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白い肌  作者: ゆずさくら


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(25)

 和室の奥でも、パソコンと同じような映像が映っている。

 頭の奥で、誰かが逃げろと言っている気がする。

 ふと気付くと、映像の中の井戸の縁に、人の手がかかっている。

 内側から何者かが登ってこようとしているのだ。

 ゾクッと、体が震えた。

 椅子から立ち上がれない。

 目をそらしたくても、それも危険だと分かる。

 奥の和室から、ザーっと音が漏れる。

「!」

 俺は慌ててノートパソコンの蓋を閉じる。

 そっちが危険だ。ノートパソコンの映像ではない。

 俺は立ち上がって、奥の和室の方へ近づく。

 ガタッ、と音がして辺りを見渡す。

 動くものはない。

 やはり、和室の方からなのだ。

 近づいては行けない、と感じながら、確かめないと行けない気がする。

「和世さん?」

 いつの間にか、座っていたところに和世さんがいなくなっている。

「和世さん?」

 そう言いながら、薄暗い、奥の和室へゆっくりと近づく。

 ずるっ、と何か重いものを引きずる音がする。

 畳の上を何か引っ張ってくるのか?

 それを確かめようと、すこしずつ動いて和室の中を覗き込む。

「ず、かずよさん?」

 黒く長い髪に、白い着物。

 四つん這いにうごく大人の姿は、奇妙で異様に思えた。

「かずよさん」

 ゆっくりとその人物が立ち上がる。

 長い髪で、顔は見えない。

 俺は後ずさりして、机に手をついた。

 長い髪を前に垂らしたその着物の人物は、肩で歩くように、ゆらり、ゆらり、と近づいてくる。

「かずよ、かずよさん」

 俺は声が大きくなっていた。

 叫び出しそうになる、寸前の声。

「うるせいぞ和世」

 フロントの方の扉が開く。

 お婆さんが顔を出してたしなめる。

「客人脅かすのもいい加減にしろぉ」

「!」

 その瞬間、和室にいた人物が俺の目の前に立っていた。

 黒髪から憎しみのこもった、青白く光る目が見えた。

「ひっ……」

 俺はのけぞる様に避けると、机の上に座ってしまった。

「……いいところだったのに」

 長い髪を頭頂から引っ張り上げると、その髪ごと、青白い瞳や皮膚がズルリと抜けた。

「びっくりした?」

 息が止まりそうだった。

 どうやら、その長い髪と青白い目がついた皮膚は、マスクだったようだ。

 和世さんが脅かそうと、そのマスクを被って、和室から這い出てきた、ということのようだった。

「ね、びっくりしたの?」

 俺は何か記憶の底にあるものを揺さぶられて、身動きが取れなかった。

 何が起こったのか、頭ではわかったものの、身体(からだ)がしっかり把握できなくて、和世さんに返事もできなかった。

「おどかしすぎだぁ」

「ご、ごめんなさい。さっきのDVD、続きにはちゃんと駐車場のカメラの映像入っているから、怖がらないで?」

 床を見て呆然としている俺を、下から覗き込むようにしてそう言った。

 しばらくして、俺は尿意を催した。

「と、トイレ貸してください」

 和世さんに案内され、通路に戻り奥に進みむとトイレがあった。

 きぃーっと、耳障りな音がして、扉が開いた。

 洋式の座るタイプの便器があった。

 普段は小便が飛び散らないよう、座ってしているのだが、何かにつかまれそうな気がして座れなかった。

 便座を跳ね上げて、立ったままようをたす。

 している最中に、さっきの金属の鎖がキーキー音を立てるのが聞こえてくる。

 さっきの恐怖が体表全体に戻ってきて、一本一本の毛が逆立つのを感じる。

「(は、早くおわってくれ……)」

 小便は意思に反して止まってくれない。

 音は正面から聞こえてくる。

 もしかしたら、その水のタンクから何かが……

 寒くないはずなのに、寒気と動悸が襲ってくる。

 力をいれているわけでも無いのに、指が震える。

 ようやく終わった時には音は聞こえなくなっていた。

 水を流して、トイレの扉を開けると、人影があった。

「!」

 足元に、長い髪。

 人の頭のような影、それを右手で掴んでいる。

 ずっと上を見ていくと…… 和世さんが立っていた。

「な、なんでそこにいるんです……」

「帰ってこれないとまずいな、と思って」

「?」

「あなた、幻覚みるんでしょ。事務所の扉も見慣れてないと、開けづらいし」

 俺はゆっくりうなずくと、和世さんはさっきのマスクを右手にもったまま、事務所に向かってあるき始めた。

 ついていきながら、右手に掴んでいる奇っ怪なマスクを早くしまってくれないかと思った。

 事務所に戻ると、俺はパソコンの前に座り、肘をついて頭を抱えた。

「コーヒーいれるけど飲みます?」

「はい」

 返事をして、和世さんの方を見た。

「あ、言っときますが、インスタントですけど?」

「いいですよ」

「いらない?」

「ください」

「クリームとお砂糖どうします?」

 いつもは両方入れるのだが、今は強い刺激で覚醒しないとまずい、と思った。

「両方いらないです」

「はい」

 和世さんが、茶色い陶器のカップをもってそろそろとやってきて机に置いた。

「どうぞ」

「さっきの何なんです?」

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