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マギ☆アイドル!―MagickIDoll―  作者: ビエンヤク
#2 作戦名は『お友達』
12/17

2-1 月の無い夜に

 不気味な雲が月を隠す暗い夜。

 スペイガル防衛における要所の一つ、イルバオ基地は穏やかな静けさに包まれていた。

 最近は前線も比較的安定して、大きな犠牲が出るような戦闘もない。

 その影響もあって、今日は街の有力者と軍上層部の懇親会なども開かれたほどだ。


 しかし、その裏で、建物の影から影へと動く者達が居た。

 基地の内側を知り尽くしているかのように、次々と歩哨達の死角を突いて、確実に基地の奥へと向かっていく。


 そして、歩哨の多い地域を抜けると、魔力光が漏れないように周囲を仲間に壁になってもらいながら、一人が通信の魔法陣を展開する。

「アイドル・ワンより観測班。第一課題は無事に達成。状況は?」

 魔法陣に照らされたのは、アイドルになると街を旅立ったレゾだ。


『――観測班よりアイドル・ワンへ。状況に変化なしだ。そろそろ魔力管制下区域に入るため、通信魔法の使用が出来ない。観測は続けるが、手を貸す事はできないぜ』

 魔法陣の向こうから聞こえたトゥラの声。それがなんだかとても久しぶりに思えて、レゾは少しだけ安心した顔をする。

 とはいえ、この先は自分達だけで、任務に当たるしか無い。


「アイドル・ワン了解。……帰ったら美味しい物、いっぱい食べようね」

『とっておきのお茶を入れて、待ってる。では、幸運を祈る』

 魔法陣を消して立ち上がるレゾ。

 そうだ、自分たちはどんなに危険な任務でも、成功させて、帰らなければならない。ソコまで出来て初めての、任務成功だ。


 しかし、誰もが強い意志をもって、任務遂行に臨めるわけではない。

「……やはり、やめられませんか?」

 仲間の一人が、心細そうに、呟く。

「もし見つかったら、想像したくもないですわ」

「難しいよ。そろそろ歩哨が巡回を始める。そうなればしばらく、ここは殆ど死角が無くなる。ここまで来たら、任務をこなして次の死角ができる時間を狙った方がいい」

「…………」


 泣きそうな顔をする仲間の背中を軽くなでて、レゾが前を向く。

「行こう。月の女神が、私達に味方している間に」

 そして、仲間を連れて、レゾはさらに深い夜の中へと走り出す。


 アイドルになるはずだったレゾ達が、なぜこんな任務を受けているのか。

 "終わりの夜"を敵として、葬ることを務めとする彼女達が、なぜ味方であるはずの人類の基地へ進入しているのか。

 それは、数日前に遡る。


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