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いつもと変わらない日常のなかで、


挿絵(By みてみん)


―――…


『今日の特集は、今話題スマートフォンです!』

『いや〜、本当に大人気ですね。私もほら、もう購入しましたよー。……』



「本当に、最近このケータイ持ってる人よく見るわねぇ。」


 朝のニュース番組で、例のスマホが取り上げられているのを見て、母が呟いた。


「私のクラスの子もほとんどこれに買い替えたよ。つい最近も1人買い換えようかなって言ってた子いたし。」


いつきは朝ごはんを口に含みながら、まだ半分寝ているような、ぼんやりとした声で言う。

母は「あら、そうなのぉ?」と返した。


「色んな噂もあるしね〜。ま、私はこのままのケータイでいいよ。愛着あるし。ごちそうさま。」


そう言っていつきは席を立った。



いつきの家族はガラケー一家だ。最も両親はスマホをあまり良いものとは思っていないし、SNSはもちろん、ブログなども好んでいない。

いつきもSNSに興味が無いわけでは無い。しかし、なんだかんだで面倒くさいという結論にいたってしまうのだ。


いつきの家族は父と母、兄の4人家族で、近くに母方の祖母が住んでいる。兄はアメリカで雑誌の編集者として働いているため、現在この家にはいない。

 実質いつきは父と母との3人暮らしなのだ。


「いってきます!」


いつきの朝はこうして始まる。

目覚ましに叩き起こされ、一階のリビングに降りる。朝食を食べながら朝のニュースを見て、それについて家族と少し会話を交わして、着替えて髪をとかして……大学へ。


 いつきの通う大学は都内にある私立大学。交通の便もよく、家から1時間弱で着いてしまうので本人にとっては文句なしの学校だ。


 登校中、電車の中でいつきはずっと新作スマホの事が気にかかっていた。


新作スマートフォンの名前は『LEVEL』という。(ちなみにアクセントはレ。)新商品として広がったこのスマホが、これから先どんどんレベルアップしていくように、という開発者の思いが込められているという。


『LEVEL』の外見は、最初にいった通り、ほとんど普通のスマホと変わりはない。

ただ、フレームが少し透明がかっているという変わった造りをしているのと、内側のカメラの横に不思議な窓のような、センサーのような…よくわからないものがついている。ただ、それだけ。


 それなのにニュース番組では特集を組まれるほど大々的に取り上げられるし、ベタ褒めされるしで、『LEVEL』の人気は急上昇。とどまるところを知らない。


 しかし、おかしな事がある。いつきが友人から聞いたあの噂話…。これだけ噂が広がっているにも関わらず、テレビや新聞のメディアでそのことが取り上げられたことは一度もない。

せいぜい雑誌で面白半分に書かれているくらいだ。


デマなのか

それとも公表できない理由があるのか…



ーーー


「でもさぁ、仮にゲームの話が本当だったとしても、リサたちには関係なくない?」


いつきは学校についてから気にかかっていることをリサに話した。

リサは小さなパックの牛乳をストローで飲みながらそう返した。


「そうだけどさぁ…、気にならない?」

「そりゃあ、少しは気になるけどぉ…例の噂話もSNSを利用してる人にしかまわってこなかったわけで、うちらだってしおりたちから聞かなかったら知らなかったって事でしょ?うちらは元々、ゲームの対象外ってことだよ。」


 リサが言うと、なんだか説得力があるんだ。


 リサはいつきとサークルも同じで、友達の中でもいつきが頼りとしている人物である。頭がいいとか勉強ができるとか、そういうわけではないけれど、何事もきっぱりはっきり言うのでリサが発する言葉はなんでも正しいように聞こえてしまう。

リサはスマホユーザーだが、SNSを利用していない。インターネットを使うこと以外はいままでのケータイとほとんど変わらないという。


「でも、まなかはメールで宣伝がきたって言ってたよ?リサは来てないの?」


 いつきがそう尋ねると、リサは「うーん」と言って牛乳を飲み干した。


「実は、昨日なんだけどさぁ…」


 そう言いながらいつきにメール画面を見せた。

 そのメールはたしかにあのスマホの宣伝メールのようだったが、前にまなかが見せてくれたものとは少し違った。


「なにこれ、URLがついてる…。」


 そう、リサ宛のメールには宣伝のあとに「今のケータイを変えたくない方はこちらもどうぞ。」という文が添えられていて、どこか別のサイトにとべるようにURLがついていた。

 まなか宛のメールにはURLは無かった。


「そうなんだよね。まなかのはただの宣伝だけだったみたいだけど、これはいたずらメール、かなぁ…。」

「たしかに、いきなりきたメールについてるURLにとぶのは、ちょっと怖いよね…。」

「こんな今だから、本物の宣伝メールに紛れてテキトーな偽メール流す奴とかいるのかもね。いつきも気を付けなよ。」

「うん、まぁ…私は大丈夫だと、思うけど。」


 はははと笑ういつき。 スマホでなければSNSも利用していないいつき。考えてみれば対象外中の対象外である。

 いつきは自分がなぜこんなに『LEVEL』について気にかけているのか、馬鹿らしくなった。


「おはよう二人とも。」

 

 1限目が始まる直前に、息を切らしてまなかがやって来た。


「おー、珍しいね。まなかがこんなにギリギリに来るなんて。寝坊でもしたの?」


 いつも授業の20分前には席についているまなかが、授業直前に教室に入ってくることは珍しかった。


「ううん、ちょっとね、私の乗る1本前電車で急病人が出ちゃったみたいで電車が遅れてて…。」


 ハンカチで汗を拭いながらぐったりと席につくまなか。


「そうだったんだ。大変だったね。」

「もぅ、本当に。」


  教室に先生が入ってくると、教室のざわつきが少しだけ落ち着いた。


「あれ、しおりってこの授業取ってなかったっけ?」


 まなかは小声で二人に尋ねた。


「うん。2限目もしおりだけ別の授業。」

「でもお昼はいつも通り皆で食べよって言ってあるから。」


 1年の時から行動を共にしている仲良し四人組。

 しかし2年生にしてから、この日の午前授業はしおりだけ別の授業になってしまった。


「そっか、そういえばそうだったね〜。」

「しおりに何か用でもあった?」


何か言いたそうなまなかを見て、いつきは尋ねた。


「ううん、特にどうってことない事なんだけど、、、」





ーーー…


「えー!?あのスマホ買うことにしたの!?ついに!?」

「リサ、声でかいし。」


 昼休み。

 しおりとも合流して、いつものように世間話をしながら昼食をとる。

 今日の話の中心も、やはりあのスマホ。どうやらまなかは『LEVEL』を買うことに決めたようだ。


「あれ、なんでいつき驚かないの?一番驚きそうなのに。」

「だって私聞いたもん、1限目に。あなたは寝てたから聞いてなかっただろうけど。」


 今日はまなかの発表により一段と賑やかである。


「あーあ、ついにうちらのグループも半分があのスマホかぁ。なんか洗脳されてるみたいで余計に買う気失せるよなぁ…。」

「ちょっとリサ、私たちが洗脳されてるみたいに言わないでよね、失礼よ!ねぇ、しおり!」

「……え、」


 いきなり話を振られたとはいえ、いつものしおりらしくない反応をしたので会話は一瞬、時が止まったかのように途切れた。


「しおりさぁん、さてはいままでの話聞いてなかったなぁ?」


リサがそう言ってからかうと、しおりは近づいてくるリサのおでこを持っていたペットボトルで押し返した。


「まさかぁ、ちゃんと聞いていましたよリサちゃあん。随分と失礼なこと言ってくれるじゃない?」

最後にぽこっと軽く頭を叩いて言い返した。


「まなかも『LEVEL』にするんだね!まなかが『L-talk』に入ってくれるの、楽しみだなぁ。買い換えたらすぐにアカウント教えてね!」


返ってきた言葉はやはりいつも通りのしおりだったので、いつきたちは少し安心した。


「うん!もちろんだよー!」


 しおりにそう言われて、まなかも嬉しそうに答えた。

 しかしこの時いつきはどことなく違和感を感じていた。なぜならいつきには、しおりの笑顔がひきつっているように見えたから…。




ーーー…


「じゃあね〜」

「また明日ぁ」


 本日の授業は4限目まで。いつもならここで買い物に行こうかとか、ちょっとなんか食べていこうよという話になるのだが、まなかがスマホを買い換えると言うこともあって今日は真っ直ぐ帰ることにした。


「やー、早く帰るってのもいいね!家に帰ったらなにしよっかなぁ…。」

「とか言って、結局いつきは寝るんでしょ?」


 帰り道は方向が同じしおりと二人。(まなかとリサは逆方向。)


「ねぇ、いつき。」


 ふいに、しおりが尋ねる。


「突然こんなこと言うのもなんだけど、いつきはさ、あの噂本当だと思う?」


 本当に突然のことだったのでいつきは少し戸惑った。


「うーん、私もね…つい今日の朝まで気になってたんだけど、リサに話したら、仮に本当だとしてもうちらには関係ないんじゃないかって言われてさ。確かに、ガラケーの私が心配することじゃないかなって思って、どーでもよくなっちゃった〜。」


いつきがそう答えると、しおりは「リサらしいね。」と笑った。


「それにさ、噂が出回ってからそこそこ経つけど、実際ゲームが始まったとか確信持てる情報てまだ出てないよね―。なんだかんだ言われてるけど、結局噂は噂のままなんじゃない?」


いつきがそう付け足すと、しおりは小さく笑って、「やっぱそうだよねー。」と呟いた。


そうは言うものの、心の奥底ではいつきだってまだどこかで噂の事が気にかかっているし、実際に『LEVEL』ユーザーであるしおりに突然こんなことを聞かれたら、心配になる。


「大丈夫。最悪そのゲームが始まったら、私もリサも、しおりたちを手助けするからさぁ。ガラケーの私になにができるかはわかんないけどっ!」



いつきはなんとかこの場の雰囲気を明るくさせようと、冗談っぽく笑って言った。


「ありがとう。期待してるわー!」


最後はしおりも笑顔になって、二人は別れた。






いつもと変わらない日常の中で、徐々に何かが変わり始めていた。


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