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七色の奇跡

  七色の奇跡


 これはまだ、「虹」が伝説として語られていた時代の、遥か遠く昔のお話。

 名前なんか誰も知らない、小さな小さな村のお話。

 

 ーー虹の女神様へーー


「おい、何書いてんの?」


「え? 内緒」


 生まれて5つを数える頃の年つきの男の子と女の子。女の子は自分の部屋で小さな紙に何かを書いており、そこを男の子に見つかってからかわれていた。


「ちょっと見せてくれよ」


「やだ!」


 女の子は小さな紙を背中に隠した。


 ちょうどその時、一陣の風が部屋へ舞い込んだ。


「あ!」


 その風は女の子の持っていた紙を持ち去っていった。

 一瞬にして遠く、遥か何処(いずこ)かへと。



 時は流れて、幾度月が満ち欠けしたかも分からぬ頃、男と女は生まれて18の年を数えた。


 女は部屋の窓から夕日を眺めていた。すると、そこに幼なじみの男が入ってきた。


「おう、何眺めてるんだ?」


「ねえ、虹って、実在すると思う?」


「虹って、七色の橋の、あれか?」


「うん、橋の麓には女神様がいて、何でも願い事を聞いてくれるっていう、あれ」


 女がそう言うと、男はあきれた顔でこう返した。


「馬鹿だな、そんな都合のいい橋があったら今頃行列が出来てるよ」


「もう、夢が無いなあ男は」


 女はため息混じりに言うと、また夕日に顔を戻した。


 すると男は、そのため息がかんに障り、虹を愚弄した。


「大体あんなのガキの為に作られた絵空事なんだよ。所詮は空想。そんなのをいつまでも信じてるなんてお前はいつまで経ってもガキーー」

 

「うるさいっ!」


「な、何だよ。そんなに怒んなくてもーー」


「もういい! 私が見つけてやるんだから!」


 女は小さい頃から信じていたモノを否定され、悔しい気持ちで一杯になった。




 そして、次の日の朝、女は虹の出ると云われる森へ来ていた。


「悔しい。絶対見つけて見返してやるんだから!」


 女は荷物を詰め込んだ大きな袋を背負い、森を歩き続けた。道無き道を、只々、ひたすら。


 そして見つからないまま4日が過ぎた頃、悔しいが一旦帰ろうとしたその時、女は足を踏み外して傾斜を滑り落ちてしまった。


「痛ったー。滑っちゃった」


「ーーっ!」


 女は立ち上がろうとした時、足首の激痛に気づいた。何度か試したが、やはり立ち上がることが出来ない。


 夜も更けて月明かりが木々の間から洩れ始め、音と言えばフクロウの鳴き声と草のざわめきのみとなった。

 足首は腫れ、ずきずきと痛みだけが増す。


 その場から動くことが出来ず、女は悔しさと寂しさに涙を流し始めた。


 ポロポロと、大粒の涙を。

 流して流して、泣き続けた。


 ーーこんな場所、誰にも見つけられない。

 私はこのまま死んでしまうんだ。ーー


 

 女はそのまま三日三晩泣き続けた。

 食べることも飲むことも忘れ。


 そしてある朝、女が泣き疲れて寝ていると。そこに幼なじみの男が立っていた。


「何やってんだよまったく。捜したぞ」


 女は驚いて声が出なかった。


「何だ、足痛めたのか?」


 男が女の足を診ていると、女は尋ねた。


「どうして、ここが分かったの?」


 すると男はこう答えた。


「お前あの時、虹見つけてやるって言ってたから、俺も虹を目指して来たんだ」


 男はそう言うと、空を指さした。


 「ーー!?」


 女は口を抑えて、また涙を流した。

 男の指さした先には、女が三日三晩流した涙によって出来た、大きな虹が掛かっていた。


「あったんだな、虹。あんな事言って悪かったよ」


 男は女を背負うと、村へと歩き始めた。

 そして女に尋ねた。


「で、女神様はいたのか?」


「ううん、いなかった」


「そうか……じゃあ願い事は? 叶ったのか?」


 男の言葉に女は「うーん、半分。かな」と答えると、少し微笑んで、男を抱き締めていた腕にちょっとだけ力を入れた。



 

 ある空にふわふわと風に泳ぐ紙。

 

 紙には、つたなく幼い字でこう書かれてあった。



 ーーおおじさまと

    けっこんできますよーにーー



 



fin



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