(14)
「ああ、頼む」
俺は奥さんの画像SNSを見た。
今日はお友達と昼食を撮ったようで、北欧系の国の料理の写真を撮って載せていた。
俺は、もう一度写真SNSの過去の投稿を追ってみた。投稿の曜日に規則性があるのか、どうかだった。
井上が指摘している通り、ここ何回か、道路の写真は同じ曜日に投稿されていた。しかし、それは直近の傾向であり、加茂が浮気と疑い始めたころは、違う曜日だった。
だが、一度始まると何回かは同じ曜日になっている。水曜日、水曜日…… と四五回続くと、月曜日、月曜日、月曜日…… というような風に。
「へぇ」
「どうしました?」
「あ、お前が言ってたみたいに、奥さんの画像SNSには傾向があるんだなって」
「ああ…… そうですよね。何回か同じ曜日が続きますよね。でね、これって以前あったんですけど」
車線に強引に入り込んできた車に、クラクションを鳴らして、言葉が途切れた。
「……ったく。でね、以前あったんですけど、こういう傾向の場合、浮気相手をとっかえひっかえっしてるんですよ」
「まさか? そうは見えないが」
「いや、見かけはあんまり関係ないですよ。それは君島さんの方が知っていると思いますけど」
確かにおとなしそうだからと言って、浮気の時まで一途であるわけではない。当然、見かけ通りの場合もある。
けれど、大体に場合において人には、それまで行きてきた性分というものがあり、突然人格崩壊するようなことはめったにない。
見かけはおとなしくても、そもそも浮気性の傾向があるのだ。そういう意味で、今回の加茂の奥さんの性分から考えれば、とっかえひっかえ相手を変えるとすれば、かなり意外だと言っていい。
「もしそうなんだとしたら、スイッチが切り替わったみたいだ」
「加茂もそんな風に言ってましたよね」
そうだ、加茂が言っていた。妻は突然夜中に外にでようとした、という。皮膚病のような症状もそのころだという。
何か、体質の変化が性格にも影響したのかもしれない。
とても信じられないような話ではあるが。
その晩は、本当に何事もなかった。加茂もいつもより二時間も早く帰宅し、騒動があるわけでもなく、テレビと何気ない夫婦の会話だけだった。
井上がほとんどの見張りをし、俺は疲れをとることができた。
朝になって、オフィスに着くと俺は荷物を下し、可能な限りをもって運んだ。
井上は車を駐車場へ返しに行った。
日報を書いて一息ついた時、スマフォのメールに気付いた。
「(伊藤さんからだ)」
『湖に浮かんだ手についていた、結婚指輪の内側に刻まれていたのは奥さんに見てもらう限り、佐東のもので間違いない』
日付は昨日のものだった。
なんで今まで気が付かなかったんだ、何度もスマフォの画面をみたのに。
『ただ、警察は何か別の情報をつかんでいるらしく、手を佐東のものじゃないと疑っているようだ。もちろん、奥さんにはそんな素振りは見せていない。お前も口外するな。だが、警察がなにかつかんでいるのは確かだ』
手についていた指輪が佐東さんのもので、佐東さんは行方知れずだ。その手が佐東さんで、佐東さんはもう消されている、と考えるのが自然だが。まさか佐東さんが生きていて、自分を隠すために他人の遺体に指輪をつけて流した、というのだろうか。伊藤さんの言い方からすると、警察はそう思っているということだ。
「佐東さんって、何かヤバい案件あったんすか?」
「なにが言いたい、井上」
俺は立ち上がって振り返った。
そして襟をつかんで絞り上げた。
「なんでそんなに興奮してんすか。俺もさっきそのメール見ました。チェックしてたはずなのに、なんで今頃届いたのかわかりませんけど」
俺一人なら、メールを見落としていたのだ、と思ったが、井上も今みたとなると、配信が遅れたとか、サーバー側でのなんらかの遅延とかなのだろうか。
「君島さんと、佐東さんが担当していた、やり残しの案件って何ですか」
「……」
俺は言いかけたが、いろいろと頭の中で思い出していた。
今回と同じような浮気調査の案件だった。佐東さんが消えなければならないような案件ではない。
「ヤバい案件じゃない」
絞っていた手を緩めた。
「話してくんないんですか? ま、日報調べりゃわかりますけど」
「なんでそういう引っかかる言い方をするんだ」
「正直に話せばいいだけのことでしょう? 君島さんがもったいぶってるんですよ」
俺は椅子に座った。
井上も近くの椅子を引っ張ってきて座った。
「今回と同じような件さ。浮気のな。ただ、俺と佐東さんが見ている隙に、クライアントが失踪した」
「へ?」
「奥さんの行動を追いかけている間に、夫が消えたんだ」
「そのクライアントって、もしかして、これ系ですか?」
井上は自分の頬に小指をスッとはしらせる。
「いや」
「じゃあ、佐東さんが狙われたり逃げたりする理由ないっすね」
「クライアントからの連絡と金が止まってしまったから、調査も休止しているが」
「佐東さんが借金してるとか、奥さんと別れたがってるとか?」
首を振って、手を振って、話をやめさせた。
「もういい、とにかく佐東さんが自分で疾走する理由なんてないよ」
井上はじっとこっちを見て固まってしまった。
「警察は、何を根拠に佐東さんがそんなことをしたと思っているんだろう」
「もう一人、消えてるからじゃないんですか?」
「井上、お前何を知ってる?」
「君島さんの方がご存知でしょ? クーペの男ですよ。クーペはNシステムに引っかかっていないんでしょう。つまりクーペごと失踪している。つまり、湖で同時に二人消えたわけです」
「それを関連付ける方がどうかしてる」
「だって調査対象のお相手と探偵って、そこらへんを歩いている二人を無作為に連れてくるより、ずっと関係が深い訳じゃないですか」
俺は反論できなかった。
だが、あの時クーペは見つけられていない。
佐東さんが消えた方向にクーペとその男がいたとは思えない。
「俺と佐東さんはクーペがホテルに入る以降、見失ってしまって」
「君島さんはそうかもしれませんが、佐東さんはしばらく見ていたわけでしょう?」
「いや、ホテルに入ったところまでだ」
「すぐ出てきたとしたら、佐東さんはわかっていて、君島さんは知らない、ということがありえる」
「何が言いたい」
井上は、まるで佐東さんを加害者のように言う。
「佐東さんが、林に入った後、クーペの居場所に向かったのだとしても、君島さんにはわかりませんよね」
「……その通りだが」
「怒らないでくださいよ。あくまで可能性の話です」
「今日、湖まで行くか?」
俺は半ば自棄になっていた。
「湖まで行ってクーペがないか確認するか」




