二頭の獅子
予約投稿してみました。
土日は筆が進みますね。迫力ある戦闘シーンを頑張ったつもりですが、どんな感じか不安です。
書きたいものをガムシャラに書きまくったので、この二人よりもむしろ作者のHPがヤバい感じです。
作者 HP 3/75 ぐらい。
スーヴェン城の外郭にはいくつかの棟が存在し、城内から続く連絡通路を通ることで行き来する造りとなっている。
練兵場はその棟を一つ丸々使用しているかなり大きめの施設といえるだろう。練習に使用する武器や防具も同場所に用意されており、訓練とはいえ実戦を想定している兵士や騎士は刃を潰したものなど使用するはずもなかった。
ヒュメルの申し出は、ほぼ強制だったといっていい。全騎士のトップがじきじきに指名してくるものを断ったとあれば、俺は騎士の位を剥奪されるかもしれなかったからだ。まあさすがにその理由でそんなことにまでなるかは判然としないが(だって相手はトップ騎士だし、勝てるわけねーだろ的な意味で)、ヒュメルがもっともらしい口上を垂れやがったせいで受けることになってしまった。
そもそも、聖騎士がそこらの騎士と模擬戦を行うなんてことは埒外の出来事だそうだ。だがヒュメル曰く、もうすぐ新規に兵が配属される時期だという。これはつまり士官学校を卒業してきた奴らが新入社員よろしく城に就職してくるってことだろう。
そんな新人兵士を先輩方が弛んだ気持ちで受け入れることになるのはよろしくない。なれば、騎士のトップたる自分が手本を示すため、城内で腕の立つ騎士と模擬戦を行い、それをもって周囲の兵士や騎士に活を入れてやるとのたまいやがったのだ。
名目上筋は通る……か? 強引じゃね? かなり強引だろ。
当然、俺はそんな言い分は信じていない。間違いなく俺を処分する気じゃねえか。最終的にフィリアを狙ってやがるくせに、なんつーかこの男は個人的に俺に含むところがあるような気さえする。
訓練中の事故――か。勝てる自信があるってことだろうな。……舐めやがって。
事情を知らないリックなど「ジークさんすごいっす。ヒュメル様と戦えるだけで尊敬するっす」なんて言ってる。じゃあ代われ。
そんなわけで当然ながら、練兵場には多くの人間が集まっているわけだ。活を入れるのが目的だからな。でもなんか観戦モードを楽しんでるように思えるのは気のせいだろうか。
フィリアだけは心配そうにこちらを見つめている。さすがにイルミナはここには居ないが、不安がっていたフィリアはそのまま付いてきたのだ。
「――そろそろ始めるか」
正方形に切り取られた闘技場とも思える場所には、俺とヒュメルだけが立っている。こんだけ広い空間を使って一対一で闘うとか……半ば公開処刑じゃねえか。
「君も好きな武器を使うといい。私も自前の剣と盾を使用させてもらう。なに、手加減はするし、命の心配などはいらん」
抜けぬけと、俺がお前のことを調べてないとでも思ってるのか。
「そうですか……それでは」
俺は腰に装着していた剣を鞘ごと取り外し、地面へと投げ捨てる。他に武器など持っていない。
「どういうつもりだ?」
「私は、剣術などより魔法を得意としていますから。本気で闘う場合に剣は使用しません」
「ほう……そうなのか。では、それでよいのだな」
白々しい。
アロンダイト――アーシャ大陸で採掘されるグラン鉱石から鍛造されたドワーフ作の逸品。刃こぼれしないとまでいわれてるらしい。
プリトウェン――スーヴェン帝国の国宝。代々聖騎士に授与されてきた盾。あらゆる魔法を弾くとされている伝説級の代物だ。
つまりは魔術師殺しじゃねえか。こんの野郎。そもそも支給品の剣であんなの相手にしたら一瞬でポキリだっつの。
俺の大きな舌打ちは、名目上の審判の声にかき消された。
「それでは――――試合開始っ」
フィリアの話では、ヒュメルはSSランクの魔物さえ一人で倒せるほどとか言ってたな…………ってっ!
油断などしていない。むしろ警戒していた。
だのに、ヒュメルは一瞬で俺との間合いを詰めてきたのだ。振り下ろせば剣が届く範囲内にまで。
くッ!
咄嗟に展開した大きめの魔力障壁が金属と衝突する不快音が鳴り響く。その音が意識できないほどの短い時間の間に大きく増していく。
……破られるっ!
後ろへ飛び退くかたちで跳躍し、その場から離れると、今まで俺が存在していた空間を裂いて地面へと剣が突き刺さった。いや、刺さるという表現は正しくなく、地面を割った。
「ほぅ……」
特に感情が籠っていない声を漏らしたヒュメルが、ふたたび剣を構える。
今度はこっちの番だっ。
まずはあの盾の性能を見極めてやる。
零距離射撃とはいかないも、俺は人間大ほどある火球を間近のヒュメルに放つ。盾で防ぐかと思ったが、この距離でそれを器用に躱しやがった。
駄目だ、まずは足を止めないと話にならない。さらに後ろへと距離を取り、追随してくる相手を睨みつけながら、俺は地面へと氷魔法をぶちまけた。
瞬時に広範囲が凍土と化し、わずかながらもヒュメルの足元の自由を奪う。
「喰らえっ!」
火精に魔力を注ぎこみ、もう片方の手に集めた風精と合わせることでさらに炎の威力を上昇させる。限界まで練り上げた大火球は先程の数倍はあるだろう。それを一瞬動きが止まったヒュメルへと解き放った。
通常であれば、骨も残らないはず。が……
鈴の鳴るような甲高い音とともに、俺の魔法は盾で弾かれてしまった。軌道を変えられた火球は練兵場の壁までたどりつくと爆音とともに壁を破壊して消失した。
「これはすごいな……少し腕が痺れた。だが建物を破壊するなよ」
「今のはあなたのせいでしょっ」
言うと同時に地面を駆ける。普通の魔法はあの盾には通用しない、か。ならば盾意外の部分に直接魔法をぶち込むしかない。相手の剣戟は今までに見た人間族の誰のものよりも速い。エルナよりもだ。
親父と同程度ってとこか……うん、それってヤバい。親父クオリティはヤバい。
なんとか致命傷だけは回避しないと。
「せやぁぁぁっ!」
縦横無尽に振るわれる剣閃の嵐を皮一枚、いや薄肉一枚で躱し、回避しきれないものは魔力障壁で一瞬だけ速度を減少させてから寸前で避ける。
それでも、肉薄する位置からの俺の魔法は、ヒュメルの身体をわずかにかすっただけだった。とんでもない反射神経だな。
駄目だ。このままじゃ勝てない。フィリアの護衛騎士となってからは可能な限り手の内を明かさないようにしてたが……そうも言ってられない。とはいえ、魔術格闘には詠唱が必要になる。ヒュメルがそれを許してくれそうにないのも、使わない……使えない理由の一つである。
「どうした……それで終わりか?」
まだ余裕の表情を浮かべている相手に対して、俺は結構追いつめられた顔をしてるかもしれない。くそったれがっ!
相手の動きを奪ってから詠唱しようかと、ふたたび氷魔法を地面へと放ってみるが、コイツ相手に同じ手口は通用しないようだ。軽く避けられてしまった。
――それならっ!
トドメとばかりに迫る凶刃を前に、俺は魔力障壁を展開する。当然、こんなものは一瞬で破られる。が、その前に、俺は再度火球を練り上げ、放った。
相手ではなく、地面に向けてだ。
爆発音とともに爆心地にいた俺とヒュメルは爆風で空中へと飛ばされる。俺は障壁のおかげで、向こうも盾で防御しているためにダメージはほぼない。
だが、このわずかな時間が必要なのだ。宙に飛ばされながら俺は詠唱を開始する。
掌に集まる雷精の密度が急激に増していく。紫電の槍を握りしめ、相手が地面へと着地する瞬間を狙って俺は全力でソレを投擲した。
「うらぁぁぁぁッ!!」
観客となっている者達が空気の振動に思わず耳を塞ぎ、放電糸を撒き散らす雷の槍は真っすぐに相手に向かっていく。
さすがのヒュメルも、これを回避することはできないと見たのか盾を構える。空気が破裂するような衝撃音が充満し、白い閃光が室内を照らした。
「ぐ……く……」
視界が回復し、相手の姿を確認する。
が、ヒュメルはそれを耐えきった。五体満足な状態で地に立っている。
……アレを防ぎきるのか。
ガランッ。
盾自体は無事だったようだが、それを装備している人間にはわずかに効果があったようだ。衝撃で盾を取り落としたヒュメルは、すぐさまそれを拾おうとする。
それを見逃すほど、俺は甘くない。槍を投擲した時点から次の詠唱を開始していた俺は、ヒュメルに向けて一直線に駆ける。炎を武器化した剣をその手にして。
「終わりだぁぁぁっ!」
だが、ヒュメルは盾を拾うことを瞬時に諦め、握りしめていたアロンダイトを両手で構える。こちらを見据える眼は、恐れの色も、諦めの色も宿していない。
――あるのは、ただ、こちらに向ける殺意のみだ。
ああ、きっとこれは――どちらかが死ぬ。
それでも、お互い止まるつもりはない。
負けるつもりも、ない。
「――――――止めよッ!!」
だが、場外からの制止の声に、二人の動きが固まる。
「これ以上は模擬戦と認めることはできんっ! それでも続けるというのなら、主君のために血を流すと誓った騎士であることを捨てるものであると心得よっ」
広い室内に木霊した透き通るようなその声は、その場にいる全員の動きを止めるに十分なものだった。
振り向くとそこには――凛とした表情でこちらを見据えるフィリアの姿があった。眼の端にわずかばかり涙を浮かべながらも、気丈に振る舞うその姿に、自然と身体の奥で燃える火が鎮火されていく。
俺は武器化を解き、ヒュメルもしばし黙考してから剣を収めたのだった。
ヒュメルはまず直球勝負にきましたね。彼は真面目な男です。
懐かしい人物は次回に持ち越しですね。
さてさて、どうなることやら。




