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何故…

ーーー…


「……っ、ひっく…」


誰もいない小さな休憩スペース、その静かな空間にすすり泣く声だけが小さく響いていた。



いつきもリサもはじめは何事かと驚いた。用があるといって席を外したまなかが、目を腫らせて泣きながら戻ってきたのだから。


3人とも本当はこの時間、授業が入っていたのだが、この状態で教室に入るわけにもいかず、あまり人が来ない校内の休憩スペースに移動し、まなかから話を聞くことにした。


「…信じられない。」

「あいつがまなかにそんな事言うなんて…。」


いつきもリサも事情を聞いて唖然とした。


「…でも…これで良かったのかも。」


少しだけ落ち着きを取り戻したまなかが弱々しく呟いた。


「あのまま理由もわからず避けられるよりも、はっきり言ってくれたんだから……」


そう言いながらもまなかの目には涙が溢れていた。


「……うざい……って。」


その言葉と同時に、涙はまなかの頬に静かに流れた。二人はそんなまなかを励ます言葉がみつからず、ただ悲しそうなその表情を見つめていた。


「…ごめんね、私のせいで授業出れなくなっちゃって。もう大丈夫だから…戻ろう。」


まなかはぐっと手で涙を拭って顔を上げた。しかし、彼女の目のまわりや鼻は赤く、大きな瞳も腫れたまぶたで重々しい。


「いいよ。他の子に出席票だけ出してもらえるように頼んだからさ。少しゆっくりしなって。」


「……うん。」


リサの言葉にまなかは小さく頷いて、上げかけた腰をもとに戻した。



「あ…私、何か買ってくるよ!お昼食べ損ねちゃったしね。まなか何かほしいものある?」


いつきは自分たちが昼食を取っていなかった事を思いだし、立ち上がった。


「え、あっ…なんでも!適当に……ごめんね、ありがとういつき。」


「いつき!リサの牛乳買ってきて!」


「はいはい…。じゃ、ちょっと行ってくるね。」


そう言っていつきは校内にあるコンビニへと向かった。



「…で、しおりに言われたことはそれで全部?他にもあるなら言いなよ?一人で抱え込むの、辛いよ?」


いつきが去った後、リサはまなかに優しい口調で尋ねた。

まなかは一瞬固まった。なぜなら、しおりからは去り際にもうひとつ、衝撃的な事実を打ち明けられたからであった。


「……ううん。全部だよ。ありがとう、おかげですっきりしたよ。」


結局この時、まなかはあの話だけは打ち明ける事ができなかった。





ーーー…


「……あれ?」


コンビニで買い物を済ませたいつきの前に、見覚えのある顔が通りすぎた。


「(しおり…?)」


よく見ればその学生はしおりだった。いつきは目を疑った。なぜならしおりも本来ならばこの時間、同じ授業を受けているはずだからである。しかも普段から真面目な彼女である。授業をサボるなんて考えられない。


いつきはまなかのこともあって、なんとかしおりから直接言葉を聞きたかった。不安はあったが、いつきはごくりと唾を飲み込み、彼女の後を早足で追った。



「ちょっと、しおり!」


いつきの手がしおりの肩に届いた。しおりは少々驚いたようで、びくっと身体を震わせた。しかし、ゆっくりと振り返った表情はいたって冷静だった。


「…何?」


むしろ冷たかった。


「…ちょっと、話があるんだけど。」


いつきの言葉に、しおりは初め軽く首を傾げたが心当たりがあったのかすぐに「あぁ」と声を漏らした。


「まなかのことでしょう?」


それは開き直ったような口振りで、淡々と発せられた。しおりの口からあまりにもさらりと出た言葉に、いつきは少し怯む。


「……なんであんなひどいこと言ったの。」


しおりは視線をいつきから離し、どこか遠くを見るように少しだけ天を仰いだ。


「…良い機会かな、て思ったから。」


「え…?」


「そろそろはっきり言っておくべきなのかな…って、思っただけ。ちょうど人もいなくて、二人きりだったし。」


そのときのしおりの表情は、彼女の前髪が邪魔をしてあまり見えなかった。しかし、口元は笑っているように見えた。


「あたしさ、最近まなかと一緒にいても、楽しくなかったんだよね。むしろ腹立たしいって言うか…なんにもされてないんだけど。雰囲気かな?もともと相性が合わないっていうか…見ててイラつくっていうかさ。良く考えてみれば、私は体育会系、まなかは文化系のお嬢様って感じじゃない?はは…やっぱり、正反対じゃん、うちらって。」


しおりの口から次々と発せられるまなかへの悪口。いつきはまだこの状況が信じられなかった。


「…なに…それ。」


いつきが呟くと、しおりは上を向いた顔をそのままに、視線だけをいつきに向けた。


「しおり…あんた、本気でそんなこと言ってるの?なんで?しおりとまなかは高校からずっと一緒で…そうだよ、まなか言ってた。しおりは私を助けてくれた恩人なんだって。…ねぇ、なにか他に理由があるなら言ってよ、どうして急にこんなことになっちゃったの?」


いつきが尋ねる。しかし、しおりはしばらく黙ったまま、空に流れる雲をただ見ていた。



「……さぁ、なんでだろうね。」


ぽつり、としおりは呟く。


「まなかには…ただの同情、だったのかな。かわいそうなやつ、惨めなやつ……。…そんなことよりさいつき、あんたはあたしのこと軽蔑とかしてないの。」


いつきはこの瞬間、彼女の意味がわからなかった。


「ああ…もしかしてあの子、あのことは二人に言ってないのかな。…つくづく、お人好しなやつ。」


「…何よ、あのことって。」


しおりは上げていた顔をもとに戻し、しっかりといつきに視線を向けた。


「いつき…あたしってさ、人殺しなんだよ、人殺し。」


いつきは自分の耳を疑った。固まっているいつきを見て、しおりは続ける。


「最近さ、うちの学校で死亡事故があったでしょう?あれ、事故じゃなくて、私なの。私が犯人。被害者は、高校が同じの森田。見たことあるよね?私とちょいちょい絡んでたやつね。…その森田をね、私が階段から突き落としたの。もちろん…殺す目的で。」


いつきの額にじんわりと汗が浮き出る。

まなかのこともあり、次はこんな衝撃的事実を告げられる。何が本当で何が嘘なのか…いつきは今の状況が全くつかめずにいた。



「…どうして…なん…で…?」


いつきの口からやっと発せられたのはその一言だった。


「…さぁ…なんでだろうね。」


しおりの返事も、先程と同じ、この一言だけ。その言葉を残し、彼女は立ち去ろうとする。

「待って」の一言も、この時のいつきからは出なかった。


「……だってもう、始まっちゃってるだもん…」

背を向けたまましおりは呟いた。いつきにはその言葉は届かなかった。


ーーー…


「あ、きたきた。遅いよーいつき!」

「ご、ごめん。どれにしようか迷っちゃってさ。はい、牛乳。」

「サンキュー!」


リサとまなかのもとへ戻ったいつきは、買ってきたものを袋からテーブルに出しながら笑った。

しおりとの一件は、とりあえず自分の中で整理がつくまでは話さないようにしようと、なんとか平然を装った。


「ありがとうね、いつき。……?いつき、なんか少し顔色悪くない?」


まなかはいつきの顔を除き込みながら言った。


「え?そ…そんなことないよ、気のせいだよ。ほら、まなかもお腹空いたでしょ。早く食べな!」


多少ぎくり、としたものの、なんとか紛らわしその場をやり過ごした。

まなかもまなかで、少しいつきの様子がいつもと違うと思いつつも、食べ物を受け取った。




3人はその後、まなかを励ましつつもいつも通りに楽しく過ごした。

しかし、いつきの心の中には決して楽しいという感情はなかった。

ちらちらとまなかを横目で見る。


「(まなかは…あのこと、知ってるんだよ…ね。)」


腫れた目を時々擦りながらも、美味しそうに菓子パンにかぶりつくまなか。これから「実はしおりが生徒を殺した」なんて打ち明けるようには感じられない。


「(これ以上関係がめちゃくちゃになっていくのは耐えられない…。とにかく今は、あのことは伏せておいた方がいいのかも。)」


いつきは心の中でそう呟いて、おにぎりを一口食べた。




ー…


授業が終わった。人気のなかった廊下も、教室から出てきた生徒たちでざわつき始めた。


「授業、終わったみたいだね。どうするまなか?次の授業は出られそう?」


リサは立ち上がり、のびをしながら尋ねる。


「うん、もう平気。本当にごめんね、二人とも。」


まなかは笑顔でそう応えた。いつきもリサもとりあえず安心し、次の授業の教室へと向かった。










「ちょっと、トイレ行ってくんね。」


教室に入り荷物を置くと、リサはその足でトイレへと向かった。

残されたいつきとまなかにはなにやら気まずい空気が流れ、二人とも黙ったまま席についていた。


「(もしかして、今がチャンス…?)」


いつきはしおりの件についてまなかに話そうかどうか悩んでいた。

唯一あのことを知らないリサがいない今、まなかが本当にしおりから人殺しだと聞かされたのか、聞き出したかった。

まなかは『LEVEL』を取りだし、いじっている。


「(…今しかない…。)」


いつきが話を切り出そうとした、その時だった。


「あれぇ…。」


突如まなかがスマホの画面を見ながら声をあげた。


「どうしたの?」


いつきが画面を除き込む。どうやらまなかは『L-talk』を開いていたようだ。


「んー…なんか知らない人からメッセージが来てる。でも、なんか外国の人っぽい。おかしいな、知らない人とトモダチにはなってないはずなのに…。」


まなかは不安そうに呟いた。


「…それに…」


まなかは弱々しい声で続けた。


「通知が……森田くんが死んだっていう通知が、来てるの。」


「…え?」


いつきは『L-talk』のシステムがどんなものなのかほとんど知らない。

しかし、まなかの様子と、自分自身に襲いかかるような寒気でわかった…これから良くないことが起きるのではないかということが。



―…


「リぃーサちん!」


ぽん、と肩を叩かれ振り替えると、そこには見覚えのある顔が笑っていた。


「あ、なかちょ!」


「さっきの授業、出席票出しといたよぉ。大丈夫なの?気分悪くなっちゃったっていう友達。」


声をかけてきたのはリサやいつきたちの隣のクラスである田中千夜(たなかちよ)(通称:なかちょ)であった。

リサは彼女に先程出られなかった三人分の出席票を出してもらえるよう、お願いをしたようだ。


「ありがとうー。助かったよ。もう大丈夫、次の授業は出るから。」


リサがそう返すと、千夜は「そうなんだ〜、よかった。」と軽く相づちをしながら、なにやらリサの周りを落ち着きなくきょろきょろと見渡している。



「……ねぇ、あの子は?」

「あの子って?」


突然の千夜の問いにリサは首を傾げた。


「あの子だよ、リサちんとよく一緒にいる中の、背が高くて…ポニーテールの…。」

「ああ、しおりのこと?」


リサがその名前を口にすると、千夜は深く頷いた。


「今はいないよ。…ていうか、この時間の授業一緒じゃないんじゃないかな。…何、しおりに何か用?」


千夜はリサの反応を見てすぐに理解した。

彼女は手をを軽く口の横にあて、小声で話始めた。


「……もしかして、リサちんまだ知らない?最近噂になってるんだけど…」


リサは千夜の話に耳を傾けた。


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