表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白い肌  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/42

(16)

 ワンボックスは以前に追跡したクーペのように、高速道路に乗って、湖方向へ走り出した。

「なんなんだろう、なんでいつもあの湖側へ向かうんだ」

「さあ、わかりませんけど、ラブホとかがあるのはこっち方向ですよね」

「……それはそうなのかも知れないが」

「逆方向は都心だし、南下しても北上しても…… まあ、一番手っ取り早いんだと思います」

 走行しているのはトラックぐらいで、一般車両の方が目立ってしまう。

 距離を置きながら、車線を後追いで変更し、近づいたり離れたりしながら追い続ける。

「……おいおい、この前と同じところで下りるつもりだ」

「もし同じラブホに入るようなら、俺がすぐ左に車止めますから、車降りて、どこに向かうのか確かめてきてください」

 思い出しながら胸が痛んだ。

 俺がもっと早く車を止めれれば、クーペを見失わず、佐東さんも行方不明にならずに済んだかもしれない。

「……」

 ETC装置が車内に料金を告げた。

「君島さんを責めるつもりで言ったんじゃないです」

「……わかってる」

 ゆっくりと間隔をあけて追跡する。

 以前とおなじ、あのラブホがある方へと曲がる。

 すこし緊張した。

「あれだ……」

 俺は前にクーペが曲がって消えたラブホを見つけるとそう言った。

 走っているワンボックスは急にスピードを上げてから、ウインカーを出した。

「ここで降りてください」

「えっ」

 左の路肩にすっと寄せて止まると、俺は言われるまま素早く降りた。

 そして、俺は小走りに走りながらラブホへ近づいた。

 井上はそのまま車を加速させラブホの先のスペースに車を突っ込み、方向転換をして車を待機させた。

 俺はラブホの駐車場に体をかがめて侵入し、ワンボックスがどこにいるかを確認する。

 最初のブロックには車が止まっていない。

 壁伝いに進み、奥のブロックを確認する。

 薄暗いとは言え、普通に歩いていては目立ってしまう。

 蛍光灯の光が弱いところを縫うようにあるく。

「……」

 消えた? 車が消えた? 異次元にでもつながっているのか?

 駐車場にはワンボックスの姿はなかった。

 佐東さんとここに入った時のことを思い出した。

 クーペが進んだと思われる方向は、この駐車場ではなかった。この先、駐車場を出たころだ。

 佐東さんがいなくなった所……

 俺は少し怖くなった。

 目立たないところまで下がってから、スマフォを取り出す。

 明るい画面が回りを照らしてしまう。

『井上、ワンボックスが見つからない。この周辺の道から抜け出る方法がないか探してくれ、後、ここからワンボックスが出ていかないか見張るんだ。俺はラブホの奥へ入る』

『はい』

『俺が戻らなかったら』

 そこまで書いて、身震いした。

 うっかりその段階で送信してしまった。

 これは佐東さんと同じ…… もしかして、この先に何かがあるのか?

 俺はスマフォをそのまま消して、駐車場を抜け出た。

 屋外のトイレは先週と同じようにそこにあって、林へと続く山道も同じだった。

 俺はゆっくり山道へ進み、スマフォのライトで道を照らした。

 道には小さな水たまりがあり、その水が、奥へと車が進んだことを示していた。

「(まるきり先週と同じかよ……)」

 俺は頭のなかで思っているだけでは怖くなり、そう声に出してしまった。

 佐東さん……

 俺はその先へ歩き始めた。

 結局、あの時一緒に行っていればよかったのかもしれない。

 ちょっと入ると、木々の影でラブホの光は遮られ、道は真っ暗になってくる。

 見上げると葉が生い茂っており、空からの灯りは届かない。

 かと言って、灯りを付けると、場所を知らせてしまうようなものだ。

 もしこの先に奥さんと浮気相手がいるのだとしたら。

 俺は少し道から入って、しゃがんで光が漏れないようにスマフォを付けた。

『どうだ、この奥に抜ける道はあるか?』

 しばらく待つが、井上からの反応がない。既読にもならない。

 エンジン音が聞こえたような気がして、スマフォをポケットに入れると、その方向を見た。

 赤い光が見える。

 ブレーキランプだろうか。

 俺はゆっくり近づいてみる。

 草や枝を踏んでしまって、音が出てしまう。

 闇に目が慣れてきているはずだが、赤い光が見えた周辺に車のようなものを確認出来ない。

「(道に戻った方がいいな)」

 枝を踏み抜いて折るような音や、草をかき分ける乾いた音がしてしまう。

 ゆっくりと、音を立てないように道に戻り、轍に沿って歩くことにした。

 また少し奥に入ると、エンジン音のようなものとともに、赤い光がスッと前に消えていく。

 今度は少しだけ、赤い光の形もわかった。

 おそらく追跡していたワンボックスのブレーキランプだ。

 俺は更にそれを追いかけるように山道を進む。

 曲がっては、車のランプを見、引き離されてはまた追いつく。

「(おかしい…… あの車、この道を進むのにヘッドライトを点けていない)」

 追いかけるのを止め、回りに注意を向けた。

 風の音に混じって、何かが動いているような音が聞こえる。

 いや、動いている音ではなく、話し声のような、叫び声のような、生命が空気を震わせる音、とでも言うべきなのか…… それとも、これは『気配』と表現する類のものだろうか。

 道の回りから、時折、落ちた枝や草を踏む音がする。

 太めの木を見つけ、そこに隠れるようにしゃがむ。

『井上、俺達はハメられたのかもしれないな……』

 俺はそうメッセージを書いて、思い出す。佐東さんは、まさか…… 今の俺と同じような状態だったんじゃ……

 怖さが先に経って、俺は来た道を引き返し始めた。

 自分の足が道を蹴る音が周りに響く。

「(いや、俺以外にもいる)」

 左右から、ささっ、さささっ、とこちらの様子をみるように、つられて動く音がする。

 間違いない。逃げないと。探偵社の人間が、奥さんを追いかけるとかそういう状況じゃない。

 殺られる。多分、佐東さんが殺られたように……

 俺はいつの間にか走り出していた。


 途中で何度か転んでしまって、頬や腕に擦り傷が出来ていた。

 ラブホテルの外にあるトイレの灯りが見える。

 周囲に何かいたと思っていた音は、いつの間にか消えていた。

 走ったときにかいた汗で、体が冷えてくるのを感じた。

「(と、トイレ……)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ