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騎士への早道

「――考えてみれば俺だって魔族の王子的存在ではあるんだから、そんな身分違いでもないような気がしないでもないよな」


 馴染みとなりつつある来福亭の寝室で、俺はベッドに寝転がりながら慣れない敬語で疲れた舌を休息させていた。


 それにしても、判断権限は全て向こうにある提案とはいえ、よく考える気になってくれたもんだ。フィリアも物好きだな。


 要約すると「別に好きじゃないけど守ってやるから俺の子を産め」だもんな。ひょっとすると元老院議員の子息とかと無理な縁談を組まされそうとかな。その場合は邪魔だから相手をシロに喰わすのもいいけど、無暗な殺生は控えたいものだ。


 そんじゃまあ、親父にまた報告の手紙でも書きますかね。


 拝啓、親父――……王族の姫に魔族の圧倒的な力を見せつけ、為す術もない相手を蹂躙して契りを交わす予定です。人間族に混じった魔族の血は確実に浸透し、新たな魔族の世界を築く礎となるでしょう。契りを交わすことを拒んだとしても、力に恐怖した王族は魔族を受け入れるしか生きる道はないと悟ることになると思います。だから大人しく島で待っとけよ……と。


 うん、こんなもんだろ。嘘はほぼ書いてないし、親父もこれなら満足するはずだ。


「シロ……行ったり来たりで本当に悪いけど、これをまた親父に届けてくれ。餌は途中で調達OK……あまり人間族は狩らないように」


 シロが頷くように一声上げる。本当にこいつにはお世話になりっぱなしだな。今度何か買ってやろう。


 シロを見送ってから、俺は階下にいるこれまた馴染みとなった女将マグダレーナに声をかけた。マグダレーナは宿屋を経営してるだけあって、かなりの情報通である。勿論一般的な情報に限るが、大概は打てば響くかのように返答してくれるのだ。


「どうしたんだい? またお勧めの店を紹介してほしいのかい」

「いや……今日はそういうのではなく」


 ちなみに、夜の店で遊ぶとやっぱどうしても金が減る。二日に一度ぐらいの頻度で活用しているが、すでに金貨五枚は無くなった。少し自重しよう。


「この国で騎士になるにはどうすればいいんです?」

「あんた、騎士になりたいのかい?」

「まあ、ね」

「ふーん、難儀なもんだよ? 帝都にある士官学校へ入学して三年はみっちりと訓練を受けることになる。それを卒業して試験に合格すればやっと《兵士》になれる」


 面倒くせぇ~。


「兵士として勤め、功績を認められた者が騎士に昇格するってとこかね」

「その上はどうです?」

「上級騎士のことかい? ありゃあ皇帝様から勲章を与えられるほど国に大きく貢献することで爵位を与えられる特別な人間だよ。いきなり高望みはしなさんな」


 長ぇ道のりだな。悠長に構えててフィリアが暗殺されたらフリダシに戻っちまう。


「他に方法はないんですか?」

「あることはあるけどねぇ……」


 俺は無言で続きを促すようにマグダレーナの手に銀貨を握らせる。


「いやね、討伐者ギルドがあるだろ。あそこは登録してある討伐者にランクを付けてるけど、高ランクの討伐者には仕官の声がかかるって話さ。もっとも、第三者の戦力として国に属さないギルドから人材を引き抜くのはあまり褒められたことじゃない。けどまぁ、どこの国でもやってることさね。暗黙の了解ってやつだ」


 なるほど。


「高ランクの討伐者ほど命を危険に晒してるからね。帝都の警備、領土内にある町村の安全確保っていう危険が少ない仕事に鞍替えするやつも出てくるのさ」


 ふむ。上手くいけば騎士になるのにそう時間はかからないかもな。

 もしやフィリアはこれで俺の実力を測ろうとしてるのか? 士官学校やらに通って何年後かに騎士になりフィリアの下に行っても、門前払いかもしれない。


 やってやりますか。


「討伐者ギルドに興味があるなら止めないけど……自分に見合った依頼を受けるんだよ。まだ若いんだから、焦るこたぁない」

「ありがとうございます」


 討伐者ギルドね。まだ日暮れには早い。いっちょ行ってみっか。



 帝都スーヴェンの街並みは円を描くように建設されており、外周部には魔物対策の外壁が存在している。放射線状にカットされた区画が、市街区、商業区、歓楽区などなど、機能的に分類されることで効率が良くなっているのだ。円の中心付近には全ての区画へ通じる大通りが設置され、もっとも中心にスーヴェンの城が建てられている。


 商業区に位置している討伐者ギルドには、情報収集の際に何度か足を運んでいた。その時は登録しなかったが、どうやらここがスーヴェンにおけるギルド本部とのことだ。他にも少し大きな町にはギルドが存在しているらしい。


 扉を開け、改めて室内を見回す。きちんと整理された情報掲示板や受付カウンターが並んでおり、前世でいう市役所といった印象だ。


 討伐者ギルドには荒くれ者が集う……というイメージは間違いで、皆さん結構真面目に業務をこなしていらっしゃる。もちろんそういった者が皆無ではないが、受付の人は勿論のこと、依頼を受けようとする討伐者も概ね品性に欠けた人物が騒いでいるようなことはない。


「お待たせしました。今日はどのようなご用件でしょう?」


 受付カウンターに座った俺に対応してくれたのは、二十歳ぐらいの女性だ。真面目そうな顔はいかにも職員という雰囲気で、さくさくと仕事をこなしているであろう姿には好感を覚える。


「討伐者ギルドに登録したいんだけど。詳しく教えてもらえる?」

「畏まりました」


 討伐者ギルドに登録するのは誰でもできる。だが登録後、規定期間中に何も依頼をこなさない者は除名処分を受ける。これは実際に魔物を討伐している討伐者の数をできるだけ正確に把握するためらしい。確かに魔物を討伐するという重要な役目を担うギルドに幽霊部員がいてはいけないのだろう。


 討伐者にはランクが存在し、Eランク~SSランクのどれかに属する。その各ランクごとに依頼が区別されている。


 SSランクに該当する討伐者は存在せず、Sランクは数十人、Aランクが数百人程度、それ以下が数万人のサラダボウル。


 SSランクの依頼は発生すること自体が稀であり、討伐者ギルドと国が協力して解決にあたるレベル。


 自分のランク以上の依頼を受けることはできず、ランクの昇格は実績に応じてギルド側が判断する。


 報酬は基本的に依頼達成時に支払われ、対象の魔物を討伐したと判断できる部位を提出すること。虚偽の報告をした場合は永久除名処分。


 取得した魔物の有用部位はギルドでも買取が可能。


「――へぇ。で、初期のランクってやっぱりEなの?」

「通常はそうなりますね。ただ初回の依頼のみですが、ランク制限なしで受けていただくことも可能ではあります。依頼を達成すれば、該当するランクからスタートになりますよ」

「いきなりSSランクも可能ってこと?」

「確かにランクが高いほど報酬額は多くなりますが……この制度は基本的に許容可の理由で除名された討伐者が復職する際に使用されることが多く、初心者の方は余程自信のある方以外Eランクの依頼を受けるのがほとんどです。力量を見誤ると本当に命を落とすことになりますので、慎重に選ばれるようお願いします」


 まあ、功を焦って死んだら元も子もない。誰もいきなり高ランクの依頼を受けることなどないのだろう。


 この大陸には俺がニブルヘイム島で戦ったことのない魔物だっているだろう。まずは力量を知ってる魔物を相手に依頼を受けるべきだ。


 情報掲示板の前に行き、膨大な数の依頼に適当に目を通す。文字だけの依頼もあれば、討伐する魔物を描いた絵や、出現場所の位置を示した図とともに貼られているものもある。


「お……これって」


 依頼を掲示板から取って眺める。絵にある魔物の姿は俺もよく知っているものだ。親父に放りこまれたユルドの森に出現する奴で、まあそんなに強くなかった。


 苦労したシロに比べれば、こいつらは雑魚だったと記憶している。


「ふむふむ、帝都スーヴェン北東に位置する森林の洞窟付近で複数を確認。全ての駆除が依頼内容、か」


 腰にある袋から小さめの地図を取り出す。依頼の紙に記載されている場所は……大体この辺か。そう遠くないな。

 シロならすぐに……あ、今はいないんだった。

 まあなんとかなるだろ。魔物自体は何匹いようが雑魚だし。


「すんません、この依頼を受けたいんだけど」


 先程と同じ女性が座るカウンターに赴き、依頼の紙を渡す。


「……」


 あれ?

 なんかお姉さんめっちゃ渋い顔してる。なんでだよ。ちゃんと考えて選んだぞ。


「あの……この依頼の該当ランクをご覧になられましたか?」

「あ、そういや見てないや。でも何回も倒したことある奴らだったんで、いけるかなと」


 確かに俺は魔族の中でもかなり強いほうだ。そして魔族は基本的に人間族より優れている。

 しかしだ。フィリアに言った『俺より強い奴なんていねぇ』発言は、売り込みのための誇張表現だし、俺だってそこまで思い上がってない。


 親父がよく言っている「上には上がいる」というのは真実だ。


 だからこの依頼の魔物はせいぜいCランクってとこだろうと思う。それでも最初から二つ飛び級できれば時間の短縮になるだろう。


「倒したことがある……一人でですか? その……ジークさんは記録を見る限り以前に討伐者だったことはないようですが」

「や、親父がスパルタだったもんで。Cランクぐらいでしょ?」

「右下に記載されている該当ランクをよく見てくださいっ。これは……Aランクです」

「……マジッすか」


 どうやら、あの台詞は俺が考えるより誇張表現ではなかったのだろうか? 

 微かに呆れと疑問の色が混ざった表情で俺を見るお姉さんの顔が、印象的だった。


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