第伍話 チート攻略
「ヒーロー気取りですか、あなたは?」
壁に背中を任せて座っている『八勝 勝八』は、膝に手を置いて笑っている。俺『水面 和樹』は、瀬良達を見送ると視線は八勝に移った。俺の後ろには、さっき瀬良達が走っていった扉がある。三枝が言っていた結界何とか室は、地下三階。俺達は、本当にあっち行ったりこっち行ったりしないといけないんだなぁ。
「あなたにボォッとしている暇はないですよ」
「俺も同感だな」
八勝の拳が飛んできたが、楽々躱してみせた。八勝の忍耐力はバケモン級だが、攻撃は素人同然だった。
基礎魔法術式第一式『黒煙』
俺は、この水属性と闇属性の合わせ技により体から黒い煙を出し身を隠し、尚且つ攻撃が来たとしても身を守れるようにしたのだ。この煙の中にいる限り、俺に攻撃は届かない。これで作戦を練ることが……
「……ック!!」
……え?なに、何が起きたんだ? 痛みの感じる腹部を右手で触ってみると激痛が走り、手には赤い血が掌全体に付いていた。俺は、その場にしゃがみこんでしまっていた。激痛は腹部から全身に回り、額から冷や汗が滝のように流れてきた。目に汗が入り目の前が見えなくなる。俺は、血が付いていない片方の手で汗を拭い、目に入った汗も拭うために目を擦り始めた。これでもかってくらい擦り目を開けると……。
「え……?」
俺が出した黒煙が、綺麗に清掃されていた。まるで『無かったこと』にされたように。
「おいおい、……どういうトリックだ……?」
腹部を押さえ、しゃがみこみながら八勝に問いた。
「なになに、めんどくさいのでやりやすいように作り直しただけですよ?」
っ! 作り……直しただと!?
「僕の取り柄は体が丈夫だけじゃないので」
嘲笑うようにいつの間にか立ち上がっていた八勝は、文字通り上から目線で笑っている。俺には、全く解読不可能な状態だった。クソッ! これならちゃんと勉強しておくんだった!!
……え? よく見てみると、瀬良達を進ませるためにやった蹴りの傷跡が八勝には無くなっていた。どういうことだ? っ! そうか!? ……なのかな?
「だんだん……分かって……きたぞ」
傷を抑えながらゆっくり立ち上がった。それを聞いた八勝は、鳩が豆鉄砲を食らったように静まり返り、その後タイムラグが起こったように遅れて笑い出した。
「フフフ、何を言い出すと思ったら」
「お前の力は体が丈夫なんじゃない。本当は、あらゆるものを作り直すことができる力だ!」
「……いや~。まさか簡単に当てるとは思ってなかったね」
八勝は、大きい音を出しながら拍手をした。
「そうですよ。僕は自分の体を含めてあらゆるものを作り直し、作り変えることが出来る『手直し(fatto a mano)』を持っている」
「お前がチートなら……」
俺は、痛みを我慢しながら目を閉じ精神集中する。
「行くぞ……!」
† † † † † † † † † † † † † † † † † † † †
目を覚ますと、そこは白い部屋で見覚えのないところだった。唯一分かることは、ここは最初気がついたところであるということだけだ。兄ちゃんは、近くにいない。再開できたときは嬉しかった。
『貴様!マジでブッ殺すぞ!!』
そう私のために起こってくれたときは嬉しく感じた。だけど、直感的にその後の兄ちゃんは、意識が飛んでしまっているとわかった。なんでかはわからない。だけど、普段言わない言葉を三枝幻世に浴びせていた。
「気が付いたかい? 我が娘よ」
「アンタの無目になった覚えはないし、なる予定もない」
幻世が部屋に入ってきた。私は、そいつの顔を一切見ようとしなかった。私をレイプモドキをし、尚且つそれを利用して兄ちゃんを挑発して何らかの力を暴走させたのだから。当たり前だった。
「さぁさぁ、もっと父親に顔を見せておくれ」
どんどん近づいてきた。私は、それと同時に後ろに少しずつ下がる。
「まぁ、今はいいや」
勝手に近づいて自分の意志で後ろに反転した。
「あ、そういえば、今『瀬良 或斗』とか言う害虫が来ているらしいぞ」