第弐話 戦前
あ、あれ。ここ、どこだ?
俺が目覚めた時、知らない部屋の知らないベットの上だった。しかし、ベットの脇では、知っている顔の女性が安らかに寝ていた。
「お~い」
声をかけても寝ている『三枝 鮎』からの返事はない。体を揺すって起こそうとも思ったが痴漢扱いされても困るのでやらなかった。
じっと見なかったからわからなかったが、よく見てみるとこいつ可愛いな。顔の部品は一つ一つ凛々しく、肌も綺麗だった。相当手入れをしないと保つことができなさそうなものだと男の俺でも見てわかった。
「お~い」
再度声をかけてみるが、さっきと同様に返事はない。俺は、しばらく待つことを余儀なくされた。
「~んむにゃ?にゃに?」
目を擦りながら顔を上げた。なぜか俺の手はフワフワとしている彼女の頭の上に……。
俺は、三枝の『むにゃ?』が無用に可愛く感じ無意識的に頭を撫でてしまっていたのだ。
「ここはどこなんだ?」
三枝に問う。三枝は、背伸びをしていて聞いてなかったのかもう一度聞き返してきた。その表情は、眠そうで油断すると二度寝しそうな具合だった。
「ここは、『国立三日月学校寄宿舎』ですよ……。私の能力でここまで飛んできました」
それを聞いて俺は、遅れて思い出したように三枝に違うことを質問した。まぁ、ぶっちゃけ少し忘れていたが……。
「っ!、悠水は!?」
三枝は俯いたまま答えようとしない。俺は、それを察したが聞こうとしない。現実を見ていないのだ。分かろうとしない。分かりたくないのだ。こんな現実を。悠水が……
「妹さんは、助けられなかった」
な、なんだって……?
「助けられなかった……」
思考がついていかなかった。俺は、三枝が言った言葉を脳内で繰り返して聞き続けた。
「なんで……なんで悠水を助けなかったんだ!?」
俺は無我夢中に怒りに任せて問いた。わかっている。そうしないと被害者は一人から二人に変わっていた。だからこの判断をしたのだ。そう俺は直感的に悟った。理由なく三枝は行動をしないと心の中で信じていたのだ。
三枝は、俺の怒りに任せた言葉に俯きながら『ごめん』と謝るだけだった。弁解も何もせずにそこに座ったままだ。
「だけど………だけど!二ヶ月間は手出しをしないという約束を『あの男』としてきました」
『あの男』。俺の妹を誘拐した『三枝 幻世』のことを指しているのがすぐにわかった。だけど……。
「あの男の約束は信用できるのか?」
「おそらく大丈夫だと思います。話したらわかる人でしたから」
嘘だ。そのことはすぐにわかった。そもそも話を簡単に分かってくれる人のことを『あの男』と呼ぶわけがない。俺の記憶がないうちに何かがあったのが一目瞭然だった。だけど、俺はそれを詮索することをしなかった。できなかったのだ。それを聞いてしまったら、悠水のために動いてくれている三枝を裏切るような気がしたから。
「……そっか」
「そんなことより、二ヶ月後には戦場に立てるようになってもらいます」
「な……!?」
「二ヶ月たった後の保証は、できませんでしたからね」
そ、そんな。無理だ不可能だ。喧嘩もろくにしたことがない俺が二ヶ月で殺し合いができるようになるわけがない。
「そのために……」
三枝は、ドアの前まで移動し俺を見た後ドアに手をかけた。
「あなたの専属教育者達を用意しておきました。感謝してもいいですよ」
そのドアから出てきたのは合計で言うと三人。スーパー〇イヤ人みたいに金髪で髪が逆立ち、銀のピアスをしている青年に、茶髪ロングで腰に刀を担いでいる少女に、赤い髪の毛で唯一半袖のワイシャツを着ているボーイッシュな少女。それぞれ俺を見ると、お辞儀するなり声で挨拶するなりして接してきた。俺も挨拶を返すと優しい笑顔が三人から帰ってきた。
「今日から、この三人と戦闘を繰り返し力をつけてもらいます。頑張ってください」
……?頑張って………ください?
「それってどういう……?」
「能力レベルはトップクラスで戦闘経験豊富だから油断すると死にますよ……?」
「何言ってんの、あんた……!」
「健闘を祈ります」
「祈る前にこっちに来~い!!」
俺の声も虚しく三枝は、部屋からいなくなってしまった。嘘だろ。トップクラスのバケモンとやるのかよ……。戦闘経験ゼロの俺にとっては、罰ゲームにしか感じねぇよ。
† † † † † † † † † † † † † † † † † † † †
俺は、3人に連れられて地下の教室『第一訓練場』と書かれた部屋に趣いた。その部屋は殺風景で丈夫そうな壁が張ってあるだけだった。
「それじゃあ始めるか」
そう言いだしたのは金髪不良少年の『水面 和樹』だった。水面は、指の骨を鳴らすと共に右足を後ろに下げ戦闘態勢に入った。
「いやいや、始められても困るぞ!」
「それじゃあ何するの?」
「戦い方を教えるとか……?」
「……頑張れ」
「軽いわ!!」
そんなこんなで結局ほとんど何も教えてくれなかった。だけど、唯一教えてくれたのが厨二病みたいな『属性』と、『ノーマルソウル』『スペシャルソウル』『エキストラソウル』『ガーディアンソウル』というものだった。カタカナばかりでチンプンカンプンになりかけたが、頭に入っている脳みそをフル回転させた。
「おぉ、だんだんソレっぽくなってきたね」
約二時間三人と戦闘練習していたおかげで様になってきたらしい。ついでに今戦っている相手がボーイッシュ少女の『大倉 飛沫』だ。大倉は、最初戦っていた水面よりもパワーが強くガードした腕の骨が悲鳴を上げたくらいだった。その分俺も手足を振り回して反撃を試みていた。トップクラスのメンバーなだけあって、そこら辺のス〇イムとは比べ物にならなかった。
「そろそろ、休憩にしないとバテますよ?」
そう言って水の入ったペットボトルを投げてきたのが、刀を腰に置いている『小鳥遊 五十鈴』だった。小鳥遊と戦った時は、死を覚悟したね。だって、一瞬お花畑と手を振っている今は亡きおばあちゃんが見えたからね。
三人のおかげで能力を使いこなすことができるようになった。ついでに今現在は、俺が目を覚ました二週間後のことだった。そして俺は、悠水がいるところに移動できる『転移石』というものを握り締めていた。周りには、戦闘の指導をしてくれた三人と三枝がいる。
大丈夫。俺ならできる。俺は、自分で自分を励ましていた。そうしないと震えが来てしまうのだ。ついでに足まで侵食が来ている。
「行きますよ!」
俺たちは、三枝の掛け声とともに転移石を使い三日月学校を後にした。
今、俺たちの戦いが始まる。