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白い肌  作者: ゆずさくら


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17/42

(17)

 小さな小屋に入り、電球の横のスイッチを入れた。

 オレンジ色にぼんやりとトイレを照らし始める。

 下に落とすだけのトイレ。

 チャックを下ろして、底へ小便を出そうとする。

 突然、ガタン、と音がする。

「!」

 左の影に何かが見えた。

「ひ、人? 人の首……」

 慌ててしまおうとするが、上手くいかない。

 床に小便を撒き散らしてしまう。

 いや、違う、落ち着け。

「(な、なんだ……)」

 単純に、木目が何か人の顔のように見えただけだ。見ると、トイレットペーパが上の棚につんであり、それが一つ落ちていた。音はそれだろう。

 すこし前進して、用を終えた。

 俺はこぼしてしまったものをトイレットペーパーで拭き取って、中に捨てた。

 そして上がってまた電球を消そうと手を伸ばした。

「うわっ!」

 トイレの穴のなかから、青白い腕が出てきて、俺の足を引っ張った。

 灯りのスイッチを回した瞬間、足がトイレの中に引き釣りこまれてしまう。

 残っている右足で懸命に踏ん張る。左手をトイレの壁突っ張っらせて、必死に足を引き上げる。

「ふぅ、ふー」

 トイレの穴を見るが、何者かがいる気配も、音もしなかった。

 息を整え、トイレを出る。

 突いたり消えたりする蛍光灯で、自分の体を確認する。

 トイレに突っ込んでしまった左足のズボンが、自分の垂れ流した汚物で汚れてしまった。

 本当にその青白い腕を見たのか、それとも俺の不注意で足を滑らせたのか、もう何が本当なのかすらどうでも良かった。

 ラブホの駐車場へ入る前に、山道の方を振り返る。

 なにも見えない。ただ闇が口を開けているだけ。

 パタタタ…… と鳥が飛び去るような音が聞こえた。

「(夜に鳥が飛べるのか?)」

 俺はそう思ったが、その姿を探す余裕はなかった。

 ラブホテルの駐車場に戻ると、俺はスマフォのライトを点けた。

 もう追跡がバレてもいい、とにかく恐怖から逃れたい。

 俺は薄暗い駐車場をスマフォの明るいLEDで照らして通り抜けた。

 国道沿いに出ると、井上が止めていた車の方へ急ぐ。

 助手席の後ろのスライドドアを開ける。

「ズボンを汚しちまった。あんまり臭いからここで、捨てていく」

 ポケットのものを全てだし、作業員の服を取り出して、ズボンだけ履き替えた。

 そして、履いていたズボンは丸めてコンビニ袋にいれて口を縛った。

「これなら臭いも出ないだろう。オフィスに戻ったら捨てる」

 俺はそのまま前の座席に座った。

「さあ、戻ろう。今日の調査はお終いだ」


 加茂の家に戻り、俺はずっと奥さんが戻ってくるかを見張った。

 前日、たくさん仕事をしてもらった井上を、今日は休ませなければいけない。

 ずっと家の出入口を注意して見ていたが、加茂の奥さんが戻ってくる様子はなかった。

 陽が上がり、加茂が出勤する際、開いた玄関の中に加茂の奥さんを見つけた。

「(また戻ってる。あのワンボックスが戻るところを見ていない。なのに俺たちより早く? どうやって?)」

 俺は頭をひねりながら、駐車場に戻る。

 車を見ると、運転席に井上の姿がない。

 車の中で用でも足しているのか、と思い運転席に座る。

「井上? いるのか?」

 ルームミラーで車内を確認する。

 流石に狭い車内だ、確かめられるはずだった。

「井上? おい?」

 ミラー越しに車内に話しかける。

 だが、返事はない。

「?」

 スマフォを取り出し、メッセージを書こうとして気付いた。

『抜ける道はあるか?』が既読にすらなっていない。

「えっ?」

 いや、ここまでは誰が運転してきたんだ?

 ちょっとまて。

 俺はもう一度車内側へ戻った。

 落とし物でも探すように、背もたれの後ろを覗き込んでみたり、車両の外、後ろ、屋根、下まで見た。

「井上?」

 慌てて、電話をかける。

 呼び出し音はなるが、誰も出ない。

 車内で井上のスマフォがバイブレーションする音もない。

「車の外にでた?」

 俺は車の外にでて注意深く周囲を調べる。

 何か事件に巻き込まれたのなら、井上も探偵社の一員だ、手がかりを残すだろう。

 車の回り、駐車場、周囲の雰囲気をみても何か事件があったようには思えないし、どこに行ったのかも分からない。

 俺は車に乗って考える。

 ちょっとまて…… スマフォのメッセージを見ながら、俺は気付いた。

「昨日から井上はスマフォを見ていない……」

 いや、まて、昨日車を降りた後、全く井上と話しをしていない……

 帰りの高速道路は誰が運転したんだ?

 井上がいたはずだ、いや、何か混乱している。

 俺はスマフォを取り出し、オフィスに電話した。

「君島です。あの、井上がいないんです。何か…… 何かそっちに連絡入ってませんか」

 伊藤さんは佐東さんのことで奥さんと県警に付き添いで行っていて戻っていないと言う。

 誰か他に情報を知っている奴はいないのか。

 電話の向こうでバタバタしていのがわかるが、待っているこっちのことを考えていない。

 ようやく電話口に人がきた。

「分からないです。」

「待ってるから、折り返しかけて」

「いつわかるか……」

「社長は?」

「しゃ社長ですか?」

「井上が行方不明なんだぞ」

 何か、ゴソゴソと電話口で音がする。

「伊藤だ、どうした?」

「伊藤さん、帰ってたんですか! 井上がいないんです」

「……なんだって」

「賀茂の家の近くの駐車場です」

「……」

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