01
「「コーチ、私(俺)と付き合ってください。」」
私とコータは幼馴染。もはや腐れ縁といっても良いほど一緒だ。
彼も私も、中学2年生の時に、地元で行われた大会で彼女がものすごいスピードで後ろから追い上げてきてゴールするのに引かれて彼女の通っていた高校に入ることに決めた。
コーチは全国高校選手権を1年のときから2連覇したすごい人だ。現在大学生で無理言って時々コーチをしてもらっている。
「うーん、留美ちゃん、私にはそっちのけは何度もないって言ってるよね。コータ君もそろそろ諦めない。私年下には興味ないんだけど。」
そう、私たちはこれまで何度もアタックしているけど、毎回簡単にあしらわれてしまう。
そこで、コーチが何かにひらめいた様子で。
「じゃあ、次の全国大会で1位取れたらごほうびあげましょう。」
ごほうび。コーチからのごほうび。隣のコータもよっしゃと言って俄然やる気を出している。
「「コーチ約束ですからね。」」
またコータとはもってしまう。
お互い、いーと睨み合うと、
「二人とも相変わらず仲が良いね。」
とコーチにからかわれてしまう。非常に不愉快だ。
「あんたにだけは負けないからね。」
「じゃあ賭けるか、お互い順位が低いほうが何でも言うことを聞く。同じ順位なら何もなし。どうだ。」
「上等。」
賭けは関係なく、こいつには絶対に負けないと誓ったのだった。
県大会、うちの県は自転車部が一校しかないので個人でやっている人が出てきたりするけど、大抵うちの高校から出場する。
今回も例に漏れず身内争いとなった。
と言っても、部員は三名、一県から出られるのも三名と言うこともあって他の二人はやる気のかけらもない。
とりあえず完走を目指すと言った感じだ。
と言っても男子と一緒に練習することも多く(男子がやる気を出すためとか言って、よくロングランには付き合う。)そこらの自転車乗りには負けないだけの実力はあるのだが…。
彼女たちにもっとやる気があれば私の全国制覇も見えてくるのになといつも思ってしまう。とはいえ、三年の先輩と言うこともあって声を大にしていえないのだけれども。
全国大会前日、コースを試走したりいろいろやることがある。
コースの試走を終えホテルのロビーのソファーで明日のレースを頭の中で趣味レートしていると。
なぜかコータがやってきて作戦を考えるのを手伝う羽目になってしまう。
「なんとしても、伊庭のやつに勝ちたい。どこで勝負をかければいいと思う。」
「伊庭君って、あのスプリントがすごく強い伊庭君でしょ。なら、最後の峠しかないんじゃないの。もしくは他の高校の人けしかけて足を消費させるしかないよね。」
「まあ、そうなんだよなぁ。」
「コータは、ばかなんだから難しいこと考えずに最後まで、できるだけ力を残して全力でヒルクライムを挑めるようにするしかないんじゃないの。」
というか、何でこいつはいつも私に相談してくるのだろう。一緒に出るメンバーもいるのだからそっちに相談すればよかろうに。
いつも通り過ぎてライバルにエールを送っていることに気がつかない私でした。
明日のコースは軽いアップダウンはあるものの平坦がメインで50kmほど。そこから途中平均勾配8%、7kmの峠を上り、下り終わったら平坦区間が3kmほどあってそこを2周するという内容だ。
間違いなく、7kmを登り続ける峠が勝負の分かれ道となるだろう。
でも、この峠があるおかげで一周目は何とかなりそう。その後永遠と続く平坦な道を単独で行くのはどれほど強い選手であってもきついだろう。
大会前日ホテルに泊まっていると、コーチから電話が来る。
「あ、留美。この間のごほうびについてなんだけど、よく考えたら私だけ賭けのリスクがあるのは不公平よね。
もし明日留美ちゃんが一位取れなかったら私のことは諦めること。いいわね。」
「え、ちょっとコーチ。」
コーチは言い終わる前に電話を切ってしまった。
え、明日一位取れなかったらコーチのこと諦めなきゃいけないの?
そんなの絶対いやだ。あ、そっか、勝てばいいんだ。明日は絶対に勝つ。
あまりにいきなりの電話だったので、私の勝率や、明らかに私にとって不公平な賭けの内容になっていることにまったく気がつかない私でした。
スタート開始前、緊張を紛らわせるために周りをいつも観察するようにしている。
思えば、初めて出場した去年は散々だった。初っ端から置いていかれ、最終集団でゴールするのがやっとだった。
でも今年はコーチのことは抜きにしても、コーチと同じようにかっこよく走りたい。そして優勝したいと言う気持ちは本物で努力してきた。
二年になってから男子人の練習にずっと混ざり更に自主練も続けてきた。試合もできるだけ出て今日のために完璧に調整してきたつもりだ。
今日の本命ともっぱら評判のオールラウンダーの程川さんが私よりも二列前の先頭にいる。
彼女は非常になれているのか落ち着いているように見える。今年こそは何とかくらいつかないとこの大会は勝機がない。
すぐ後ろに同じジャージを着た小柄の子がいる。彼女は空井さんだったかな。初出場なのか緊張した面持ちだ。
すぐ近くには、同じく優勝候補の大崎さんという北海道のスプリンターがいる。
去年は序盤から程川さんと彼女がアタックを繰り返しあっという間においていかれてしまった苦い思い出が残っている。
彼女の学校からは去年は一人だったのだが、今年は同じジャージを着た子がいる。
確か真木さんとか言ったかな。彼女は中学のときにヒルクライマーとして数々の大会で勝ちまくっていた人らしい。
なぜか、高校に入ってからはやめていたそうだけど今回最後の大会で、めでたく復活して出てきたみたいだ。
ブランクを期待したいところだけど、どちらもベテランみたいに落ち着いており、油断ならない空気がひしひしと伝わってくる。
去年は、堀川さんも大崎さんも同じ学校からは一人だったはずだ。それでもだけでも強敵なのにアシストまでついたら……。
それでも、弱いのならさほど問題にならないと淡い期待をしたいところなんだけど、北海道の二人は雰囲気からして期待できそうにない。
程川さんの地域は、うちらの県と違って何校も自転車部があり、全国大会に出るだけでも大変なのに出てきているところを見るとやはり侮れない。
流石は天下のシマノのお膝元、弱いわけがない。
レースが始まるまでの緊張感が周りに伝播して今にもはじけそうになる。
この緊張感は嫌いじゃない。走り出せば結局一緒なんだけどね。
そして、スターターピストルの音とともにレースが始まった




