1-4
鷹と鷲が校舎裏の茂みに隠れて様子をうかがっていると、まず佐竹が現れた。耳と鼻にピアスをつけて、髪はモヒカン。本人は地毛と言い張っているが、確実に茶色く染められている。ちなみに彼はひょっとこのような顔をしており、そのせいかどうかは知らないがいまだに彼女ができたことがない。しかし今はどことなく楽しそうな表情で、流行の曲を口笛で吹いたりしている。
それから三分ほど経つと、今度は柿田が現れた。佐竹と違って髪の色は黒いが、今時珍しいリーゼントにしている。ピアスもしていなしボンタンを穿いていることから、昔気質の不良だと見て取れる。
「あれ、佐竹じゃん」
「おお、柿田。何でこんなとこにいんだよ?」
「いや、オレは、その」
「オレも、何だ、あれだよ」
必死に笑いを堪える鷲を窘めている鷹だが、彼もかなり笑いがこぼれている。
「おい、何か聞こえねぇか?」
「そういえば……」
何か変な音を聞いて辺りを見回す二人の耳に、茂みが動くがさがさっという音がはっきりと聞こえた。そこを見てみれば、何やら金色の剣山のようなものが見えている。明らかに不審だ。
「誰かいんのか!」
佐竹が声を荒らげると、隠れきれないと判断した鷹がその長身を茂みの中から現した。
「お前、高羽の兄貴の方じゃねぇか。何の真似だ?」
凄みを利かせる柿田だが、鷹はまだにやにや笑っている。
「いや、用があるのは俺じゃなくて、こっち」
と言って、茂みの中から金髪の剣山……でなく、鷲を引っ張り出す。
「いや兄貴、聞いてないんだけど!?」
突然の紹介に驚く暇もなく、鷲は二人の前に突き出された。視線が鷲に突き刺さる。
「あー、と。兄貴?」
「柿田、佐竹。お前らは実力もないのにサッカー部でレギュラーの座を陣取って、デカい顔をしている。故にうちのサッカー部は大会でも成績が出せず、監督や部員含め応援団や保護者までもが迷惑している。だからお前らはこれ以上部や学校に迷惑をかけないために、レギュラーの座を降りろ。若しくは真面目に練習に励め。そうすればこの場は見逃そう」
その言葉に、不良二人組の額に血管が浮き出る。
「誰にもの言ってんだテメェ……」
「ってわけで鷲、後よろしく」
「兄貴っ?これはもう……やるしかねぇ感じ?」
鷲が腕をぐるぐると回すと、二人は眉間に皺を寄せてガンを飛ばしてきた。鷲もそれに負けず目に力を入れて睨み返す。
「どうなっても知らねぇぞ、弟」
「俺の名前は弟じゃない、鷲だ」
鷲は自分に向かって走ってくる柿田を見た。鉄板入りの靴で蹴りを放とうとしている。
そんな柿田の蹴りの隙間からカウンターの拳を放つ。見事に柿田の顔面にぶち当たり、彼はそのまま鼻から血を流して倒れた。
「マジかよ……」
その光景を見ていた佐竹は青ざめた。自分よりも喧嘩の強い柿田がワンパンチでやられるところなど初めて見た。
「オイ、同じ目に遭いたくなきゃそいつ連れてとっとと失せろ。二度と悪さするんじゃねー」
佐竹は鷲に睨まれると、びくりと体を震わせて急いで柿田の腕を肩に回して鷲たちに背を向けた。
「あーあ、殴った拳が痛ぇよ。兄貴は自分の手汚してねーし、俺ってなんでこんなに損するんだろ」
はぁ、と溜息をもらす鷲に、鷹は隣を歩きながら弟の肩に手を置いた。
「お前のお陰で事件は一件落着。初仕事ご苦労さん」
「どーも。で、俺が生徒会役員ってことに変わりはないのかな?」
「当たり前だろう。むしろこれで他の役員たちにも胸を張っていられる」
鷲はもう一度ため息を吐き出した。兄には敵わない。
「でも、本当にあんなことしちゃって良かったのかよ?」
「今回のようなケースは稀だ。ああいう場合もある。だが、安心しろ。表ざたにはならないから」
「この学校の裏側って一体……」
鷲はまだ見ぬ学校の裏側に慄きつつも、結局は兄のために身を粉にするのが自分なのだろうということで自身を納得させた。




