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白い肌  作者: ゆずさくら
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(1)

「この独房、いつの間に君島になったんでしたっけ?」

「ああ…… そういえば、お前が長期休暇の時だったな」

「いつの間にこんなに?」

「面会がきっかけらしいな。色白の、ちょっと色っぽい感じの女性だった」

「面会ですか?」

 周りをみて、喫煙場所に行こうという仕草をした。

 しばらく歩いてから周りを見渡し、廊下で話を始めた。

「なんです、あそこでは話せないんですか」

「気味悪いうわさがあってな」

「……人肉食ったっていう?」

 うなずいた。

「聞くのを嫌がる連中がいるのさ」

「……」

 喫煙場所につくと、お互いタバコに火をつけた。

 ものすごい勢いで回る換気扇が、煙を外へ追い出す。

 ステンレスのバケツに入った水は、溶け出したニコチンでどす黒く変色している。

 ふぅーと最初の煙を吐くと、話し始めた。

「君島に面会があったんだ」

「はぁ。それで気が狂ったんですか?」

「まぁ、きけ」

 先輩は、面会の時の騒動を細かく話した。

「面会人とあって気が狂った?」

 先輩はうなずいた。







 何時もより憂鬱な気分で会社に行ったからなのかもしれない。

 その日は小雨が降っていて、ジメジメとした嫌な気持ちだった。

 電車に乗っても人の傘が足に当たり、じわじわ濡れていくのを我慢しなければならなかった。

 会社についた頃には、すっかりやる気がなくなっていた。すぐにでも帰りたいくらいだった。

 そんな気分で、ぼんやりとパソコンの前に座っていると、新しいクライアントがーーいや、まだ契約していないからクライアントになるかはわからなかったがーーが会社にやってくると、俺と佐東さんが呼ばれた。

「どうやら奥さんの浮気の証拠をつかんで欲しいということらしいが。佐東、君島、内容を確認してくれ」

「伊藤さん、まだあの件が……」

 佐東さんがそう言うのも無理はなかった。

 しかかり中の調査があった。その調査は長期戦になりかけていて、半ば止まっていたのだが。

「前の件が片付いていないのはわかる。こっちもあっちも皆、複数抱えてるんだ。わかってくれよ」

「……はぁ」

「そうだ、二人とも昼飯でもおごるから。元気出せよ」

「ありがとうございます」

 おごり、と聞いて佐東さんは幾分気持ちが上がったようだった。

 伊藤さんは俺の肩もポンポン、と叩いて「な」と言うと、オフィス側に戻っていった。

 俺と佐東さんは顔を見合わせて、クライアントの待つ応接室へ入った。

「しつれいします」

 応接室に入ると、うつむいたクライアントがパッと立ち上がって顔を上げた。

 顔の皺がおおく、かなり年齢が上だと感じた。

 名刺を交換し終えると、佐東さんがクライアントから書類を受け取った。

「どうぞおかけください」

 俺はそのタイミングで机にICボイスレコーダを出した。

「聞き間違えや漏れがないよう、会話は録音させていただきます」

 クライアントは静かにうなずいた。

 佐東さんが受け取った書類を見ながら読み上げた。

「加茂亮太さん、19xx年2月14日生まれ、出身は東京……」

 年齢を聞いて内心、嘘つけ、とツッコミたくなっていた。

 それほどクライアントーー加茂亮太は老けてみえた。

「……依頼内容は配偶者の浮気、ということなのですが」

 加茂は何か指で操作すると、スッとタブレットを出してきた。

 そこのは奥さんの画像が映っていた。

「これが奥さんですか」

「……」

 そこに映る奥さんの画像は、加茂の『実年齢』よりも若くみえる。

 並んだら、お父さんと娘、といった感じだろうか。

 白い肌、艶のある長い髪。なんだろう、タレントやモデルではないのだが、こう男の感情に訴えかけてくるような…… なんだろう、表情なのだろうか。

 上半身もほとんど映っていないので、体つきは分からないが。

「奥さんお名前は? あと、身長、体重とかはわかりますか?」

「身長は155cmだったと思います。体重は教えてくれませんが、どちらかといえば細いほうです」

「全身が映った写真はありますか?」

「……」

 加茂は、タブレットをめくりながら、全身が映った写真を探している。

 確かに全身が映っているが、映像が小さくてよくわからない。

 ピンチして映像を拡大し、なんとか画面の半分くらいになった。

 映像からもわかるが、目の前のクライアントより頭一つ低い感じだ。さっきの身長はほぼ間違いないだろう。

「どうして浮気を疑われたのですか?」

「それが……」

 加茂は急に指を撫でるようにすり合わせ始めた。

「どうなさったんですか」

「……夜中に出歩いているようなんです」

「なるほど」

「出来ることなら」

 指と指を絡ませ、祈るように手を合わせた。

「妻を助けて欲しい」

「助ける?」

「浮気をやめさせてほしいという意味です」

 俺はここでの話を全部記録し、書類をおこさねばならなかった。

 全てはICボイスレコーダーで記録はしているものの、動画ではないので、忘れない内に印象のようなものをメモしていた。

 この時、震えた、とメモしていた。

 俺が震えたのか…… いや、クライアント、すなわち加茂が震えたのだ。

 浮気調査が目的ではなく、実は奥さんを救って欲しい、ということなのだろうか。

「では、奥さんの行動を調査します。もっと細かい情報はありませんか。こちらが出動するだけでお金が発生しますので、何曜日が怪しいとか。何時くらいとか……」

「曜日は…… 曜日は良く分かりません。私が早く寝る土日は出ていっている風ではありませんから、平日の夜中、ということになるでしょうか」

「分かるまで調べてしまっていいのですか? 料金の設定があって」

 佐東さんがパック料金の表をだして、それを提案している。

「一週間…… そんなに簡単に分かるもんなんでしょうか」

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