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本名長嶋あつし、年齢二十九歳。身長百八十五センチ、体重七十二キロ、有名私立大を卒業。
「あの画像SNSもかな?」
俺は奥さんが使っている画像主体のSNSを見た。長嶋はしっかり奥さんのフォローをしている。
「はでなプロフィールだ」
何しろ書かなくていいことまで書いている。年収から、今まで乗った車の車種、今の車に乗せている自転車のブランドまで……
俺はそのプロフィールから他のSNSの方へ回った。
こいつのことが知りたいわけじゃなく、加茂の奥さんと知り合ったSNSがあるのかどうかだった。
「他のSNSでは本名使っていないよな……」
以前探したときに見つかったのは、この画像SNSだけだった。長嶋がフォローしている、あるいはフォローされているメンバーに、奥さんらしい人物がいないか調べてみる。
その日記系SNSで、この長嶋が投稿した『今日はドライブ』に『いいね』をいれた人物に目が留まった。
山の中の風景に、この男のアウトドア系4WDワンボックスの車、そして本人の姿が写っている写真だった。
「これに『いいね』をするか?」
普通に長嶋が投稿すれば、10~15の『いいね』はコンスタントについていた。
だが、大体はデフォルトアイコンのもので、何かわざとらしさを感じるものだった。
そのエントリーにだけ、凝ったアイコンで『いいね』が入っていたのだ。本物の『いいね』とでも言うのだろうか。だから、それが奥さんのものではないかと考えたのだ。
俺はとにかく、そのアカウントをたどってみた。
女性であること、画像SNSに載せている写真と同じようなものを見つけることができた。
このアカウントが奥さんのものだと分かれば、浮気の証拠とまではいかないが、浮気している可能性は増しくる。しばらくこっちのアカウントも追いかけてみよう。
「伊藤さんからきいてますか?」
背後に人の気配を感じて振り返った。
「井上くん? だっけ。いやまだ聞いてない」
うちの若手だった。
正直、顔はろくに覚えていなかった。ただ、車の運転が上手いというのは聞いたことがある。
「はい。井上です。君島さんと調査することになったんです」
「明日だって聞いてたけど」
「今からだって」
困ったような顔をしてこっちを見てくる。
「伊藤さんに確認してみるよ。待ってて」
伊藤さんに電話をかける。
『ああ、連絡してなかったな。早く終わったんで井上には今から入るように言った』
「なるほど、そうだったんですか」
俺は井上くんに指でマルを作って知らせた。
『佐東はまだ連絡がない…… 俺も思い当たるところには連絡入れたんだがな』
「そうですか」
それから、少しだけ連絡事項を告げられ、電話を切った。
「今からはいっていいんですよね?」
「ああ、よろしく」
「佐東さんのことですが、君島さんからみてどうなんですか?」
「どうって? 早く見つかって欲しいよ」
井上は視線を下げた。
「その…… 自分の意思でいなくなったんじゃなくて、って感じですか?」
「ああ。何か事件に巻き込まれたとしか思えない」
「それって今回の調査で?」
井上の表情を見た。
今回の調査に関わると俺も巻き込まれますか、とでも言いたげだ。
「確かに今回の調査の過程ではあったども、まだ明らかになってないからね。だって、俺は平気なわけでしょ。まあ…… けど…… うん。慎重にいこう」
表情が晴れたわけではなかったが、変に嫌がったり断ったりという感じではない。
俺はそのまま今回の件の説明をした。
クライアントの加茂からの依頼、今進行している調査の内容。今張り込んでいる周辺の情報、といったところを説明した。
「運転は任せてくださいよ」
「ああ、上手いんだって? 俺が得意じゃないから助かるよ」
そして、今晩から井上と俺での張り込みが始まった。
しかし、それからピタッと不審な行動が止まってしまった。
井上のドライビングテクニックを発揮する場面もなく、調査から七日が過ぎていた。
「今日も何もありませんでしたね」
井上が運転しながら、俺にぼやいた。
「ああ、そうだな……」
「ちょうど一週間ですか。もし何かサイクルがあるなら、明日、ですかね?」
一週間…… ということは、佐東さんがいなくなって一週間経過している。
警察へ届け出しているが、捜査をするようすはないそうだ。事件性は薄い、と考えているわけだ。
「画像SNSの、道路の写真ってどうなってますか?」
俺が警察に行って、事件性を証言するべきだったのではないか。
「君島さん? 聞いてます?」
「あっ、ん? なんだっけ?」
「加茂の奥さんの画像SNSですよ。道路の写真、でましたか?」
「いや…… 最近はカルチャースクールで作った工芸品の写真ばっかりだ」
「道路の写真が載るなら、明日かもしれませんね?」
「えっ?」
「さっき言ったサイクルの話ですよ。同じ曜日に同じような写真が載る可能性はあるんじゃないですか?」
浮気していたとして、月に何回その相手とあうのか、という話だ。
同じ曜日の、同じ時間に会う。よくあるパターンで、全部都合がつけば月に4回という計算になるが、実際は2~3回というのが平均的浮気回数らしい。毎週ではないにしろ、井上の読み通り、同じ曜日に同じように出会う可能性は高いだろう。
「だが、画像SNSで見る限り、そういうサイクルの訳じゃないが」
「まあ、でも可能性は高いとおもいますよ」
「とりあえず、明日は気合をいれていかないと……」
「思うんですが、日中の奥さんの様子をちっとも見てないですが、大丈夫なんですかね?」
「どういう意味だ?」
「浮気相手と知り合うのは日中の行動だと思うんですよね」
加茂の指示は夜中に出ていく、その行動を押さえてくれだった。
確かに浮気をしているのだとしたら、日中の方がたっぷり時間を使える。
「クライアントの指示にはないんだよ。今度クライアントから電話が来たら、申し出てみるか?」
「このクライアントって金持ちなんですか?」
「まあ、あの住宅街に家を建てるくらいには金持っているんだろうさ」
「なら日中の調査もしましょう、って持ち掛ければ……」
日中の行動で浮気相手と知り合った、そういう意味だ。
だから、井上が言うには、浮気は夜かもしれないが、日中は日中で会っているんじゃないか、ということらしかった。
日中を調べないと、今回は終わったとしても、次があるんじゃないか、ということだ。
「まぁ、離婚したら次は浮気、じゃないからな、それは自由な恋愛だ」
「……離婚の種が見つかれば調査は終了ってことですか」
「簡単に言えば、そういうことだ」




