第肆話 粉砕骨折者
「見たか、瀬良!これが俺からできる最っ高の教育だ!!」
瞬きの間に移動した水面は、八勝の後ろに佇む。
「勝った気でいるのは早すぎるんじゃないかな?」
「いやいや、もう終わったって」
……バタンッ!
静まり返る中、重苦しい音が響いた。
水面が振り向くと同時に八勝が倒れた。しかも、首がない状態で。
「俺の技『体内電柱(Utility Corpo pole)』は、敵の後ろに移動するだけじゃないんだよ。本当は、光属性の『閃光』によって移動スピードを上げて、雷属性の『強化』によって空気を刃物に変えて敵の首を切り落とす技なんだよ。ま、聞こえてねぇだろうけど」
な……なんて技だ!特訓の時は、原理しか聞いてなかったからなぁ。
「それじゃあ、次行くぞ」
「まだ、終わってない……ですよ」
っ!な、なんで……なんで生きてるんだ!?
水面が倒したはずの人物が立ち上がろうとしていた。しかも、切断したはずの首まで戻っている。
「まだ、闘いはこれからです……よ?」
ありえない。そんな、いくらこの世界の現実が突拍子もないことが起きるとしても命の操作まではできないはずだ。それは特訓の時教えてもらったことだ。
「な……っ!」
「僕は『粉砕骨折者』ですから、死にません」
無理だ。ぜってー倒せねぇよ。
「……んふっ!」
水面は、鼻で笑い始めた。
「笑いたくなるほどチートキャラだな。俺の技を食らって生きて立ってる人はお前が初めてだな」
「これで僕は……確か三十四回目です……ね、死ねなかったのは」
突撃早々ピンチかよ!? これだから先頭モノは……
「瀬良、先に行け」
な……なんだって?
「みんなを連れていけ」
「な、何を言って……」
俺は、水面の言葉を上手く聞き取ることができなかった。いや、聞き入れなかったのだ。なんせ……
「なんでお前一人残して……」
「妹を助けるんだろ!! 『理想にも夢にも犠牲は付き物だ』!お前が決めたことだろ」
お、俺は。俺はどうすれば……
「行きますよ」
聞き入れられなくて混乱している俺の袖を三枝が引っ張った。
「……行きますよ!」
……クソッ!!
「絶対追いかけてこいよ!!」
なんで……なんでこんなことを!!
「とっとと行け、このクソガキが!」
俺は思わず涙した。それを水面に見せないように必死だった。横切る末に「頑張れ」と耳打ちしてくれた。
「おっと、行かせませんよ」
「ヤロウは俺の相手をしな!!」
俺の前に出てきた八勝を蹴りで壁まで飛ばして道を作ってくれた。俺は、仲間に恵まれたのだと思った瞬間だった。
† † † † † † † † † † † † † † † † † † † †
「水面は大丈夫だよ、瀬良クン」
「……うん」
大倉が俺の顔色を伺いながら励ましてくれた。励まされているのが俺でもわかるほどだった。相当暗い顔をしているのだろう。
「あれでもあいつはエリートだからね。それに……」
「それに……?」
大倉が言葉を途中で止めて下を向いた。
「それにあいつには『秘技』があるからね」