怒号
朝のホームルームで気づいだのは、ひとつ。
一人登校してきていない。ということだった。
最前列の窓に一番近い席。そこが空いていた。
「篠崎は今日も休みだね」
安藤が東野さんに話しかける。
べつに盗み聞きをするつもりはない。隣にいた東野さんに話しかけるから、聞こえてくるだけだ。
「そうだね。かれこれ一週間は休んでるよね?」
「病気でもなんでもないらしいし、これは不登校確定か……。大丈夫かな?」
「今日家にでも行ってみようか」
「そうしてみようかな」
不登校なら考えられる要因が、人間関係か勉強。大別すればそのくらいだろう。
休んでいるのは俺ともそれなりに接点があった、篠崎紀奈子。
彼女はそれほど勉強ができないということはない。この前テストの点数で競ったら九教科中八教科負けた。
なら人間関係か? と思い考えてみるも、性格に嫌な点があるようでもない。逆に面倒見がいい。委員長だ。
「なんで休んでるの?」
きになって、訊いてみる。
「さあ?」
東野さんが答える。
「きになるなら一緒に来る? 仲良かったでしょ」
安藤の言葉に東野さんが顔を曇らせる。
「どうかした?」
「いや、……なにも」
そう言うなら詮索はしない。他の事がきになってそれどころではない、ということかもしれないが。
「じゃあ行くよ」
「ならそういうことで」
篠崎の家は学校から遠くはなく、それといって近いとも言えない中間地点に位置する。
所在地を知らなかった俺は、二人に大人しくついていった。
特急が止まる駅で降りて、そこからは徒歩。
十分ほど坂道を歩くとついた。
他の家と調和するように建っている。
インターフォンを押す。
出てきたのは母親だろう。四十後半の女性。
「お久しぶりです。すみません、紀奈子さんは……」
「あー、麻季ちゃん。あの子なら部屋にいるけど……でも……」
少しためらうと、篠崎の母親は意を決したかのように、
「どうぞあがって。あの子もそれがいいと思うから」
部屋は二階。
そこまで来て、違和感を感じた。
秋は日が落ちるのが速くなってくるが、篠崎の部屋の前だけ一層暗い気がした。
「紀奈子ー。大丈夫ー?」
ドアをノックして、問いかける。
そして帰ってくる言葉は、
「か……て」
消えかけの声。
そして次に、
「帰って!」
怒号だった。