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序盤の平坦区間。
程川さんたちも仕掛ける様子がない。
と思っていると、大崎さんが前に出てきた。去年程川さんと一緒に大暴れされた、いやな記憶がよみがえる。
集団の空気が彼女が前に出てきただけで変わる。
一周目は、全員でそこそこのんびり行って欲しいなぁと言う私の思いは儚く費えた。
夢中でペダルを回す。前は強豪校のスプリンターたちが利害が一致したのかクライマーを突き放すためにスピードが上がる。
しかし、仕掛けた大崎さんはもとより程川さんも彼女らの学校の二人も振り落とされる気配はない。
大崎さんが早めに仕掛けてみたところを見ると、クライマーと思われる真木さんのアシストには期待していないのかな。なんて淡い期待が出てくる。
やがて先頭集団がだいぶ小さくなったところで少しスピードが落ち着いた。現在先頭集団は20名きっている。
そして一周目の問題の峠に差し掛かる。
そこで、空井さんの淡いふわふわした目つきがまるでスイッチが入ったかのように変わった。
この子やばい。
と思ったときには一瞬で前に出られていた。私の学校のメンバーは序盤の予想以上のハイペースについていけずもうすでに先頭集団にいない。
ここからが勝負だと言わんばかりにさらに空気が濃密になる。
先頭は、当初空井さんが出ていたが、気がついたら登り坂と思えないケイデンスでペダルをなめるように回しながら真木さんが出てきた。
クライマーと思われる二人が、大崎さんと程川さんを守るようにそれでいて、容赦なくペースを上げていく。
空井さんはもとより、真木さんは誤算だった。彼女がクライマーとばれないために大崎さんは早めに仕掛けたのか。
私も何とかついて行こうとしてから考える。
正直な話、二周目の山岳ですべてをかけるつもりだったが、これ程のクライマーが二人。
加えて圧倒的な実力を持つオールラウンダーの程川さんと山もそこそこ登れるスプリンターの大崎さん。
クライマーの二人がアシストとして二周目まで残る可能性を考えるとぞっとする。
正直単純な強さだけなら、エースの二人どころかクライマーの二人にも勝てないかもしれない。
私は馬鹿だけど、馬鹿な頭でも勝てる可能性を探して全力であがくしかない。
ヒルクライムでは、平地と違ってやはり一人で登ると甘えが出る。
誰か一人でも前を引いてもらうと力の入り方がぜんぜん違う。
この点、信頼できる一流と思われるアシストがついている二人と勝負ができない。
仕方がないので周りの置いて行かれた人たちに言った。
「私が上りと下りを引くから、平地はよろしく。」
去年出場していることもあり、周りもお互いの走りを分かっているからなのか、選択肢がないのか分かっているのか私の取引に頷いてくれた。
彼女たちに対抗するには全員を引き連れて平地で必ず追いつくしかない。
わざとスピードを落として、平地が得意な人たちに合わせながら登る。
彼女らの姿はもう見えなくなってしまった。
峠の頂上に上がりきる。
私は、ダウンヒルが得意だ。
体をキュッと丸め、空気抵抗を減らし更にペダルを踏み込む。
私はヒルクライムもそこそこだと思うが、ダウンヒルは圧倒的なスピード感がたまらない。
僅かにでもミスをしたら命にかかわるのだけど、その緊張感がまたたまらない。
景色が流れるように代わり、1秒が圧倒的な長さに感じるようになる。
しかし、本気で下ると後ろがついてこれないのでほんの僅かに余裕を持ちながら下る。
本気で下るときは景色が流れるなんて意識すらできないのよね。
下りきって周りを確認すると10名になっていた。
後は最後の峠まで平地が得意な方々の独壇場だ。
ローテーションしながら、前の四人を追った。
「いやー、いつ見てもやばいね。あんたの下り。」
何度か一緒の大会で戦った子に言われる。
「ここまで引いたんだから、後ろで休ませてもらうわよ。」
当然、と言う感じで彼女も小さくなった集団を引くために前に行った。
私も他校の人を引いて走るということは、かなりの賭けとなるし体力も消耗した。
それでも、あの二人との実力差を考えるとこのメンバーで追いつけることにかけるしか勝つ方法がなかった。
そのまま、先頭の四人は逃げるかと思われたが、思ったよりも早く捕まった。
と言っても、登りまで10km切っている。
4人が集団に入るように動き、周りがほっとした空気が出たのもつかの間。
程川さんがアタックを仕掛けてきた。




