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備忘録2 親を捨てる  作者: 小日向冬子
借金まみれの日々
11/57

11 子の苦労親知らず   

 彼の営業は着々と実を結び、仕事は順調に増えていった。

 次から次へと納期に追われるようになり、家族みんなでフル稼働、朝から晩まで必死に働いた。


 義父と彼は重い段ボールを何十箱も運び、立ちっぱなしで業務用のアイロンをかける。義母とわたしは商品にラベルをつけきっちり畳んで袋詰め。

 単純作業ではあるけれど、とにかくスピードが要求される。どうやって1分1秒を短縮するかの戦いだ。


 そのうえわたしは家事もこなさなければならなかった。

 朝一番で仕事場の掃除を済ませ、大急ぎで洗濯物を干し風呂を洗う。三度の食事以外にも午前と午後に休憩があり、そのたびに階段を駆け上ってバタバタとお茶やお菓子の準備をし、みんなが休憩している隙に猛ダッシュしておつかいを済ませた。


 食事も、体を使って働く大人が4人となれば、それなりのボリュームが必要だ。栄養バランスとそれぞれの好みも考えながら、どうやって食費を抑えようかと毎日頭をひねった。

 幸い比較的物価の安い地域だったので、100g29円の鶏胸肉や1パック150円の小アジといった特売品をふんだんに使い回し、調味料や乾物は業務スーパーでまとめ買いした。


 1分でも早く、1円でも安く。



 が、そんな苦労を知ってか知らずか、義父はしれっと言ってのける。


「このパンは固くてかなわん。やっぱりダブルソ○トでないとだめだわ」

「冬子ちゃんよ、たまには刺身ぐらい食わせてくれんかのう」

「発泡酒はまずくてなあ。やっぱりビールは生でないといかん」


 そのひと言で、やっとの思いで節約した100円200円があっという間に消えて行く。おまけに、食費をなんとか月5万円でやりくりしても、同じだけの金額があっさりと酒とたばこに使われるのだ。


 

 そんなとき頭に浮かぶのは、疲れた体でせっせと野菜を売り歩く母の姿だった。



 たった100円を、子どものためにと何十年も積み上げ続けてくれた母。

 かたや家族が路頭に迷うかもしれない状況にあっても、100円で真っ先に自分の口を満たそうとする義父。





「冬子は、ちゃんと愛されてきてると思うよ」


 わたしが親への不満や幼い頃からの寂しさを口にするたびに、彼はそう言ってふっと悲しげな表情を浮かべていた。

 そのことばの本当の意味が、ようやくわたしにもわかりかけてきた。

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