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備忘録2 親を捨てる  作者: 小日向冬子
新しい家族
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27 あたらしいおともだち

 春が来た。


 桜、山吹、春紫苑。

 家の近くの小さな公園にも色とりどりの花が咲き乱れ、子どもたちが無邪気に遊ぶ。


 が、その中にもう、ヒロくん親子の姿はない。


 ヒロくんに出会うまでの一年近くもの間、子どもという子どもを拒絶してきたハルキ。

 果たして今のハルキは、ヒロくん以外のともだちを作ることができるのだろうか。


 不安に揺れる心をなだめながら、意を決してハルキの手をとりにぎやかな公園に足を踏み入れる。


 すると、顔見知りのママたちがすぐに気づいて声をかけてくれた。


「あ、ハルキくーん。一緒に遊ぼう」


 走り回っていた子どもたちも、笑顔で無邪気に近づいてくる。


「ほらハルキ、みんなで遊ぼうって言ってるよ」


 そっと背中を押すわたしを、不安そうに何度も振り返る幼い視線。

 大丈夫だよ、ママはここにいるからね、と精一杯の笑顔を返す。


 祈るような気持ちで見守る母の胸の内を知ってか知らずか、ハルキはそのまま列に混じって滑り台に登り始めた。


「順番だよ」


「じゃあ次ね」


 自然にみんなとことばを交わしているハルキ。


 当たり前のはずのその光景に、思わず胸が熱くなった。





 運動神経抜群のジュン君と、小柄だけれどしっかり者のカイト君、そして無口でマイペースなスミレちゃん。

 すぐ近所に住んでいる同い年の3人と、ハルキはすぐに仲良しになった。


 いつもの公園に行けば必ず誰かがいたし、毎日一緒に遊ぶうちに自然と互いの家にもお邪魔するようになった。


 幸いなことにママたちはみんな明るく気さくで、絶妙な気配りのできる人たちだった。そのおかげで、人付き合いが得意でないわたしでも、その輪にすんなり溶け込むことができた。


 そうして子どもたちが保育園に入るまでの一年間、わたしたちはたくさんの時間をともに過ごし、助け合い、そして様々なことを語り合った。


 最近全然言うこときかないとか野菜を食べてくれなくてという子育ての悩みから、保育園はどうするとかいう情報交換、そして親が何かと口出ししてきてさ、という愚痴にいたるまで、脈絡なく広がっていくあけっぴろげなおしゃべり。


 親しさを増していくにつれて、それぞれの家の内情が見え隠れする。


 が、そんな中でもわたしは、義父母への不満やお金の苦労を口にすることは決してなかった。すでにそれは笑って話せる愚痴のレベルではなかったからだ。


 彼女たちも、立派な家と気前のいい義父母のようすから、まさかうちが実は借金まみれだなんて想像もしていなかっただろう。


 けれど確かにそのせいで、気の置けないママ友であるはずの彼女たちといても、どうしようもなく心に影が差す瞬間があった。


 たとえば、誰かが持ってきた通販のカタログ。

 ページをめくると、手ごろな価格の可愛らしい子ども服やセンスのいい雑貨が溢れかえっている。


「やーだー、見て見て、これ可愛い!」


「ホントだ、いいね、買っちゃおうかな」


「いいんじゃない、スミレちゃんすっごい似合いそう!」


 そんな他愛のないおしゃべりに興じる彼女たちの視線の先にあったのは、1足330円の愛らしいクマの絵がついた靴下だった。


 堅実で、贅沢とはほど遠かった3人のママたち。だからこそ安物やお古ばかりを身につけているわたしでも、浮いてしまうことなく付き合えた。

 そんな彼女たちにとって、安くて可愛い小物を買うことはきっと、ささやかな楽しみだったのだろう。


 けれどもそのささやかな楽しみにさえ、手が届かない人間だっている。


 いくらつましく暮らしていると言っても、何千万という借金に追われ10円20円を使うことすら躊躇するそんな生活を彼女たちは知らないし、もちろん知る必要もない。


 結局は、わたしとは住んでいる世界が違うのだ。


 そのことを思い知らされるたび、ひどくやりきれない気持ちになった。

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