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マギ☆アイドル!―MagickIDoll―  作者: ビエンヤク
#1 夜を乗り越えて
3/17

1-3 私って、魔力低すぎ?


 学校の教室。窓の向こうにある空を見上げながら、レゾはアイドルに助けられたあの夜の事を思い出していた。

 あれから二年。記憶は戻らず、少女は戦災孤児という扱いで引き取られ、レゾという名前をもらって学生になった。

 記憶が無いので授業や友人作りにはいくらか苦労したが、その程度は些細な問題だと思っている。

 記憶喪失自体もそうだ。診察をしてくれた医者は、あの夜の事を夢だと思って忘れると良いと言っていた。思い出したく無い事があったのだろうと。

 しかし、レゾは今でもあの時の事を何度も思い出して、想いを膨らませる。

 それは初めてアイドルという奇跡を知った日だったから。


「おーい、レゾ! レゾ・アンダールはいないのか?」

「はいっ! はい、居ます!」

 思い出に耽っていたレゾは慌てて立ち上がり、担任に駆け寄って成績表を受け取って、胸にぎゅっと、抱きしめた。

 それから、ゆっくりと席に戻る。

 


「どうだったよ。成績は」

 レゾの隣に座る女の子が、心配そうに聞いてくる。

 レゾの数少ない友人で、名前はトゥラ。少し乱暴な言葉遣いと、派手な赤いショートカットが目立つ子だ。


「トゥラはせっかちすぎ。まだ見てないってば」

 苦笑するレゾにムッとしたのか、トゥラの手がレゾの胸をぐわしと掴む。

「この二年で一番成長したおっぱいに押しつけて、願掛けのつもりかよ? ん?」

「ちょ、やだ! 揉まないでってば!」

「もう成績表の中身は変わらねーってばよ!」

 トゥラの暴挙を止めさせようと声を抑えて抵抗するレゾ。しかし、じたばたしていて周りにーー特に教壇の担任にバレないはずがない。何度も咳払いがされて、二人が慌てて謝る。


「で、いくつだよ」

「胸はヒミツ……、あ、成績は数学が満点だよ。魔法陣解析で使うから頑張ったし」

「教養科目なんかどうだっていいっての。レゾの問題は魔法関係だろ!」

「んー。構成、制御、詠唱は満点。ただ、魔力はいつも通り下から二つ目。他の三つのおかげで志願できる平均評定的には届いたけど」


「最後までそこは成長なしか。『魔力は生まれ』とはいえ……。努力で伸びる範囲が全部満点ってのはすごいが、軍の魔法師になろうって言うなら難しくないか?」

「それは、うん。わかってる。わかってるけど」

「諦めて、この街で暮らすんじゃイヤか」


「アイドルに憧れて、アイドルになるために頑張ってきたんだよ。せめて、入隊試験に挑戦しないと諦められないよ」

「さすが、アイドル・バカだな。とはいえ、お前の魔力、低すぎ」

 二人そろってため息を合わせる。そうこうしている間に、担任の話も終わっていたらしい。立ち上がってトゥラが鞄を肩に掛ける。


「この後はウチに来て食事するか? 店の手伝いしてくれるなら、大盛りでもいい」

「もー、そんなに食べないよ!」

「それなら、どこからそんなに脂肪が」

「やめてよ、太ってるんじゃないから! あと、今日は先生に呼ばれてて」

「また、校長先生のかつらを風魔法で吹き飛ばしたとか」

「あれは事故だから! 今日は取り寄せてもらった志願書を受け取るだけ。アイドルって一応軍属だけど、いろいろ特殊だから別個に志願書が必要なんだって」

「そっか。じゃ、アタシは先に帰るから、気が向いたら顔だしな」

 気っ風の良い笑顔でレゾの頭を撫でるトゥラに、レゾも笑顔で頷いた。






「先生、志願書なんですけど」

「ん、おう、来たか。ちょっと待ってろ」

 今まで話し込んでいた男子生徒を、何か困ったら相談しろよと言って送り出す。

 レゾの方を見て、その男子は妙に同情的な視線を向けた後に教室を出て行った。


「何を話してたんですか?」

「ん? あいつが家業を継ぐから、今年で卒業って相談だ。あとは俺の娘について」

 担任が「ほら、何度か会ってるだろ?」と言う。だが、娘と聞いてレゾは思いっきり顔をしかめてしまった。

「いや、昨日さー、娘が『パパのお嫁さんになるー』って言ってくれちゃってよぉ」

「顔がデレ崩れてますよ」


「あんな可愛い子にお嫁さんになるなんて言われて、デレデレしない男なんかいないだろー。はっ! もしや既に俺のイノに目を奪われている男も? いるはずだ、何せあんなに可愛くて美しい! ただでさえ可愛いのに、お嫁さんになる頃にはさらに可憐に美しく素敵になるなんて、あの子はなんて罪深い。いや、俺のイノが罪深いだなんて」

「ていっ」

 レゾが担任のすねを蹴り抜く。

 放って置くと絶対に終わらないのだ。

 この娘自慢さえなければ良い先生なんだけど、と残念な気持ちでいっぱいになる。


「お、おまえ、この、手加減とかな?」

「しましたよ? そんな事より、さあ、志願書です! 夢だったんです!」

「はいはい、用意はしてる。まあ、でもちょっと待て。個人面談だ」

 身悶えて乱れた髪を教師らしく丁寧に撫でつけて整え、担任が真面目な顔になる。


「個人面談って、少し前にやりましたよね?」

「親御さんを交えてな。でもレゾは『軍に入りたい』とは言っても、この『巫術大隊』に入りたいとは言ってなかった気がしたんだ。アイドル志望とか隠してないか?」


 レゾの肩がギクリと揺れる。初めて保護者と進路について話した時に、軍関係が良いと言って思い切り顔をしかめられている。

 それで、言い出せなくなっていた。

 担任は教卓の上に取り出した『独立儀式巫術大隊 志願届け』の書類を振る。


「ちゃんと親御さんと相談できてるか、っつーのが、心配なんだよ」

「ダメ、ですかね?」

「俺の娘なら、相談して欲しいね。反対するが。ぜーったい反対するが」

「反対されても?」


「……話をしないよりはマシだろう。俺の意見だから無視してもいいがな」

 個人面談は終わりだと言って、担任がレゾの手に志願書を押しつける。無視するには強すぎる力の入った手に、レゾは小さく頷いて応えた。


次の更新情報など、twitterがメインです。

これからよろしくお願いします。

@bienyaku


2014年4月27日 冒頭追記

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