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白い肌  作者: ゆずさくら
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(3)

 会話をしていた時、俺は『はたけ』というのが分からず、さっきネットで調べてようやくわかった。

 肌に白く抜けたような斑点がでるのだそうだ。

 白癬(はくせん)というのと似ているそうなので、もしかすると本当に白癬(はくせん)が正解なのかもしれない。

 とにかく、旦那である加茂は、奥さんの肌が白くなっていくのを見ている。

 完全に全身の肌が白くなると、その頃には夜中に外出しようとする発作のような症状が治まったそうだ。

「これだけ聞いても変だと思うけどな……」

 俺は内容をまとめながらパソコンに向かってつぶやいた。

 明らかに奥さんは病気だったんじゃないかと思われる。

 それで本当に浮気をしているのだとしたら、病院に連れて行かなかったクライアントに嫌気がさして、別の男を頼っているのだ。浮気が本当だとして、どちらが善か悪か、と考えると奥さんの方が正しい気がしてしまう。

 またICレコーダーを聞いて、パソコンに打ち込む。

 今度は大騒ぎをしなくなってからの行動だった。

 奥さんの肌の色が落ち着いてきたと同じころ、加茂も仕事が忙しくなった。

 夜遅く帰るようになると、今まで食事は作っていたが、先に寝てしまったていた奥さんが、起きて待っていてくれるようになったというのだ。

「いいことじゃないか」

 聞いていた時にも、俺は内心そう思っていた。

 なぜ、深夜まで奥さんが待っていることに不信感を抱くのだ、と。

 とにかく、クライアントは敢えて起きて待っていて、確実に寝るのを確認してから出かけているのだ、と推測している。

 薄目を開けて、ベッドを抜け出したところを確認しているわけではないのだ。

 なぜあんなにきれいな奥さんを悪く言うんだろう。

 ICレコーダーから聞こえてくるクライアントの声は、奥さんに敵意があるようにしか思えない。

 旦那であるクライアントは、夜中、奥さんが出ていったような気配がする、と言っておきながら、一度も目をあけてそれを確認していないのだ。

 本人は、バレないように目を閉じていた、というのだが、完全にいなくなったと思ったところで隣に寝ていないかぐらい確認すればいいだろう。クライアントはそれすらしていない。ぼんやり出ていくのに気付いて、すぐ寝てしまっているのだ。

「仕事の疲れで夢でも見ているのと何ら変わりない」

 俺はICレコーダーから聞こえてくるクライアントに反論した。

「おい」

 振り向くと、佐東さんが後ろに立っていた。

「あまり一方的な視点から物事をみない方がいいぞ」

「はい」

「今回で言えば、一つは奥さんは睡眠障害かなにか病気があるんじゃないか、ということと、旦那が奥さんと離婚したがって勝手に妄想しているんじゃなか、という二つだ」

 まさにそういう視点でまとめていたところを、ガツンと叩かれた気がした。

「……はい」

「変な先入観は尾行の失敗につながる。最後には、真実でない報告書ができる」

「一回、冷静になって読み返せよ」

「はい」

 俺はもう一度、ICレコーダーを聞きなおし、冷静に考え直した。

 そして、自分の文書を読み直し、書き直した。

 事実だけが残るようにし、自分の主観を出来るだけ削除した。

 仕上がったころには外は暗くなっていた。

 まだ下調べとして、クライアントの家の地図や、ターゲットである奥さんの経歴、SNSとかの書き込みがないか、といった様々なことが残っていた。

 地図や、周辺は航空写真やネットのストリート画像でイメージがついた。

 奥さんの方は、旦那が出してきた内容から、ある程度の経歴はわかっていた。

 都内の女子大出身のお嬢様、流行りの画像主体のSNSをやっているようだった。

 高校や小学校までさかのぼっても今回の調査に影響を与えるとは思えなかったので、画像SNSを調べてみることにした。

 何度か検索していると、それらしい画像が見つかる。『加茂美樹』どうやら本名で登録しているようだった。

 旦那に作ったお弁当の写真や、女子会的な写真が並ぶ。

 時折、失敗したかのように、道路を写したものが何枚か。

「何だろう……」

 その写真SNSに削除機能がない訳ではない。

 明らかに失敗した、道路…… 空や建物、風景としての道路ではないのだ、その写真の意味が分からなかった。

 しばらく考えたが、意味がわからなかった。

 一つだけ出した規則性は、ちゃんとした写真の合間に挟んでいることだった。決してその失敗写真が続くことはない。箸休め、あるは『・』のように区切り記号としているのではないか、と勝手に予想し、それで納得することにした。

 写真SNSを見ていても、男の影らしきものは感じとれなかった。

 お弁当を作ってくれる、しかもたまにそれを写真にとっている、というのはクライアントの発言と一致するし、ついこの前はキャラ弁だった、とも言っていた。

「うーん」

 これだけ愛されているのに…… 俺は奥さんの浮気を疑うクライアントに腹を立てた。

 写真に位置情報がないかみてみる。

 ほとんど写真のいち情報は消してあるが、女子会のような写真は他人が撮ったものなのか、位置を示したいのか位置情報が残っていたし、面倒だったのかお弁当を撮った写真も数枚、位置情報が残っていた。そして、そのお弁当写真の位置情報は、クライアントである加茂の住所と一致した。

「ふぅ……」

 何枚もの奥さんの写真を見て、好きになった人を追いかけるように調べているかのように、錯覚していた。

『変な先入観は尾行の失敗……』と言われたことを思い出す。

 俺は自分の頬を両手でパチンと叩いて、のめり込みそうな気持ちを正そうとした。

「休憩にしますか」

 パソコンに向かって独り言をいう。

 それからノートPCを閉じて、食事を取ることを考えた。

「おっ、君島、終わったのか?」

 帰り支度をした佐東さんがやってきた。

「いえ、食事にしようかと」

「そうか、そこらへんで食うなら付き合うぞ」

「シナソバなんかどうです?」

「おお、行こうか」

 佐東さんと一緒にエレベータで降りると、通りを駅方向にすすんで、シナソバ八谷に入る。

 ラーメンとラーメン大盛を頼んで、待っている間、佐東さんにスマフォを見せた。

「これ、どう思います?」

「なんだこれ? 道路?」

「ええ。例の件の。なんのために載せてて、なんのために消さないのか」

「こういう写真か。なんか意味あるんだろうな。コレクション的な何かかな」

 スマフォの画面を弾きながら、佐東さんは過去にさかのぼって、クライアントの奥さんが撮った写真をみている。

「他人にはガラクタに見えるものを集めてしまったりするもんだ。後で思い返してみると、なんでそんなことをしたのか分からないようなものなんだがな」

「……」

 佐東は何か考えるように天井の方を見上げる。

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