2-3
「なっ!なんだお前ら!?」
太ったダルマのようなオーナーを前に、鷹が一歩前へ出た。
「どうも。か弱い乙女を助けに来た者ですが」
鷹が紳士的に礼をして、にやりと笑う。
「生徒戦隊孔明ジャー参上!愛依ちゃんは、渡さねーよ?」
「早く三田さんを返してください。先輩方、時間はあまりありませんよ?」
「わーってるって翔ちゃん。鷹、鷲、さっさとやっちまおうぜ?」
「ちゃんづけやめてください」
目の前で繰り広げられる会話に、オーナーの男は混乱しつつもかろうじて残った理性を使って、緊急事態を告げるためのボタンを押した。
「は、はは、これで全従業員がここに集まる。お前らなんてすぐにゴミ箱へ捨ててやる!」
「安い台詞を吐くなよ、オーナー」
剣斗が愛依を保護する間に、鷹が言ってオーナーに向かう。急いで椅子から立ち上がるオーナーの背後を取り、その首を腕で締め上げる。
「安心していいですよ。折りはしません。ちょっと気絶してもらうだけですから」
ギリギリと頸動脈を締め上げ、意識をなくす。やがてオーナーは口からブクブクと泡を吹いて、気絶した。
「さて、ズラかろう」
「そーゆーわけにもいかないみたいだぜ?鷹」
部屋を出ようとした鷹達の耳に、多数の足音が響き渡る。客を帰した店員達が、全員でやってきた。
「しょうがない、みたいな?」
「そらきた」
剣斗が不敵に笑う。
「僕、帰ってもいいですか?」
翔がため息をつく。
「鷲、片付けするぞ。生徒会ルールその一。片付け掃除は全員で」
「りょーかい」
兄にはどうせ敵わないのだ。そして自分は生徒会役員。ならば、その規則に従おう。
「お前らぁっ、何してる!……ぐぼっ」
店員の集団がやってきた。先頭を切ってきた男が殴りかかってくるが、彼はあっけなく剣斗に殴り倒された。口と鼻から血を流して倒れる男を見て、二十人ほどの店員達は慄く。
「聞け!」
そんな店員に追い打ちをかけるように、鷹の声が響く。よく通る声で、周囲の空気を震わせる。
「ここで退けばお前達に危害は加えない。選べ、引くか、進むか」
「お前らみてぇなガキ相手に俺たちが負けるはずねぇだろ!」
一人の男がそういうと、周りもそれに鼓舞されたのか、おおっと声を上げて部屋の中に入ってきた。
「こら、小僧共。あんまり大人をナメるんじゃねーぜ?お前らみたいな不良とはわけが違うんだよ!」
一人がそういうと、生徒会側の動きが止まった。正確には、鷹と剣斗が苦笑いをしている。その様子に気付いた男が、にやりと笑う。
「何だ、怖気づいたか……ごぶっ!」
奇妙な声を上げて、その男は一回転した。いや、一回転させられた。額に血管を浮き上がらせた、鷲の手によって。
「タブーだよ、それ」
鷹がつぶやいた。
「誰が、不良だ?」
「ごばぁっ!」
また一人、鷲の手によって殴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「誰が不良だって聞いてんだコラァッ!」
頭突きを放つ鷲はまるで般若の如く、部屋の中心で暴れた。次々と向かってくる男達に蹴りを食らわせ、その回転を利用して裏拳を叩き込む。膝蹴りで鼻を折り曲げた次は、肘打ちで顎を割る。鷲を取り囲む円は、次第に広がっていった。
「う、うわああああ!」
ついに恐れをなした者が、鷲から逃げた。急いで部屋の外へ走り去っていく。それを皮切りに、店員達は先を争うように部屋から出て行った。すぐに部屋は空っぽになり、伸された男達と生徒会メンバーだけが残った。
「鷲、落ち着け」
「兄貴……」
鷹が肩に手を置くと、鷲は正気に戻った。そして、憤慨したように言った。
「俺のどこが不良なんだよ」
ブツブツと言っている鷲を横目に、鷹がポツリとつぶやいた。
「言動がいけないんだよ」
後日、カジノが潰れたとの情報が入った。オーナー始め従業員たちは全員逮捕され、これで学校の敷地を邪魔するものはなくなった。学校にも平和が戻った。
「さて、生徒総会の打ち合わせを始めますよ」
鷹の声が生徒会室に響いた。




