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白い肌  作者: ゆずさくら


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30/42

(30)

 俺のせいじゃなく、悪意のある何者かの手によるものだ、と証明すればいいのだ。

 机の中にあった小型のカメラ装置をバッグに入れると、オフィスを出た。

「(まずは、佐東さんに会おう)」

 オフィスを出ると、佐東さんの自宅へ電話をかけた。

 奥さんが出た。

「あの、君島と申しますが」

『……君島、って』

 声が遠くなる。

 切られる、と思った俺は慌てて言葉をつないだ。

「会社から何を聞いているかわかりませんが、私は……」

『会社からは、あなたが孝明を放って帰ったときいています。あなたの言い分を聞く気はありません』

「お願いです。切らないでください、佐東さんと話させてください」

『電話に出れる状態じゃないんです』

 歩きながら電話をつづける。

「危篤とか、そういう状態ではないと。歩いて帰ってきたと聞いています。私なら何か分かるかもしれません。合わせてください」

 通りの騒音がうるさかった。

 俺は建物の柱の陰を探して入った。

『……孝明が、あなたに会いたくないと言っています』

 奥さんが合わせたくない理由を必死に考えて、はったりをかましてでも会わなければならない、と思った。

「うそでしょ。そんなこと言わないですよね。だってさっき、スマフォでは……」

『スマフォ? あなたこそウソを言わないでください』

 電話の向こうで、奥さんが佐東さんを呼びつけている声が聞こえる。

 まるで子供を叱るような感じだ。

『さわってないよ、言われた通りにしてるよ』

 小さい声だが、佐東さんの声だった。

『今、君島という男が、スマフォでメッセージを見たようなことを』

 受話器の口を時々隠すのか、ガサガサ音がする。

『電源もいれてないよ』

 佐東さんがそう言うのが聞こえた。

『あなたウソ言っているでしょ。だからもう会わないんです! 切りますよ』

「医者に行っても謎は解けませんよ」

 なんの裏打ちもない、完全なハッタリだった。

 今日医者に行く、という情報は伊藤さんから聞いていた。それだけだった。

『……なんですって』

「佐東さん、明らかに様子がおかしいじゃないですか。そのことですよ」

『湖で何があったんですか?』

「まず、会社から聞いている話と真実が違っていると思います。病院に行くなら行ってください。その後で会えませんか。佐東さんに直接会わないと……」

『待って。そしたら、午後一時、大学病院の近くにあるカフェに来てください。場所は孝明のスマフォから連絡します』

「ありがとうございます。連絡待っています」

 通話を切って、大学病院への乗り換えを調べた。まだ十分に時間はある。

 オフィスに電話をかけた。

「君島です。佐々木さんいますか?」

 停職中とは言え、おなじ会社の仲間だ。すんなり取り次いでくれた。

『佐々木です』

「あのさ、この前の別荘のオーナーだけど」

『……答えられません。伊藤さんがさっき指示してます』

「ありがとう」

 俺は通話を切ると、近くのチェーンの喫茶店に入り、スマフォでオフィスの端末に接続する。

 これは規制していないだろう、と思ったのだ。

『接続しています……』

 くるくると回る。

 いつも遅いからな、つながった。

 俺はいそいでデータを閲覧し、スクリーンショットをとっては、ページをめくり、別のファイルを開いた。

 いくつかのファイルを開いたところで、警告アイコンとともにメッセージが表示された。

『ホストから切断されました』

「ちっ!」

 感づかれたか、と俺は思った。

 念のため、もう一度アクセスを試みるが入れない。

 とりあえず取ったスクリーンショットを見返してみる。

 加茂の携帯電話の番号がある。

 非通知でかけてみる。

「出ないか……」

 おそらく勤務中の加茂が、番号非通知の相手に出るとは思えなかった。

 ガラケーを使って、今度は番号を通知してかけてみる。

 しばらくコール音が続く。

 どこか電話出来る場所をさがしているのだろう、と予想する。

『もしもし』

「探偵社ですが」

『……』

「緊急で確認したいことがありまして」

 つづけて湖の別荘の住所を言う。

「これ、加茂さんの所有で間違いないですね」

『ああそうだ。まさか、妻がそこにいるというのか?』

「勤務中にすみませんでした」

『ちょっと、妻を、妻を救って……』

 切ろうとした時、何かを訴えるようにそう言っていた。『救う?』ってどういうことだ。

 しかし、これで確認が取れた。住宅地図上でもあそこの別荘は『加茂』表記だ。別荘は加茂の所有で間違いない。ガラケーに着信が入る。加茂の電話番号だ。

 俺は携帯の電源を切る。

 これで今日でも明日でも、あそこの別荘に加茂が入れば中の様子が分かるだろう。

 あの別荘に事件性があるのかないのか、これでわかる。

 スマフォを見ると、幸子からメッセージが入っていた。

『会えない?』

 今までの能天気な感じがしない。シンプルなメッセージ。以前の明るい感じと対比して、深刻な雰囲気さえ感じる。

 とりあえず返事は保留して、スクショの内容を紙に書き残す作業を始めた。

 あらかた書き留めたら、佐東さんに会う為に大学病院へ向かった。

 電車に乗っていると、佐東さんのスマフォから待ち合わせ場所の連絡が入る。

『この場所にあるカフェにきてください。座る場所は…… 孝明もいますからわかりますね』

 佐東さん本人はスマフォを使わないのだろうか。

 俺は佐東さんの指輪をした腕が見つかった、という話を思い出した。

「まさか、腕を切断してしまった?」

 肘から先のない姿を想像して、怖くなった。

 電車を降りて、大学病院の方へ歩いていく。

 スマフォの位置情報から、指定のカフェを見つけると四人席をキープした。

 佐東さんのアカウントにメッセージを返す。

『席確保しました。入り口からみえると思います』

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