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フィリアの父

やっと話しが進みだしそうかもしれません。

目指せ完結。

 ドレイク公の館の一室、品良くデザインされたもろもろが持ち主のセンスを表しているのだろう部屋で、俺は頭を抱えていた。

 なんでか?


 ドレイク公の話を聞くか否かについてだ。


 中庭から室内に招かれた俺は落ち着くように促された。そして勘違いとやらを正してくれるようだ。ちなみに、話を聞くのならばドレイク公に仕えることが前提となっている。ぶっちゃけ話が納得できないものなら無理やり逃げるつもりではあるが、室内にはドレイク公とレヴィの他にも数人の騎士と思われる者達が油断なく配備されている。


 ちょっと厳しいかもしれない。万が一のときは従うフリをして逃げるべ。


 俺の対面に座る公爵様は、どこか面白そうにこちらを観察している。レヴィの方はさっきの勝負時とは違って冷静な顔つきだ。しかし……なんでまた俺のことが筒抜けなんだ?


「なぜ、私のことをご存じなのかを教えていただけますか」

「それはつまり、ワシに仕えることを了承すると考えてもいいのかな?」

「……はい」


 怪訝な顔の俺を見て、ドレイク公は髭を指で撫でつけ、ゆっくりと口を開いた。


「ジークと申したな。そなたのことを何故ワシが知っているかだが、そりゃああんな面白い報告を聞けば記憶にも残るというものだ」

「……と言いますと」

「フィリア様に面と向かって子供を儲ける宣言をしたのであろう?」


 さも愉快そうな笑顔でこちらを見やる公爵は、どうにも悪人とは思えない。つうか、改めて聞くと俺はなんつうことをお姫様に言ったんでしょうね、全く。


「何故それをご存じで?」

「当然だろう。フィリア様の護衛についている騎士はワシが派遣している者達だからな。報告を受けたときは、思わず笑い転げてしまったぞ。そしてヒュドラの件で報告にあった男の風体がその愉快な人物と似ていると聞いた時は興味津々だったわ」


 ああ……そゆこと。まあ、ばっちし名乗ってましたからね。これで同一人物だと確実視されましたな。

 あいつらドレイク公の騎士だったのかよ……ん? でもフィリアは護衛してる騎士を信頼している風だったな……やっぱ俺ってばなんか勘違いしてるんだろうか。


「さて、どこから話したものかな」

「公爵様っ、私はやはり反対です。まだこの男の詳しい素情も分からないのですよ」


 ドレイク公を止めるレヴィの言い分はもっともだ。国の内部事情をペラペラ喋るのはいかがなものか。まあ……そのために周りの騎士さんがいらっしゃるんだろうが。


「良い。そなたもこの者の強さは十分に分かっただろう。それに、ワシだって若い頃は随分と無茶をやったもんだ。さすがに王族の姫に子作り宣言はせんかったがな」


 やだ、なんかこの公爵に親近感が湧いてきたぞ。


「使える駒は揃えるべきだ。この者のフィリア様を守ろうとする気持ちに嘘はないと思うのだが……なあ、ジーク」


 駒呼ばわりは少し心外だが、こちらの心を見透かすように真っすぐに見据えてくる目は、相手の本心を読み取ろうという油断ないものだ。このオッサン……なかなか狸かもな。


 だが、俺がフィリアを守るという一点においては、嘘偽りない真実だ。相手の質問にゆっくりと首肯する。

 それに満足したのか、ドレイク公はレヴィを制してから話を再開する。


「――このリバーブルは、知っているかもしれんが東にあるガイラル国との交易が盛んでな。スーヴェン帝国と古くから交流がある」


 ドレイク公がテーブルに置かれていたカップを取り、一口飲んで唇を潤す。


「現皇帝イルミナ様の夫であったカーネル……・クレイグ様は元々ガイラル王国の第二皇子であった。もう亡くなってしまったがな」


 確か……フィリアの父親であるカーネルが亡くなったのは五年前だったか。それは帝都にいる時に聞いた。


「もう二十年ほども前になるが……カーネル様……いや、カーネルとワシは良き親友だったのだよ。ガイラル王国ともっとも交流があるのは、ここリバーブルだからな。ひょんなことからカーネルと縁があって……あの頃はまだワシも若かったわ。くはは、夜通し中ともに遊び回ったこともある」


 なにやってんだよ、領主様と皇子様。まあ……俺も人のこと言えないけども。


「奴はワシ以上に遊び人だったが、誰からも好かれる良い男だった……しかし、ガイラル国で第二皇子は所詮後継ぎにはなれん。最終的にカーネルは政治的に利用された」

「公爵様、その様な物言いは誤解を招きます。お気をつけください」

「そういうな、レヴィ……いや、そうだな……」


 どこか寂しげな表情のドレイク公は一気にカップの中身を飲み干す。


「イルミナ様とカーネル様は政略結婚だったと?」

「……そうだ。だが、そんなことはよくある話だ。ワシもそれに文句を言うつもりはない。カーネルの娘であるフィリア様も無事お産まれになり、それで良かったと思う……思っていた」


 皺が刻まれている柔和な顔に、ほんの一瞬だけ怒りの色がない交ぜになったような気がした。


「――カーネルが……殺されるまではな」



 シンと静まりかえっている室内で驚きの色を浮かべているのは、どうやら俺だけだ。他の騎士達は何事もなかったかのように直立不動を貫いている。


「そ、それは……何か証拠はあるのですか?」

「カーネルが……奴が衰弱死など、するはずがないっ! あいつの身体の頑丈さはワシが一番知っておるわ!」


 このオッサン……普段は穏やかだが、カーネルのことになるとやたらと熱くなるな。まあ……それだけ仲が良かったんだろう。


「しかし……それだけの理由で、『殺された』というのは……」

「無論、それだけではない。カーネルが死ぬ少し前……奴から一通の文が届いた」

「何が書かれていたのですか?」


 ドレイク公が軽く目頭を押さえてから、口にした言葉は、ごくごく短いものだった。


《――娘のことをよろしく頼む……守ってやってくれ》


 ……死ぬ間際の人間が、自分の子供のことを頼むのは分かる……が、それを何故ドレイク公に? 何から守るというのか?


「ワシは最初その文の意味を理解できなかった……カーネルが死ぬまでな。あいつが衰弱死と聞いてから秘密裏に調べさせたのだ」

「誰が……カーネル様を?」


 俺の頭の中では、それが誰なのかはおおよそ目星はついている。フィリアが俺の口上のどこに反応を示していたのか、そしてこのドレイク公が先程から向けている怒りの矛先はおそらく――


「「現皇帝――イルミナ」」


 俺と公爵の声が重なり、室内に一人の人物の名前が浮上した。


どうやらジークの早とちり?

まあドレイク公がどういう人物かはまだ分かりませんが。

さて、今後どうなることやら。

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