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マギ☆アイドル!―MagickIDoll―  作者: ビエンヤク
#1 夜を乗り越えて
5/17

1-5 条件と仕事とアモレの過去と


 いつまでも公園で立ち話はどうかと、二人でトゥラの家へと向かう。

「反対された時はなんて言われたんだよ」

「……魔力不足の魔法師は仲間を殺すって」

「それだけか?」

「後は、どれだけ知ってるんだとか、他の仕事を紹介するとか、危険すぎるとか」


 レゾの言葉に何度か頷いて、トゥラは「交渉の余地はありそうじゃん」と笑う。

「どうにか、できるのかな?」

「よくわかんねえけど、最初から完全否定じゃないだろ。なら、なにか判断基準があったんだ。魔力不足は昔からだから、除外な」

 トゥラの言葉で、思い詰めていた考えが少しだけ広がる。


「可能性としては二つかな。見逃している知識があって、それが許可を出せないほどの何か。もしくは危険すぎるから。でも、危険じゃない軍関係って?」

「主計課。ーーいや、今度は冗談だよ。だから手をおろせ、どーどー」

「牛じゃないよ!」

「……馬だろ。それは自慢か? ホルスタインか? そんなに巨乳が偉いのかよ」

 トゥラは歩きながら自分の胸をぎゅっと寄せて上げつつ、レゾのそれと比べる。

 戦闘力の差は明らかだった。


「まあいい。危険が少なければ許可できるなら、危険が少ない場所に行くのは?」

「アイドルは最前線で戦うことが前提の部隊だから、それがイヤとは言えないよ」

「なら、行き先の危険を減らすとかどーよ」

「だからどうやってさ。そんな魔法があったら誰もが使って……使ってる、かも。軍で魔法に習う中に、攻撃魔法だけじゃなくて障壁の魔法もあるんだ」

 レゾはトゥラの手を取って「そうだよ、それかも!」とはしゃぐ。


「でも、どうしてレゾは習得してないんだよ」

「魔力が少ないから、なるべく効率よく操作とか構築とかを鍛えられるような魔法を優先してね。皆と違って、魔法を初めてならったのも、二年前だし」


 記憶喪失にもさまざまな種類がある。

 二年前のレゾ言葉は通じていたが、自分の過去だけでなく、魔法の使い方や一般常識まで忘れてしまっていた。

 その上で努力をして周囲に追いつこうとしているが、絶対的な時間不足はどうしても否めない。


「志願書の提出期限までに習得して、もう一度説得してみようぜ。アタシも出来ることは手伝ってやるからさ」

 トゥラの言葉でレゾの表情が花開くように明るくなる。

 レゾは思う。

 友達はやっぱり数じゃないのだ。

 トゥラみたいに素敵な友達がいれば、それだけで人生はバラ色になると。

 そんな大親友に対して、鼻息もあらく、身を乗り出して迫るレゾ。

「わ、私も! 出来ることならなんでもやるよ!!」


 やる気いっぱいのレゾの言葉に、トゥラはニヤリと笑った。

「ほほう、そうかそうか、なんでもか」

「え、あ、うん。いや、でも、ちょっとは手加減を」

「いやー、そこまで言われたら、アタシも何か頼まないわけにはいかないなぁー」

 わざとらしくレゾの言葉を遮ったトゥラ。その笑顔はまるで魂の売約が成立した瞬間の悪魔のようにも見える。

 その手はいつの間にか到着したトゥラの実家の裏口にかかっていた。






 

 夕方の食堂<暴食のガド・ダ・グーラ>は普段以上に賑わっていた。

 前線から離れているせいで忘れがちだが、レゾたちの暮らすパレントの町も戦時統制下にある。

 特に不便があるのが食料だ。小麦や芋は収穫率ーー植えた量に対する収穫量の比率ーーが多いため、必然的に他の作物は育てられなくなる。

 そんな中で、手間暇で美味いものを出してくれる店はとても貴重だ。

 学校からも住宅区画からも近いこの店もそんな貴重な一つだが、今日の盛り上がりはまた別の理由があった。


「おーい、姉ちゃん、こっちにエールだ!」

「ハンバーグが遅いぞー。スープが冷めちまう!」

 男たちの野次にあおられて、あっちこっちへ走り回っているのは臨時店員のレゾだった。


「アタシの見立て通りだ。さすがアイドル志望。制服もよく似合うし、よく揺れるし。客が客を呼んで笑いが止まらないな!」

「よくやってくれた」

「さすが姉御だ! 俺たちに出来ないことをやってくれるッッ!!」

 いくらか胸を強調するコック服を元にした白黒の衣装は、店の名前にちなんだ牛のモチーフだ。

 それはトゥラが着ても少し個性的なだけの給仕服だが、レゾが着るだけで破壊力がけた違いになる。

 それはまさに一部の男たちにとって夢にまで見たような光景だった。

 今日の店は今までにない熱気で燃え上がるように注文が入る。


「いいっ、いますぐお持ちしますからぁあああ! ほら、トゥラもサボらないでよ!」

「レゾ。お前の客は訓練された邪な客だ。アタシの客はよく訓練された忠実な客だ」

 自慢げに胸を張るトゥラ。そこに近づいてきた客が水の入ったグラスを捧げ持つ。

「そうですとも。さ、姐さん、喉が乾きませんか?」

「こんな風に、自分が給仕してくれる」

「トゥラが働かせるの?!」


 半泣きになるレゾ。

 何がすばらしい親友だ。何が人生バラ色だ。

 悪徳金融にでも引っかけられたような気分だった。


「明日はいくらでも練習に付き合ってやるから、アタシにラクをさせろよ」

「って、トゥラ!」

「毎日毎日、休みなしでお給仕だぜ。たまには少しラクしたって……ぁ」

 トゥラの背後から、がっしりとした太い腕が伸びてその首に回る。トゥラの母親によるヘッドロックだ。


「そうかい、お給仕はそんなにイヤかい。いいんだよ? 外に就職したら弟たちに店をつがせられるからねえ」

「く、苦し、じょうだんだから、しぬっ、もう求人時期おわりかけてっ! ギブ、マジメに働きます!!」

 必死になって命乞いするトゥラに、店中から笑い声が上がった。






 レゾが最後の客を見送って、閉店の札を入り口に掛ける。

 あの後、トゥラはレゾの倍ほども走り回って、男たちからのブーイングと母親からの睨む死線でさんざん焼き焦がされた。

 まかない料理が並んだテーブルに座って、未だに口から魂を吐いているほどだ。


 レゾはさすがにちょっと哀れに思い、一度は『友達?』まで下がりかけたトゥラの評価を『親しい友達』に戻しておく。

 すばらしい親友は、きっと気の迷いだった。


「それにしても、こんなに忙しくなるなんて」

 レゾの言葉に、最後のまかない料理を持ってきたトゥラの母親が豪快に笑う。

「そりゃ、レゾちゃんみたいな可愛い娘が手伝ってくれてんだ。見栄を張ってたっぷり頼んでくれるってもんさ」

「アタシと比べて、客単価が倍くらいありそうだったよな」

 ようやく回復したらしいトゥラがのっそりと体を起こす。


 ちょうど食事時を悟ったのだろう、店の裏で掃除をしていたトゥラの弟達三人も、テーブルに向かって走ってくる。

「あんたたち、ちゃんと手は洗ったかい」

「あたりまえだよ」「やってるってば」「おなか空いたー!」

 手洗いをさぼったらしい三人目がトゥラの母親に頭を睨まれて、あわてて洗面所に走っていく。


「わるいねぇ、うるさい子ばっかりで」

「アモレさんが夜勤だと一人で食事だから、にぎやかだと嬉しいです」

「なんだい、それなら今日はウチに泊まっていきな!」

「え、でもご迷惑じゃ」

「遠慮なんてするんじゃないよ! どうせ今日もアモレは夜勤だろうさ。暗い中を一人で帰すわけにも行かないしね!」

 トゥラの母親が強引にレゾを泊める事に決めてしまう。トゥラはそんな様子を横から見つつ、こうなると思ったと言うように、頷いて笑っていた。


 そして、話を変えるようにトゥラが魔法について切り出す。

「明日から早速やるんだろ? 障壁魔法だっけ」

「うん。まずは軍の資料室で公開されてる資料を見て、それから練習だね」

「アタシも明日の昼なら付き合ってやるよ。資料探しくらいならできるだろうしな」


「頼りにしてるよ。たぶん、今まで手伝ってくれてた人たちは……」

 アモレの見せた邪悪過ぎる笑顔を思い出して、レゾは自分の体を抱きしめる。それでも体の震えは押さえきれなかった。

「何があったんだよ」

「……悪魔が、アモレさんが」

「いい。やっぱ聞かない。アモレさんおっかねえからな。食欲無くすわ」

 トゥラがめいっぱい顔をしかめて、野菜炒めをいっぱいに頬張って食べる。


 そんな二人のやりとりを聞くともなしに聞いていたトゥラの母親が溜息を吐く。

「まったく、アモレはまだ過保護なのかい?」

「過保護……かな。まあ、過保護かもしれないですね。危険だから軍――っていうか、アイドルじゃダメって言うくらいだから」


「……それは、アモレには少し酷だったね。アモレの旦那の話は聞いてないのかい?」

「いえ、そういう話はまったく。家の広さとか家具から、何となく察してはいたけど」

「アモレとその旦那は幼なじみだったのさ。二人は順調に交際してたけど、戦況が悪かった。青年した頃、旦那に軍から兵役の令状が届いてね、離れるくらいなら一緒に戦地に行こうって夫婦で従軍したのさ」

「その、旦那さんは」

 レゾの言葉に、トゥラの母親は首を振る。


「まあ、それでも娘が軍に入りたいって言ってるんだ。勇気が有っていいじゃないか。過保護にせず、行かせてやったらいいとは思うけどね。トゥラもどうだい、あたしの娘だけあって見た目は良いんだ、一緒にアイドル目指したら」

「かーちゃんの娘だから諦めるよ」

「なんだい、親に向かって!!」

 仲良く騒ぐ二人を見ながら、レゾの心は沈んでいた。軍に入りたい、アイドルになりたいと言ったときに、アモレさんはどう思ったのかと。

 そして、本当にこのままアイドルを目指していいのか、それもレゾの心の中で迷いになって残ることになった。


 


三十分遅れで28日分が29日に食い込んでしまいました。

とはいえ、29日分もきちんと投稿します。

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