に戻ると、奥さんが言った。

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