13 ふたりの絆
あのころ彼は、わたしの前であまりお金の話をしなかった。
おそらく、世間知らずでまだまだ不安定なわたしを、悩ませたくないと思っていたのだろう。
けれど、小遣いがなくなった途端に不機嫌になる義父と、ひっきりなしに追いかけてくる数千万の借金のあいだで、彼がどれほど神経をすり減らしているのかは、痛いほどよくわかった。
一度だけ、よほど腹に据えかねたのだろう、滅多に文句を言わない彼が激しく感情をたかぶらせ「そんなに不満なら、親父に金の管理任せてやるよ!」と怒鳴ったことがある。
が、すぐ義母に「お願いだから、それだけはやめて! そんなことしたら、もうおしまいだわ」と泣きつかれて終わった。
まだ二十代半ばというのに、壊れかけたあの家を背負ってしまった彼。
いったいどれほどの重圧だったことだろう。
なのに彼は、どんなに疲れているときでもわたしに苛立ちをぶつけたりはしなかった。それどころかいつも細やかに目を配り、自分を抑えてしまいがちなわたしを気遣ってくれた。
「冬子、しんどいんだろ。もう少し休憩しときな」
「大丈夫、親父が言うことは気にしなくていいよ」
そんなことばの端々に、彼の気持ちが滲んでいた。
――こんな苦労をさせてごめん。
しんどいことはできるかぎり俺が引き受けるから、どうか冬子はいつも笑っていて。
だからなのだろう、信じられないような環境に置かれていたはずなのに、あのころのわたしが不思議なくらい辛いと感じないままでいられたのは。
わたしはいつも、彼に守られていた。
だから、必死になれた。
どうしたらこの人を支えてあげられるんだろう、この人の想いに応えられるんだろうと頭の中はそればかり。
一生懸命仕事を覚えて、義父母とも上手くやって、できるかぎり安心させてあげたかった。
お金も時間もかけられなかったけれど、どうかほんの少しでも疲れた体が休まるように、すり減った神経が癒されるようにと祈るような気持で食事を作った。
あまりに厳しく、そして幸福な日々。
黙っていてもわたしたちは、互いの想いを深く感じあっていた。




