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備忘録2 親を捨てる  作者: 小日向冬子
ふたりで生きていく
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7 強くなりたい

 彼の親と同居することに、迷いはなかった。

 でもそのためには自分がもっと大人にならなくてはいけないと、そう感じてはいた。



 恋愛中はいつでもわたしのことだけを見ていてくれたのに、今の彼の頭の中は別のことでいっぱい。


 わかってる。

 仕事やお金や引っ越しの時期やその後の生活、現実的に考えなければならないことはいくらでもあるのだ。

 わかってる。

 結婚は現実なのだ。


 それでもふと寂しくなってしまう。

 一緒にいるだけであんなに幸せだったのに。



 彼が黙っているだけで、不機嫌そうに見えて怖くなる。わたしが何か気に障ることをしてしまったんじゃないだろうか、と。

 相手の顔色を勝手に深読みし委縮してしまう、いつもの悪い癖。これでは、顔色をうかがう相手が父から彼に代わっただけではないか。


 互いに見つめあっていれば幸せだった時期はもう終わったのだ。これからは、2人並んで前を向かなければ、一緒に生きていくことはできない。


 もっと、もっと強くなれ。

 この人とずっと歩いて行けるように。


 ともすれば負けそうになる心を、そうやって必死に奮い立たせた。





 もうひとつその頃のわたしを悩ませていたのが、病気のことだった。


 周期的に訪れる、お腹を内側からメリメリと剥がされていくような痛み。月に何日かはまともに動くことができなくなる。


 最終的に下された診断は子宮筋腫と内膜症。


 体調が悪くなると、途端に気持ちも弱くなる。

 けれど彼はもう、以前のようにわたしを甘やかしてはくれない。


「ゆっくり休みな」ということばがまとうある種のそっけなさを感じるたびに「こんなに調子が悪いのに、どうしてもっと優しくしてくれないの?」そんな不満が頭をもたげてくる。


 やっぱり自分は役立たずなんだ。

 こういうわたしを面倒だと思っているんじゃないの?

 悲観的な想いが次々と湧いてきて、どんどん深みにはまっていく。

 そうやってずぶずぶと沈んだ先にあるのは、彼を恨めしく思うねじれた気持ち。



 今ならよくわかる。

 わたしは彼を頼りにしていたけれど、頼り過ぎてもいた。


 いけないとわかっていながらも、しなだれかかろうとしてしまう弱い心を自分では抑えられない不安定さ。


 たぶん彼には全部わかっていたのだと思う。

 だからときにはあえて距離をおいたのだ、わたしがそこを自力で乗り越えていくために。


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